2005年7月11日 from 出張
金曜日は、宮崎出張だった。西都市の農業者さん達に、今後の農業と主にマーケティングの話をするのである。空港につくと、雨は降っていないものの、少しムアッとした空気が流れていた。
「アニキ!ようこそ!」
と、農協職員で弟分の沼口君が迎えに来てくれている。先日宮崎マンゴーのエントリでも出てきた、196センチの空手猛者にして温和な最高にイイ男である。そういえばマンゴーかなり好評のようですね、コメントありがとうございます!マンゴー、そろそろ時期が終了しますが、まだ間に合うみたいですよ。
日経MJ誌の反響や問い合わせが僕のPHSメールにひっきりなしに転送されて来る中、まずは飯参りである!せっかくだから、僕の「全国出張食い倒れガイド」に掲載させてもらった店に挨拶に伺いたいのである。
「まずは一平だな!」
一平寿司は、もう重ねて言うまでもない、レタスと海老とマヨネーズを巻いた海苔巻き「レタス巻き」の元祖である。朝一番で仕込んだ自家製マヨネーズを味つけに、プリップリの海老とシャクシャクしたレタスを海苔巻きにしたその味は、他店の追随を許さぬ完璧な味付けなのである。
一平寿司は、市内の宮崎観光ホテルのすぐ近くにある、本当に市井の一大衆寿司店という風情である。
僕の本を読んでくれた人はもうご存じの通り、この店のスピリットは「大衆店」。
「うちは高級店なんかぜったいに目指しませんよ!子供が500円玉握って食べに来ても、うちは出して上げる。そんな大衆店を守り続けたいんです。」
という、徹底したお客さま志向なのだ。宮崎に来たらとにかく食べに来なければならない店の筆頭である。
さて事前になにも連絡をしていないが、開店直後の11時過ぎに、ガラッと店の引き戸を開ける。
「いらっしゃいま、、、あ!どうも!」
お店の中にいる職人さん、おかみさん達が笑って迎えてくれた。
「あんらまぁ、いい本書いて下さってありがとうございましたぁ、うふふふふふ」
と名物女将さんが言ってくれる。店主の村岡さんはまだ出てきていないということだったが、先にレタス巻きを食べさせて頂くことにした。
レタス巻きを食べる際の注意だが、もし可能であれば(空いていれば)カウンターで頂くことだ。そして、巻いてくれるはしから、手渡しでレタス巻きを受けとって醤油につけ、いただくことである。通常レタス巻きは包丁で二分して盛られてくるのだが、実は二分しないほうが、ノリのパリ感を感じることができるのである。しかしその醍醐味を味わうためには、カウンターから直接もらってすぐさま食べないと、ノリのパリ感自体が飛んでしまうのである。
ネタケースには充実したネタ類がギッシリと入っているが、主役は海老である!
この茹で上げられたまるまる肥った天然海老は、すべてレタス巻き仕様なのである!
そしてこちらがしゃっきりと吸水蘇生したレタスだ!
これらを、店主の村岡さんとツートップの職人さんが巻いていく。実は彼も村岡さんの親戚でこの店ですでに30年のキャリアだそうである。
一日に多い時では1000本以上出るというレタス巻きを、とにかく素早く出していかなければならない。レタス巻きを巻く人と、握りを造る人は別で立つというのがこの店のスタイルだ。何故かと言えば、レタス巻きをやると手に海苔の粉が付くので、握れないのだそうである。
海老、レタス、そして毎日仕込む特製マヨネーズを、目にもとまらぬ早さで巻き込んで完成だ!
↑これが「手渡しレタス巻き」である!包丁をいれずにそのまま手で渡してもらうのが大吉!
これを甘めの醤油につける。
「うちのレタス巻きは甘めの醤油につけて食べるように味を設定していますから、かならず醤油をつけてください!」
ということなのだ、こだわりの味は全てコンセプトメイキングされているのである!さてこれをがぶりと半分くらいかじる!海苔のパリリという音と、レタスのシャックリ感と海老のプリプリ、そして中に仕込まれたマヨネーズがニュルリと舌に滑らかに飛び出してきて、油脂の旨さと淡い酸味を拡げる。酢飯の香りと相まって、これらが渾然一体に音を立てながら混ざり合うのだ!
「ううううううううううううううううううう~ん、旨い!やっぱりこれだよなぁ、、、もう8人前くらい巻き続けて下さい!」
ここから怒濤のレタス巻き攻撃である。10本近く食べただろうか、、、
断面写真も撮りまくりである。そういえばみんな、僕がどういう写真の撮り方をしているか知らないだろう。最近は一眼レフのデジカメも多用しているが、こんな風にして採っている。
おそらく一眼レフをこんなふうに片手撮りするのはいけないというか良くない例なんだけど、、、こんなことをお店でやっているのである。
レタス巻きばかりではない、これは玉子巻きである。
子供用に出してみたら、オトナにも受けが良く、定番になったというこの玉子巻き、やはりマヨネーズで巻いているのだが、トロリとしたマヨと甘くふっくらした卵焼きが相性抜群で実に旨い!
「はいよバッテラ!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
俺はサバが大好きなのである!
実はこの一平寿司、サバには無着苦茶こだわっているのだ。
「うちのはね、長崎のある漁港で、年間通じて一番いい時期にあがったサバを全部現地で捌いて、塩をして-60度で瞬間冷凍して押さえてしまうんです。ですから、一年通じて旨いのを食べて頂けるんですよ!戻し方も、酢〆の塩梅も全て計算しています。うちのサバは本当に旨いですよ!」
と村岡さんが言っていた通りのものなのである。
実はこの日はベストタイミングで、昨日まではいい型のサバの無い時期が続いていて、出していなかったんだそうである。それが、新しい取引先の、素晴らしい品質のが見つかったと言うことだったのだ!
みよ、この分厚いサバの身を!しかも肉厚だがとても柔らかい!
「脂が乗りまくってるんですよ!」
マジでスゴイ!言うまでもなく、サバ臭さなぞ一片もない!しかもこの店のバッテラは、サバのみの上に薄い昆布を載せるのだが、その間にレモン片を入れるのだ。このレモンがサッパリとさせ、いい味に決まるのダ!
「やまけんさん、コレ食べて下さい!」
と言って出てきたのは、この店の名物「カニ汁」だ!
大型のワタリガニが丸ごと一杯入っている!この写真の縮尺がわからないだろうか?こんな椀に一杯なのである!
取材の時に訊いたのだが、なんと、
「このカニ汁も、最初は一杯で300円だったのを、10数年前に500円にしてからは、お客さまに申し訳なくて値上げしていません」
なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
これで500円? それはオカシイ値段ですよ、、、本当にびびるよ!このカニの大きさと美味しさを観たら、、、
しかもカニの足には割目が入れてあり、きちんと身を食べやすい配慮がなされているのだ。本当に隅から隅までお客さま志向なのだ、この店は。
と、感動していると当主・村岡さん登場!タリーズコーヒーの九州FC第一号を宮崎の目抜き通りに出店した、優秀な若手経営者でもある彼である!
「いやぁ やまけんさんのあの本、最高ですよ!みんなで喜んでます。こんどぜひ、一緒になにか宮崎の美味しいものを世に出す企画をやりませんか!?」
そう、村岡さん、かなり色んなアイデアを持っていた。本格的に何か一緒にやりたいと、思わせる人である。
レタス巻き10数本、玉子巻き、ヨコワ(マグロの子供)の握り、バッテラ、そして圧倒のカニ汁を食べて、もう腹一杯である!
暖かく店の方々に見送られながら、12時を過ぎて大混雑の呈をなしてきた店を後にする。宮崎の旅情はとにかく厚いのであった。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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