2005年8月18日 from 食材
巾着ナスと共に最近僕が開眼させられたのは、「蒸かし茄子」という料理法だ。
とはいってもナスを蒸かしただけなのだけれども、関東近縁ではあまり馴染みがない食べ方だと思う。半割にしたナスを竹串がスッとささるくらいに蒸して、カラシ醤油かショウガ醤油で食べる。これだけなのに異様に美味しい。美味しいというか、ナスの本来的な味を表現できる最上の食べ方かも知れない。
新潟だけの食べ方かと思ったら、コメントでいくつか他地域の読者さんからの報告もあった。そして先日、週刊アスキーの取材で長野に行った際に立ち寄った蕎麦屋でも、この蒸かし茄子を「冷やし丸ナス」として出しているのを見た時は狂喜してしまった。おそらく甲信越一帯で食べられているんだろう。
これが長野駅前の油屋という蕎麦屋のつまみで出てきた冷やし丸ナスだ。カラシと醤油で食べるところも全く同じである。皮はまだらに剥いているのだろう。皮付き部分と皮なしとが混在している。
冷やしているので肉質がツルリと楽しめる。アクをしっかり抜いているようで、味は淡かった。
そう、蒸しナスはダイレクトに味が出るので、ナスのアクがイコール味になって表現される傾向にあると思う。アクこそが味なのだ。だから、今回のテイスティングはどれもあく抜きをしていない。割ってそのまま調理をしているのである。
■蒸かし茄子
とりあえず全種類のナスを蒸かし茄子にしてみた。もうおびただしい量になるので一つ一つの画像は掲載しないが、すべて全く違う個性が出る結果になった。蒸かし茄子にして美味しいと思えるのは、大玉に成長したナスだ。これは食感に負うところが大きい。小さいナスはまだ引き締まりすぎていて、生食にはいいが、加熱した際の細かい繊維のフカフカ感が感じられないのだ。
蒸かし茄子で最もその能力を発揮するのは、予想通りの巾着ナスと、そして賀茂ナスであった。
巾着ナスについては以前のエントリで書いているので繰り返す必要もないが、賀茂ナスとの対比が非常に面白かった!
田鶴さんの賀茂ナスのポテンシャルは極めて高いな、と今回は思い知らされたのだ。蒸かし茄子にした賀茂ナスは、何もつけなくても甘味がありとろける食感がする。色気が強く、かつ高貴と思える香りを感じ、万人が美味しいと思える総合的な味なのだ!一緒に食べた家人は「肉を食べてるみたい」と評していたが、まさにそう言う感じだった。
それに対して巾着ナスだが、これはもう改めて個性の塊である。
本当にこれは地野菜なのだな、と強く印象づけられたのだ!まず断面をみて欲しいのだが、上が巾着茄子、下が賀茂茄子の断面だ。
巾着茄子の方は、種の入っている子室が極めて細かく多いのが見て取れるだろう。子室数は植物学的には種子量に関係すると思うのだけど、食味から言えばトロリと甘い部分が極めて多くなるということに繋がると思う。堅く引き締まった京都の山科茄子を割って食べてみると、この種の周りの子室部分が最も甘みがあるのだ。
巾着茄子の蒸し茄子は、まず食感が非常に強い。最初から堅く引き締まっているので、煮物などにはあまり向かないといわれるとおりだ。しかしそれが、蒸かし茄子にすると丁度良い食感となる。通常の千両茄子などを蒸かしても、とろけてしまって食感を楽しむことは出来ないだろう。しかし巾着茄子の堅く締まった果肉は、蒸かした時に丁度よい歯触りになるようになっているのだ!
そして巾着は、非常に複雑な味わいがある。クセがあると言ってもいい。そのクセは、アクの強さから出るものだろう。感じられるのは賀茂茄子のような甘さではない。土壌ミネラルが様々な味わいに昇華した、複雑な旨味成分が感じられるのだ。僕は想像する、新潟の厳しい冬と引き締まった土壌を。長い冬の間、土壌に蓄えられる地力を吸い込んだ土壌で育つ茄子が、その地域特性を果実に反映するのだろう。
とにかくこの蒸し茄子特性、賀茂茄子はトロリととろける肉質に万人受けする綺麗な味。巾着茄子は引き締まった果肉と、郷土性を強く感じる複雑な旨味。どちらも魅惑的な性質だ。ぜひ食べ比べをしてみて欲しい。(残念ながら賀茂茄子の時期は終わってしまっているが。巾着茄子はまだ食べられるはずだ。こちらをご参照)
さて次は「揚げ」である。
(続く)
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