2005年1月31日 from
シラクーサの中心部にはいくつかのメルカートがあるのだが、その内の賑わっている方へパスクワリーノが連れて行ってくれる。ここでも知り合いの店に入っていき、僕らのためにいろいろと世話を焼いてくれるパスクワリーノだった。
「ケンズィ!(←なぜか彼は「ケンジ」と発音できない) ここは生け簀のある魚屋でな、最高なんだぞ!」
生け簀の中には海老、鰻、貝類がミッシリと詰まっている。
驚いたのは貝類の豊富さだ。アサリとハマグリだけではなく、マテ貝や名前の分からない貝類がいっぱいある。パスクワリーノはそれをつまみ上げてはナイフで口を切り開け、「ケンズィ、食え!」と差し出すのだ。
これはマテ貝。ご覧の通り砂がたくさんついているが「ノンチャ・プロブレマ!(大丈夫だって)」というのでそのまま啜りこむ。
「旨い!」
海水の塩分でほどよい塩味のついた生貝は甘くて旨くて素晴らしいものだった!僕は旨かった場合は顔に出るので、パスクワリーノもつぎつぎと貝をこじ開け出す。おいおいいいのかよ、そんなに、、、という感じだ。
重ちゃんも「知らないぞ、生の貝なんて腹壊しても、、、」などと怖いことをいうが、結局腹は大丈夫だった。
魚屋を出てシラクーサの中心街に車を止める。港からみるイオニア海は青く美しかった!
しかしパスクワリーノは名優というかなんというか、僕がデジカメを取り出すとすぐにこちらに目線を合わせる(笑)
それだけならいいが、撮ろうとすると「ちょっとまて!」と制して「こっちから撮れ!」とアングルを指示したり、被写体に手を加えたりして大変だ!まさしくシラクーサはパスクワリーノの世界である。
「俺がよく菓子を食べに来ていたバールにいこう」
と重ちゃんがいう。
ところで、重シェフは名をヤスヒコというが、イタリア人には発音が難しいらしい。そこで短縮して「ヒコ」と言わせるが、Hは発音しないので、なぜか「キーコ」になってしまう。ということで、重シェフは「キーコ」という名称で通ることになっているのであった。「おお、キーコ!」と色んなところで迎えられる重ちゃんであった。
「このバールのアランチーナ(イタリア風のライスコロッケ)が旨いんだよ!」
というとパスクワリーノが店主に、僕たちを紹介してくれる。カウンターに中に入って写真を撮れ!という感じで、もうフリーパスである。
そういえば僕のことは「ジョルナリスタ(ジャーナリスト)」と紹介してくれたので、かなり待遇がよかった。そう、取材には丁重にもてなすのが彼らの流儀なのだ。週刊アスキーの僕が書いた号を持っていったので助かった(笑)
さてこの店のアランチーナ、実に旨い!割ると中にはチーズとミートソースが入っているのだが、それを包んでいる、スープで炊いたリゾ(米)が最高!
さてメルカートに入っていく。冬であまり野菜が豊富でないと言うが、僕には十分だ。
ブロッコリやホウレンソウ、人参が中心で、日本の冬野菜と同じようなラインナップだ。南イタリアといっても、今は冬で寒い。ていうか日本より寒い感じがする。キーコによれば「こっちは路面や家が全部石だからさ。下から冷えるんだよ。」と言うが本当だ。ヘタをすると日本より寒いかもしれないのだ。
さてメルカートを歩くと、パスクワリーノの顔を知っている売り子がやたらと声をかけてくる。長くオーナーシェフで店を営んでいたわけだから、顔になっているのも当然だ。こちらはポモドーロ・セッコ(ドライトマト)売りの爺さん。
朝にもみたアランチャ(オレンジ)だ。2月の後半になったほうがもっと旨くなるらしい。1キロで0.5ユーロは無茶苦茶に安いな。
シチリア料理で重要な役割を果たすペペローニ(ピーマン)はおしなべてデカイ。色もまだらになっているが、買う側にとっては全然関係ないらしいので、生産者は楽だろう。「こっちのペペローニは甘くない品種だから、料理に使える。日本で手にはいるのはだいたいが甘いのばっかりだから使いにくいんだよ。」とのことだ。
これはフィノッキオ(ウイキョウ)のセルバティコ(野生種)だ。フィノッキオ自体日本ではあまり観られないが、その野生種を売っているのをみられるのは嬉しい!
「普通のフィノッキオは根本をパリパリと食べるけど、セルバティコは葉の部分だけを使うんだよ。イワシのパスタやる時に使うと最高なんだよね。」(byキーコ)
ちなみにパスクワリーノは野菜は嫌いで肉大好きなヤツなのだが、フィノッキオだけは例外的に大好きらしく、弟のロベルトがやっているリストランテ「ヨニコ」でもいつもポリポリと食べていた。
さてイタリアの野菜といえばポモドーロ(トマト)だ。
メルカート中を見たところ、ざっと10品種くらいのポモドーロが並んでいた。日本でもみられる大玉、房つきの中玉、ミニ、そのそれぞれに縦長の品種、そしてクシャクシャしわの寄った品種などがある。写真を見てお分かりの通り、すべて完熟してはいない。
野菜を巡る誤解がこの世には多々あるのだが、完熟トマトが旨いというのも一つの神話だろう。僕は、まだ青みが残ったトマトの方が香りが強くて旨いと思う。完熟すると酸味などの甘さ以外の特性が後退し、アタックの弱い味と香りになりがちなのだ。その点、イタリアのメルカートは「さすがイタリア、分かってるじゃん!」という感じである。総じて酸が強く僕好みの味で旨かった。
ホウレンソウは冬らしく縮み上がっている。
日本のように大きくしないで雑に切っている。これなら収穫するの楽だな、、、葉物は収穫作業が大変なのだ。しかし、ホウレンソウは実は30センチ以上の長さになったほうが味が乗るので、これだとなぁ、という感じ。
後日、キーコが働いていたホテルの厨房で目にするのだが、こちらではホウレンソウはクタクタに茹で上げてしまう。日本のようにシャクシャク感が微妙に残るデリケートな茹で方など眼中にないのだ。はっきり言って旨くはない。だからまあ関係ないんだろうな。
さて パスクワリーノが仲良くしているらしいこのおっちゃんの露店では、オリーブのマリネを味見する。こっちに来て一番驚いたのは、オリーブの味だ。フレッシュで香りが強く、オイリーで旨い!日本ではオリーブが出ても、なんだかくにゃくにゃした食感で旨いと思わないが、こちらのは明らかに「生!」という感じなのだ。
「輸出用のオリーブの多くは加熱処理されてしまうんだよ、何でか知らないけどね。だからフレッシュとは別物と思った方が良いね、、、うちの店(無二路)では良いオリーブ使ってるんだけど、お客さんは残しちゃうんだよね。何でだろ。知らないんだよねみんな、、、旨いのに、、、」
そう、旨いんです。みんな残さぬように!
露天ではなく店を構えて乾物類を売っている店では、ポモドーロのエストラッド(濃縮ペースト)を舐めさせてもらう。旨いトマトが採れるということでつとに著名なパッキーノ産のトマトを、しかも天日で濃縮したものだという。
これが深みとコクのある味で実に旨い!キーコとコバも驚いている。
「こいつをラグーに入れるだけで、全然違う深い味になるんだよ!これは何キロか買っていこう!」
店のおっちゃんが「味噌じゃないよ」と笑いながら言うのを3キロほど購入したキーコであった。皆さん、無二路にこのエストラッドがあるうちに、ラグーの料理を食べに行くことをお奨めする。すぐに終わっちゃうよ3キロなんて、、、
しかし市場のおっさんどもの顔というのは、どの国も一緒だな。これはペシェ(魚)を商うおっちゃんだが、絶対に築地にも居そうである。
そういえば築地の青果市場で有名なタカハシさんという方がいらっしゃるのだが、彼が中国の市場を見学に行った時の逸話が振るっている。向こうの市場のオッサンと、言葉が通じないはずなのにすぐに仲良くなってしまい、肩を組んで市場内をうろついて談笑いたというのだ。まあ、同じ空気・匂いがあるんだろうな。実は僕もかなりメルカートの人たちと仲良くなった。キーコやコバは「クッチーナ・ポコ?(料理人か?)」と訊かれていたのに、僕の姿を見ると例外なくニヤっと笑って「こいつはよく食べそうだな」と言うようなことを言われるらしい。キーコが「料理のジョルナリスト(記者)だ」と言うと「やっぱりな」と喜んで色んなものを食べさせてくれた。そういう空気が常に出続けるように頑張ろうと思った。
メルカートで最後にみたのはチーズ屋だ。
彼は有名なリコッタチーズの職人だそうで、自分のリコッタの立派なパンフレットまで作っていた。シチリア名物のカッチョカバロというチーズとオリーブをパニーニに挟んだものを食べさせてくれたが、クセがあまりない割に濃厚な味で、かなり旨かった。
「うーん今度来た時はぜひリコッタを作ってるところを観たいなぁ、、、日本ではシチリアみたいなリコッタができないんだもん。自分で作っても良いくらいだけどなぁ、、、」
キーコには課題がたくさんできたようである。いやしかしメルカートはやはりいい!僕には最高な場所だ、、、
「よーしじゃあ昼飯に行こうか!」
イタリアの昼飯は2時くらいからゆっくりととられる。そしてこの日はなんと、パスクワリーノの自宅にて、シェフが作る家庭料理という贅沢な昼なのである。
(続く)
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