越冬ジャガイモは旨い!十勝の漁師・近江さんからインカのめざめが送られてきた。

2005年4月 4日 from 食材

あるネタを書きたい書きたいと思っているところに、絶妙なタイミングですばらしい贈り物をいただいた。それは、ジャガイモである。ジャガイモといってもただの芋ではない。越冬貯蔵したジャガイモなのである。

越冬したジャガイモの何がよいかということだが、それはもうである。おそらく一般の方からすれば、農産物とくに野菜・くだものは、とれたて新鮮な状態が一番美味しいと感じられるだろう。しかし、とれたてよりも、一定の条件下で貯蔵をして熟成させたものの方が美味しくなるものもある。例えば柑橘の文旦(ぶんたん)、伊予柑などは、もぎたては酸が強いため、土で室(ムロ)を作ったりして、その中でしばらく熟成させることが多い。これにより味がまろやかで香気を放つようになるのだ。最近では雪国の貯蔵キャベツもテレビで紹介されていた。

で、それらとは理屈が違うのだが、ジャガイモも貯蔵したほうが美味しくなる。おそらく感覚的には「新じゃが」の方が美味しそうと思われるだろう。無論、ほりたての芋はフレッシュで美味しいそのままフライドポテトにしても、焦げることもなく綺麗に美味しく揚がる。

しかし、実は堀たてよりも、低温で熟成しておいたほうが美味しくなる。家庭菜園などやっている人はご存じだろうが、サツマイモは収穫後、かげ干しをすることで糖度が上がって美味しくなる。これは、芋の中のでん粉が糖化するからである。つまり甘く、深い味わいになるのだ。よく掘りたてのサツマイモを焼き芋にしているのをみかけるが、あれでは味が乗っていない。それと同じで、ジャガイモも熟成した方が美味しいのである。ただ、「甘い芋は嫌いだ」という方にとっては美味しいとは言えないかも知れないが、それはまあよしとしてください。

ジャガイモを熟成させる方法は簡単だ。まず、もし菜園などで自分で作っている場合は、地上部が黄色くなり、カラカラに枯れる(自然枯凋という)まで待ってから収穫した方がいい。その状態で食べると、それだけでもただの新じゃがより美味しいが、まだもう一段熟成させた方が旨いということもある。大きな野菜庫がないと厳しいが、黒いビニールか新聞紙にジャガイモを包んで完全に遮光し、野菜庫に1ヶ月ほど放り込んでおこう。こうすることで否応もなく芋の体中で糖化酵素が働き、甘くなる。びっくりすること請け合いだ。

じゃあ、すべてのジャガイモを熟成させりゃいいじゃん!と思うかもしれないが、農産物というものは、貯蔵するとそれだけリスクも高まるものだ。まず大型の冷蔵庫スペースの費用と、貯蔵期間分の電気代が発生する。そうして熟成を始めても、途中で腐るものもあれば、水分が抜けてスポンジのようになってしまうものもある。半年貯蔵した時の歩留まりはせいぜい8~7割くらいだろう。したがって貯蔵した芋は通常より高く売れないとペイしないが、小売店等で「貯蔵芋だから」といって高く売られているのを観たことがあるだろうか?日本の小売店では、そういうことまで気を回してくれないのが通常なので、期待できない。そういうことで、ジャガイモ販売業者はなかなかに大変なのである。


さて、それはともかく本題に戻ろう。
届いたのは、過去ログでもさんざん書いた「インカのめざめ」である。

■じゃがいも三種のテイスティングhttp://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000081.html

「めざめ」は栗のような、甘さとナッツのような香りで最近有名になった品種だ。ただ、この芋、生産者そして流通業者にとっては致命的な性質がある。それは、貯蔵が難しいのだ。インカの目覚めは、通常の芋よりも芽がでるのが早い。買ってすぐ先述のように冷蔵しないと、芽がスルスルと出てきてしまうのである。

「でもね、そのリスクを背負ってでも、旨い『インカのめざめ』をお届けしたいんですよ!」

と言うのが、ししゃも漁師の近江さんだ。



■北の国からホンモノのシシャモが来る!川魚のような繊細な香りにすぐさま降参しました!
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000510.html

そう、浦幌(うらほろ)の荒波の中、本物のししゃもを獲り、ネット上ですぐさま完売してしまう凄腕ネット漁師、近江さんである。あのししゃも、本当に旨かった!

その近江さんが熱を入れて、越冬インカのめざめの旨さを語っていたのだ!僕が「越冬旨いですよね」と言うと、目を輝かせて「でしょ?送りますから!」と仰っていた。それを律儀にも覚えて頂いていたようで、このたび新居に届いたのである。

インカの目覚めとレッドムーンという紅いもの二種が届いたのだが、とりあえずインカを食べることにした。

ちなみにインカもけっこうみてきたが、生産者の技量がわかる立派な芋で、いい型が揃っている。これを味わうわけだが、まずはやはり素のままが一番いい。ダッチオーブンのフライパンであるスキレットを用いて、皮付きのまま洗っただけのインカのめざめを弱火で蒸し焼きする。スキレットの蓋をすると、中が真空状態になって、素材の水分だけで焼くことが出来るのである。

さて20分ほどで火が通る。割ると食欲をそそる、綺麗な黄色の果肉だ。

この断面をみただけでは、サツマイモと勘違いする人も出てくるだろうと思うが、これはれっきとしたジャガイモなのである。

さて、何もつけないで食べてみようと一口頬張ってみた。

ん!

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

これは甘いぃいいいいいいいいいいいいいい~

凄まじく甘い! ビックリした! 甘みの乗ったサツマイモと同等の糖度ではないだろうか。しかしながら食感は、じゃっかん粉質系のホクホク感。これは旨いねぇ!

いや、本当にびっくりである。兄弟分の工藤ちゃんも来ていたので食べてもらったが、ビックリしていた。

「あ、甘くて旨いですねぇ、、、これ本当にジャガイモ?」

ジャガイモなのである。
甘いだけではなく風味がきちんとあるのがこのインカの越冬芋の偉いところだろう。いや、近江さん、素晴らしいです。よくぞあなたは、、、

ということで、食い倒れ日記的にはこの近江さんのWebを大推薦したい!!!

、、、と思ったのだが、、、

いま確認したら、すでにこの芋、売り切れではないか!

■幻の逸品やさん ~越冬じゃがのスウィーツin代官山~
http://www.rakuten.co.jp/shishamo/689284/

なんだなんだなんだ、、、
でもそれをみてまた僕は感動してしまった。
近江さん、僕に送ってくれたのは、宣伝してくれとかいうことではなく、本当にご好意以外の何ものでもなかったわけだ。

近江さん、しかと味わいました。あなたは正しい!越冬インカ、最高である。来年は買います。

十勝の農業者である十勝やっちにもぜひ来年は越冬ジャガイモをやって欲しいな!

ところで、ジャガイモ先進地帯であるヨーロッパでは、ジャガイモは日本のような粗雑な扱いは受けていない。まず、ジャガイモの保存で最も気をつけるべきことは日光を遮ることだ。日光を受けるとそこが緑変し、味も落ちてしまう。ヨーロッパでは黒ビニールに包んで売っているスーパーがけっこうあるということだ(みたことはないけど)。

日本におけるジャガイモの位置づけがあがりますように。

ちなみに、今回書いた内容とは全く趣旨が違うけど、菜園家向けの雑誌「やさい畑」の2004年冬号では、「じゃがいも13種食べ比べ」記事を僕が手がけさせて頂いている。ご関心あれば読んでくださいね。最近、著名な野菜の勉強会でもこの「やさい畑」の記事が参考資料として使われているらしい。嬉しいもんです。


やさい畑 2004年冬号
家の光協会 刊

久々に、食材ネタでした。

※設定を間違えていつもよりデカイ画像サイズになってしまったけど、めんどいのでこのまんまアップ。