山形・白鷹町に「まあどんな会」を訪ねに行った! その4 佐藤家での山形流酒宴を心ゆくまで堪能した!

2005年1月22日 from 出張

「さあ ここが佐藤さんちだぁ」

辺りはもう暗くなり、雪もちらちらと降っていて、何がどうなっているか分からないのだけれど、佐藤家が立派に大きな一軒家であることはわかった。駐車スペースには、凍結しないようにパイプで引っ張った水が絶え間なくチョロチョロと流れている。これはなんと湧き水なのだそうだ!これも雪国の知恵だなぁ、、、しかし、本当に寒い!完全に氷点下である。

「ああ、いらっしゃい!」

佐藤さんやまあどんな会のみんなに迎え入れられ、あたたかな座敷に通して頂く。さっきまで加工場で一緒だった、沼沢かよこさん、沼沢ゆみさん、土谷みちよさん、竹田いちこさん、そして高田まさおさん、そして佐藤さんの夫君だだ。


さて卓上には、山形のいろいろな旨いもんが並んでいる!

色とりどりの漬け物類、煮しめ、白菜の朝鮮漬け、そして山形の味覚である「芋煮」!

「ぜーんぶ、私らが造ったものですよぉ!」


このカラフルな漬け物は、大根ではなくヤーコンという根菜(芋類に分類されることが多い)で、何とも言えぬシャクッとした歯触りと涼やかな甘みが楽しい。漬け物だ。梅酢漬け、奈良漬け、ぬか漬けだ。青菜はその名も「青菜」と書いて「せいさい」と読む、山形特有の漬け菜だ。この青菜漬け(せいさいづけ)が、やたら滅法旨いのだ!

そして今回販売するセットにいれる「やたら漬け」あらため「まあどんな漬け」。これは完全にご飯の友!

もちろん山菜もどどーんと並ぶ!

「やまけんさん、これはね、『こしあぶら』っていう山菜なのよぉ」

というのだが、ワラビやキノコが大量に入っているから、どれがその『こしあぶら』本体なのだかわからない!

「あのね、この緑色の、細いくしゃっとしたのがね、こしあぶらの樹の若芽なのよぉ。」


この画像の手前に写っているのがワラビだけど、その奥、ピントが少しずれているけど、くしゃっとなっている緑色の若芽がそれだ!初めてだこんな山菜は、、、

口にすると、栽培品の野菜ばかりを食べ慣れた口には全く新しい、山菜特有のあの香りが!これは、、、説明しにくいが、杉の木の切り口から漂ってくる香気のような香りがほのかにするのだ。

「旨いなぁ、、、これって、佐藤さんの持ち山で採れるの?」

「そうだよぉ、5月の連休にでも来たら、山菜採りさやらせてあげるのにぃ、、こしあぶらもキノコも、やまけんさんの大好きな「うるい」なんか、もう採りきれないほど出てくるからね。」

うおおおおお それは素晴らしい!
今年、バスツアーでも企画するかぁ!

「そうそう、やまけんさんが好きそうなのがあるのよ。なんばんを麹(こうじ)と醤油漬けにしたものがあるのよ。」

おお、なんばんが出た!しかも、こちらの人たちが普通に食べているという、醤油と麹で漬けた、まさしくご飯の友だ!

なんばんの辛みは適度に醤油の中に溶け出していて、ちょうどいい!そして麹の香りと旨味が慣れて、実に旨い!これは最高に乙な味だ、、、

「来年はなんばんをたくさん作付けして、このなんばんの麹漬けを、一本おおきななんばんのままでつくってみようと思うのよ。」

「あ、それ最高だよ!なんばんの粕漬けにセットにしてなんばんセットだ!」
と、もうすでに商品企画会議が始まってしまった!

今回発売するなんばんの三点セットはこれだ!

元祖なんばんの粕漬け、つぶあぶらなんばん、そして「まあどんな漬け」がセットになっている。いままで彼女達は、このなんばんを細々と造って、直売所に並べたりするだけだったので、箱に入れて送るということは初めてだ。従って箱を特注で造らねばならない。しかし500セットというのは中途半端な数で、型をおこさずに造ると一枚あたりの単価が高くなる。

「今回は500セットだけど、来年はもっと売れると思うから、型を買ってしまいなよ。」

と僕と高橋さんが進言するのだが、佐藤さんはうーんと唸っている。

「そうねぇ、でもなぁ、型を作ると高いからなぁ、、、」

あまりに唸っているので、いろいろ聞き込んでいくと、衝撃の事実が発覚した!

なんと、、、彼女たちはいままで、利益をのせるということをほとんどしてこなかったというのだ!

「いやまあぁ、加工所を借りたりいろいろするのに充てる分はもちろん価格に乗せてはいるけど、わたしだちの手間賃になるようなのはないねぇ、、、」

いやぁ、、、そうだったか、、、

読者さんがどう思われるかわからないが、実は生産農家の女性達がつくる加工食品は、このように自分たちの趣味というか、課外活動的な意味合いのほうが大きいため、利益がまったく乗っていないということが多い。それにしてもまあどんな会の場合はそれも甚だしい。

なんだか聴いてて僕は、自分の母と同じくらいの年代であるまあどんな会の人たちに対して、なんとかしてあげたいという強烈な想いが芽生えてきた。

高橋さんが言う。

「このお母さんがたはねぇ、苦労してきたんだよ。女性達がこういう加工所をやるなんていった当初は、男どもはみんな『なんでそんなことやるんだ』って言っていい顔しないのさぁ。行政も『そんな目的では場所を貸せない』とか『そこの水道は食品に使っちゃダメ』とかいろいろと問題を出してくるしさ、、、」

行政の人が言うくらいだから、本当にまあどんな会の立ち上がりは大変だったのだろう。

「実はそこで助け船を出してくれたのが、このマサオさんなんだよなぁ、、、」

マサオさんとは、加工所でなんばんの粕漬けを瓶詰めしていたこの方だ!

実は僕は彼の存在がすごく気になっていたのだ。なんで一人男性がこの輪に交じって居るのだろうかと、、、

佐藤さんがいう。

「やまけんさん、このマサオさんはまあどんな会の応援団長なんです。この人がまあどんな会の手伝いをするからって地元で立ち上がって下さって、それで周りの男達も『ああ、マサオさんなら仕方ねぇな』って納得して、、、批判や偏見の楯になってくれたんですよ。」

うお、なんと! これが男気ではないか!

「それでね、、、実はなんばんの粕漬けの生みの親は、このマサオさんです。マサオさんも代々教えてもらったものらしいんだけど、マサオさんのレシピが元祖のなんばん粕漬けなんですよぉ」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
そうだったのかぁああああああああああああ

やまけん認定 ご飯の友の部全国No.1 「なんばんの粕漬け」は、このお方がお作りになったものだったのだ!

「マサオさんがね、『なんばんは俺の趣味だから、儲けはなくて良いんだ』って言ってね、、、そういうわけで、昨年はやまけんさんから大量に欲しいっていわれた時、原価でお譲りしたんですよ。」

うーん、、、 
昨年中になんばん粕漬けを僕と一緒に共同購入してくれた人たちは、お渡しした価格の安さにびっくりしただろう。でも、それはそうだ、あれは原価だったのだから!あの価格は、もう忘れよう。

俺は決めた。
このなんばんの粕漬けセット、安くは売らない!かといって不当に高く売る気もないが、すくなくとも彼女たちが再生産を行うことが可能で、かつ生産活動で彼女達にいくばくかでも収益があがる価格を設定させてもらう。
ここまで読んでくれた読者、特になんばんを味わったことがある人でも、これに不満に思うことはないはずだ。

「佐藤さん、箱の型代が出せるくらいの価格にできるように頑張るから、今後はまあどんな会の人たちに手間賃がとれるようにちゃんとしていこうね。」

「あらぁ、、、それはありがたいねぇ!」

まあどんな会の皆さんが顔をほころばせて喜んでくれている。僕は、この人たちは、自分たちが作っている食品の価値をこの人達自身に気づかせてあげたいと思う。僕もだてに全国を廻ってはいない。行き当たりばったりで言っているのでもない。今までは無名だったこの「まあどんな会」の作る産品は、実に最高なのである!

「じゃあ、お父さんが打った蕎麦を食べようかねぇ!」

さて、お父さん登場だ!

「俺はな、素人だけど蕎麦打ちのキャリアは40年だよ!蕎麦もうちの畑で作って、そば粉100%で打ってるンだぁ」

おおおおおおお 驚き!なんとここにもぜーんぶ自家製蕎麦を打つ人がいたぁ!山形には自分で蕎麦打ちするのがあたりまえという家が一杯あるのだ!

「俺の打ち方は湯ごねなんだ。湯ごねすると香りが飛ぶっていうけど、俺の蕎麦は香りが強いぞぉ!」

湯ごねとは、そば粉を水分を加える時、冷水ではなく湯を使う方法だ。そば粉が澱粉化するのでネットリとし、繋がりやすくなる。ただし湯で熱が通るので、そば粉から香りが消えやすいのだ。

しかし、中太に見事に切り揃えられた蕎麦は、実にそば粉の香り豊かなものだった!

「どうだいやまけんさん!」

「う、う、う、旨いじゃないですか!!」

いやマジで旨い!中太の麺は噛みしめる楽しみがあり、香りもブワッと強い。
「なんばんの麹しょうゆ漬けをすこしつゆにいれると旨いんだよ」

うおおおおおおおお本当だ! これ、最高である!

「やまけんさんよ、東京からお客さん引っ張ってきてくれたら、まあどんな会の料理に俺の蕎麦も食べられる店でも出すからよぉ!」

とニカッと笑うお父さんだった!いや、最高である。このお父さん、佐藤さんの活動をきめ細かくサポートしている。こんかいのなんばんを入れる箱の設計などを考えているのもお父さんだ。現在は、仲間と一緒に興した建築関連の企業に勤めているが、その前は果樹を手がける農家だったのだ。

「この辺じゃもうブドウ生産ではやっていきにくいんだ。農家でくっていけるならまたやりたいけどなぁ、、、だから、まあどんな会のやってることは重要なんだよ」

うーん 白鷹でもそうなんだな。この国の基幹産業がこうして衰退していく現場をみるのはつらいことだが、、、一方で、これまでのような大量生産・大量出荷ではなく、まあどんな会のように、付加価値の高い製品を産み出し、それを世に問うていく。そしてそれに関心を持った人が、今度はこの白鷹を訪れるというサイクルを作っていくという挑戦もある!

そして幸せなことに、僕はその挑戦の一端を担うことが出来るのだ!謹んで、そして本気で取り組んでいきたいと思う。

宴はこの後も続き、三々五々で皆が帰り、そして僕は佐藤家の暖かい布団で、深い眠りについたのだった。