2005年1月17日 from 出張
雪深い中をひた走り、「白鷹町」という標識をみてから15分ほどで、高橋さんの車が停まった。
「さあ、ついたよぉ ここが『まあどんな会』の本拠地である加工場だね。」
なんとまあ小さい! この小さな加工場で、数々の名品が生み出されているのだ。
「もちろん漬け物類はここで作った後に、他の建物で貯蔵しているんだけどね。場所のやりくりが効かないから大変なんだよ。大きな一軒家を早く借りなさいよって言ってるんだけどね。」
まあどんな会の活動は、加工場で漬け物やなんばんの粕漬けなどの加工品を作ることと、夏の間に閉鎖しているスキーのロッジを借りて、農家レストランを開くというものだ。つまり夏場まではこの加工場がメインの作業場になるわけである。
フワフワとした雪を踏みしめながら玄関に立ち、「こんにちは~」と声をかけながら戸を開いた。
「あれー やまけんさん。 お会いしたかったですよ!」
と聞き慣れた声がする。まあどんな会代表の佐藤さんである!
すでに何回も電話をしているのだが、顔を見るのは2回目である。お元気そうで何よりだ!そして佐藤さんの他に、4人の女性と、1人の男性が漬け物を作っていた。
おっ 男性が詰めていらっしゃるのは、なんばんの粕漬けではないか!
「そう、こうしてなんばんを瓶詰めにしているんですよ。」
みよこの大きなボウル一杯のなんばんを、、、素晴らしい現場を目の当たりにしてしまった。
実はなんばんを詰めているこのお方が、なんばん粕漬けの元祖であるマサオさんという方なのだが、それは後ほどわかることだ。とにかくここではなみなみと作られたなんばんの量に圧倒された!
「ちょうど今からつぶあぶら入りのなんばんを作るところですよ。」
おおおおおおおおおおお
今回のオリジナル商品「つぶあぶら」入りのなんばんである。つぶあぶらとは、エゴマの実のことだ。言い得て妙のネーミングである。
なんばんの原料類をボウルに開けていく。
「ぜーんぶ私たちが作ったか、どこでとれたかわかっているものだけを集めてるんです。ほら、今から入れるのがつぶあぶらを煎って粉に引いたものですね。」
ざざっとつぶあぶらの粉末がボウルに入った。
これにニンニクと、なんばん(トウガラシ)の塩漬けが投入される。
なんばんの塩漬けは自分たちの畑で作ったトウガラシを秘伝の漬け込みにしたものだ。まったくオリジナルレシピであり、真似のしようがない。
これを、蕎麦打ちの「水回し」のように万遍なく混ぜていく。そう、すべて手作業なのだ!
「全体をよぉーく混ぜて、そこに酒粕をいれるんだわ。酒粕はね、あたし達がいろんなのを試食して、一番美味しかったのを入れてます。」
山形の高級な地酒粕を使っているからこそ、あの強く高貴な味になるんだな!実に納得である。
酒粕の塊が投入されてからは、ひたすら捏ねる!捏ねる!捏ねる!捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏
捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね捏ね、、、もう本当にひたすらここからコネの作業である。機械なんぞは使わないのである!
「人の手で捏ねた方が美味しいですねぇ」
みたか!このなんばんの粕漬け、どこにも人工的なものが介在しない!原料はほとんどが彼女たちの手作り農産物に地酒の酒粕、それを徹頭徹尾、人力で合わせていくのである。
「あらー 今日来てない人たちにもヤマケンさんってどんなひとだか教えて上げないと行けないから、写真とりましょ!」
と、まあどんな会最年少であるイチコさんが僕を撮ってくれる。
なんばんはひたすらこね回されている。この作業がとにかくずーーーーーっと続くのである!
ひたすら混ぜ合わせられているうちに、それぞれの材料のエキスなどが酒粕に染み出てきて、このような一つの茶褐色のまとまりになっていくのだ!
「味見してみんべか?」
とチョイと小指につけて舐めてみる。
あああ、、、 あのエゴマの濃い風味と油分、そしてなんばんの辛みと酒粕の香りが、たまらない、、、
「本当にこれはヤマケンさんに『オリジナル商品を』っていわれて作ったものだから、オリジナルなんですよぉ。」
それは本当にびっくり!もう昔からずーっとあるものだと思っていた、、、それでも全くおかしくない洗練されたできばえなのである!
ちなみにこの加工場ではなんばん以外にも様々なものを作っている。大豆を揚げて甘辛い味付けをした豆菓子や、染み餅とよばれる、餅を揚げて甘辛いタレに浸したものなど、、、この染み餅が実に最高にうまいんだ!
サクッとした歯触りの後に、ジュワッと甘辛ダレが染み出してくるのだ、、、うーんよだれが出る。
この他、今回販売する「やたら漬け」とよばれる漬け物の製作風景も見ることが出来た。
一端塩漬けにした野菜類を戻し、秘伝の調味液で再度漬け込んでいくのだ。
「これ、『やたら漬け』ではなくて『まあどんな漬け』ていう名前にしようと思うんです!」
おお!
それはいいではないか、、、
入り口に戻ると、マサオさんがなんばんを瓶に詰め続けている。こうして瓶詰めまでが手作業で行われているのであった。機械化されていない旨味はこうして創り出されているのだ!とうとうこれを目の当たりにしてしまった、、、
はい、じゃあ記念写真撮ろうね!」
まあどんな会には30人以上の会員がいるのだが、もちろん都合によって集まる人が変わる。この日集まったメンバはかなりのコアメンバらしい。作業場での仕事はこれでたたんで、次は佐藤さん宅で酒宴である。
いやしかしこのなんばん造りの現場をみることが出来たのはとてもよかった!とにかく手作業である!それと、佐藤さんがずーっと口にしていたのは、
「身体にいいものばかり入れているんです。」
ということだ。そう、身体によいもの、、、当たり前のようでいて、実現するのがこれほど難しいものはない。まあどんな会のなんばんは、化学調味料や着色料、合成保存料も一切使っていない。それは僕がこの眼ではっきりと確かめてきた。
「そんで、元気が出るものばかり使ってますよ。なんていったって私たちが毎日食べるものだからね。」
そう、彼女たちにとっては、これは商品である前に、自分たちの食卓に上るものばかりなのである。それは佐藤家で激しく立証されたのだが、彼女たちが主婦の集団であるということが大きくこの品質ポリシーに影響している。ビジネスベースの企業活動で、このようなものづくりをすることが果たして可能だろうか?
「自分たちで造ったものを原料にする」
「手で造る」
「身体にいいものを入れる」
この基本中の基本といえることを実践できる食品加工業は、この世にそれほど多くない、と思う。その貴重なひとつを、山形は白鷹町に見つけた。
「さあ、それではご飯をたぁっぷり食べて頂きましょうねぇ!」
お声がかかり、いよいよまあどんな会の首領、佐藤洋子さんのご自宅訪問である!ここで、さまざまななんばんを巡る秘密が明らかになったのであった!
(続く)
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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