2005年9月 7日 from 食材
正直言ってこれは、トレーサビリティに関する本の原稿執筆からの現実逃避である(笑)
さて、オフィスから帰り、秋刀魚の腹にゼリーのような脂が乗ったやつを塩焼きで堪能し、腹がくちくなった後、バジルペーストに取りかかった。
色んな人に「どんなバジルペーストができるのか、楽しみデーッス」と言われたりコメント書いてもらっているが、特別なことはなんにもしません。はっきりいって料理本に載っている作り方と同じ。ただ、分量的には若干違うかな。
僕のペーストは、ナッツ類の分量が多めです。その理由は後述しますが、長年の経験上、自分の目指す味はこれというのを作ってきたので、他の方にはどういうご感想になるかわかりません。なので今回、分量表記はしませんので悪しからず。
さて
まずは、水洗いして汚れを取った後に陰干しして乾燥させた松の実、生カシューナッツ、生ピスタチオの混合体と、ニンニク数片をペーストにする。バジルペーストのナッツは、松の実を使うのが常道だが、カシューは落ち着いた香りと甘み、そして旨さを加えてくれる。ピスタチオはゴージャスな香りだ。なので、松の実3:カシュー3:ピスタチオ1くらいの割合で使うといいだろう。
ナッツ類とニンニクをぶち込んでフードプロセッサーでブン回すのだが、かなり長時間ブン回すので、覚悟が必要である。
ナッツ類は、油脂の塊みたいなものだ。刻んでいると脂が滲み出てくる。刻まれた粒子が互いにくっつき、団子のようになってしまい、なかなか旨く切り刻まれてくれない。だからスプーンで押し込み押し込み磨り潰していく。
この写真の段階ではまだまだ序盤戦である。で、塩を投入。食卓塩とか精製塩とかだと美味しくないので、天然系の塩を使おう。今回は沖縄人であるタクが大量にくれた粟国の塩。塩は強めにしないと美味しくないし保存も利かないのである程度バチッと強めに使おう。あと、この時点で胡椒も多めに挽いて入れておこう。
そして、フードプロセッサの刃の回りをよくするために、バージンオリーブオイルをどぼどぼどぼっと注ぐ。
これでだいぶ回りが良くなる。大体この辺まで細かいぺーすとになったらよしとしよう。
フードプロセッサといえば、クイジナート社のものが有名だ。もちろん僕はそんな高価なのは持っていないが。ハードボイルド小説が好きな人ならR・B・パーカーのスペンサーシリーズを読んでいる人も多いだろう。主人公のスペンサーが料理好きという設定で、細かく料理をするシーンが出てくるので僕も大ファンである。
で、どの物語だったか忘れたが、スペンサーがバジルペーストのスパゲッティを作るシーンがある。菊池光という名訳者によるものなのだが、これが素人には難解だった。なぜならバジルを「メボウキ」と訳し、フードプロセッサを「クイジナート」としていたから、ちんぷんかんぷんだったのだ。「メボウキ」とはバジルの和名だ。バジルのエッセンスは目にいいので、目を綺麗にする=目を掃除する=目の箒(ほうき)という流れでついたらしい。しかし高校生の僕には「クイジナート」はいったい何のことかわからなかった!
「松の実をクイジナートに入れて回した」とか書かれても、なんのこっちゃ?という感じ。後年、合羽橋の料理器具店街で実物を見て納得したのである。
さてこの時点で10分近くかかっているので、フードプロセッサの回転熱と刃で刻まれることにより多量の摩擦熱が発生して、ペーストは生暖かくなっている。これを容器ごと冷蔵庫で急冷する。
ハーブ類は大体そうだが、バジルは熱に弱い。すぐに黒ずみ、香りが飛んでしまうのだ。シェフはこのジェノベーゼを作る時には器具類を全て冷蔵しながらやっている。
その間に、バジルの準備だ。40リットル入りポリ袋の実に4分の1くらいの分量を占める大量のバジルを掴みだし、茎から葉を外していく。葉だけにしたほうが香りの純度が高まるからだ。嫁さんと僕とで台所でじーっと葉を外す。腰が痛くなる、、、
さてフードプロセッサのガラス容器がキンキンに冷えたら、バジルの葉をギュウギュウに押し込んでひたすら回転である。なかなか巧くまざらないので、スプーンで押し込み、オリーブオイルを潤滑油に入れ、ひたすら回す。
なんといっても凄まじい量のバジルが控えているので、どんどん回す。糧食は尽きることがないという感じだ。
ちなみに、すぐにこのジェノベーゼを食べる予定があるなら、チーズを入れた方が旨い。ナッツ類がペーストになったところでパルミジャーノ・レッジャーノのような硬質チーズをぶち込むのである。でも、長期保存をすると必ず腐るので、保存目的の人は入れてはいけない。
数十分の格闘のの地、大型の広口瓶2つに一杯の綺麗なペーストができた。広口瓶に入れ、できるだけ空気の気泡を上から潰し(空気が入っているとそこから悪くなる)、空いた空間をオリーブオイルで満たす。オイルで蓋をし、劣化を防ぐのである。
いやー 疲れた。おかげで深夜2時を回ってしまった、、、
朝、起きた。朝飯はもちろんバジルペーストタップリのパスタしかない!
さて僕のバジルペーストは、ナッツ類の分量が比較的多いので、通常よりドロッとしている。これは、バジリコスパゲティだけで楽しむためではなく、味のペースとして使うことを想定しているからだ。僕がトマトベースのパスタを作る時にはほぼ必ずこのペーストが少しずつ投入されるのだ。従って、ジェノベーゼ単体で使うことはほとんどない。
バジリコのスパゲッティ、美味しいとは思うけど単調な味になってしまいがちなのだ。バジルの香りと旨味タップリのナッツ類は、酸味の強いトマトと合わせた方が引き立つ。それと、邪道かもしれないが仕上げに少しだけ醤油を垂らすと、グルタミン酸が添加されてムチャクチャに美味しくなる。
ということで山形のトマト、練馬の加藤農園のミニトマトを少し加熱した中に太麺のリングィーネを硬めに茹でたのを投入し、醤油を少し垂らした中に、このバジルペーストを大量に投入!じっくりサルターレ(フライパンを煽って麺とソースを絡める)する。
果たして味は?
ふっふっふ
美味しくない訳がない!
バジルの甘くてかつ鋭角的な香りの横から、ナッツ類のコクが滲みだし、そこトマトの酸味、醤油のアミノ酸が絡んで全ての世界が完結する。このゴージャスな味の世界は、リングィーネのような太麺でないと味わいきれない。朝から堪能した!
このペースト、冷蔵でかなりの期間保たせることができる。ただし使い終わったらオイルで蓋をすることを忘れてはいけない。ちょっと目を離すと黴びてしまうから。今年も堪能させていただこう。
それと、何より長島農園のバジルが最高なのである。鮮度の良いバジルをタップリ使える環境にある人は、作っておいた方がなにかと便利なのである。
以上、年中行事終了。さて原稿にとりかかろう。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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