陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記 イタリア家庭料理の本道・マンマの味を堪能した。

2005年1月31日 from

イタリアに来て切望していたのは、家庭での食事をいただくことである。キーコ(重シェフ)はすでにそんなのは関心がないだろうけど、毎日リストランテやトラットリアにいくよりも、地元の人が食べているものを味わってみたい。

「まぁ はっきり言ってシチリア料理ってのはいい加減だよ。そのいい加減さがまた良くもあり悪くもあるんだけどね。素材に味があって旨いから、切って焼くか煮るかして、塩振るだけで旨いんだもん。そこに大粒ケッパーの塩漬けやオリーブ塩漬けを合わせればシチリアの味になるから、もう反則だろって感じなんだよねぇ。
でも、それを日本でやっても全然お客さんには受け入れられないんだ。一回くらいはいいけど、日本のレストランで毎回食べたい味か?というと難しい。だから、俺が作る料理はシチリア料理がベースになってるけど、もっと複雑なことをしてるんだよ。だいたいシチリアではあまり羊とか食べないしね。」

キーコのこの言葉は夜ごとに立証されるのだが、そのいい加減さというか、通常の食卓がどうなっているかというのには非常に興味がある。で、パスクワリーノは料理人だから通常の食卓というにはあてはまらないのだけど、彼の家で食事をお呼ばれすることになったのだ!

「今、パスクワリーノはマンマと二人暮らしなんだよ。マンマは90歳くらいになるから、元気かどうか心配だなぁ。」(byキーコ)

イタリアの男はみんなマザコンだと云うが、ほんとなんだろうか、楽しみである。

さてアパートというのかマンションというのか、シラクーサの町中の一角にある二階の部屋に通された。

ドアを開けると90歳とは思えぬかくしゃくとした足取りのマンマが「おお、キーコ!」と出迎え、抱きしめ、両の頬にキスをしてくれる。

パスクワリーノが昼食の準備をしてくれている間に部屋でくつろぐ。マンマが「寒いのよ、今年は」を連発。本当にイタリアの冬は寒い!日本で何かのサイトを調べたら18度くらいあるということだったのでジャケット一枚で来たが、洒落にならない寒さだ。今年は特別に寒いらしい。こんなところにも超異常気象が影を落としている。


食事を待つ間、キーコが家族の写真をマンマに見せている。ちなみにキーコの娘さん二人は非常に可愛い!この写真をみたパスクワリーノは、

「キーコの嫁さんはヴェッラ(綺麗)!子供達はヴェリッシモ(←綺麗の最上級)!でもろくに連絡よ寄越さないキーコはブルット(←最低)!」

と叫んでいたという(笑)

さて今日の食事は豚料理だ。有名な豚料理の店にいくと昨晩告げたら、パスクワリーノとロベルトが「そんなとこ行くな行くな」と言っていたのだが、自分で作ってくれたというわけだ。

厨房を覗くと、ドロリと赤暗い肉の煮込み(スーゴ)が鍋に入っている。

「スーゴ・デ・マンマ!」(マンマの煮込みだぞ!)

とパスクワリーノがニヤッとする。こちらではお馴染みのサルシッチャ(豚の腸詰め)と豚の塊肉が入っている。

赤く色づいたオイルの層が1センチ近くある。すでに4時間くらいは煮込んでいる感じだ。

「これをマカロニにかけるのよ!」とマンマがニッコリする。

その横では、パスクワリーノが小麦粉を豚肉の薄切りにまぶして、オイルを敷いたフライパンに投入している。

ちなみに当然ながらこちらの小麦粉はセモリナ粉だ。硬質の粉なのでバリッと焼き上がり、味が強くて旨い!

さて、完成!「ボナペティート!」と声をあげてしまう。

シチリア名物のねじりマカロニにスーゴの煮汁だけをまぶして吸わせたのがこれだ。これを皿に取り、鍋の中の煮汁をまた上から少しかけ、ペコリーノチーズの粉末をひとつまみかける。

これが伝統的家庭料理だ!

「こうやって煮込みのソースをパスタにまぶして、肉そのものはセコンドとして食べるってのがスタンダードな食事だね。理に適ってるよ。セコンドはちょっとで済むようにパスタを先に腹一杯食べておくって感じかな。」byキーコ


どうだこの旨そうなパスタ!
フォークに三本突き刺して頬張ると、モチモチとした感触と、マカロニによく染みこんだスーゴの深い旨味、ペコリーノの香りと塩気があふれ出して旨い!
「うわああああ すっげえ旨いじゃん!」

と声をあげるとマンマが嬉しそうに笑う。まじでこの一皿は最高だった!

次に、スーゴの中身が皿にあけられる。

豚もサルシッチャもコテコテに煮込まれているけど、美味しい!一緒に入っているパタータ(じゃがいも)も味がしっかりしていて香りがあって旨い。

「お前達が豚を食べたいって言うから、もう一品作ったぞ!」

とパスクワリーノが鍋を持ってきてくれる。

豚にセモリナ粉をはたいてソテーしたものに、フンギ(キノコ)と白ワインを合わせて軽く煮たものだそうだ。

タマネギとフンギのまったりした旨さが豚にからんでいる。リストランテで食べるようなものではないと思うけど、イタリア版・豚のショウガ焼きみたいな感じで、とっても美味しい。付け合わせはラディッキオ。日本ではみな食べずに残してしまうが、この赤くて苦い葉物野菜は、熱を通すと本当に旨いのだ!
「旨いよパスクワリーノ!」

を連発すると「まあな、当たり前だ」というように頷いてくれる。

そうそう マンマは時折「手が冷たいのよ」といってパスクワリーノの分厚い手に自分の手を重ねて暖を取っていた。その時マンマをいたわるように見つめたパスクワリーノの眼をみて、イタリアの男は全員マザコンかもしれないが、それはマンマが息子を愛するからではないだろうか、と思ったのであった。

シチリアの家庭の昼餉は愛おしく過ぎていったのだ。

(続く)