2005年1月15日 from 出張
牛タン腹がこなれてきた頃、目が覚める。風邪からだいぶ回復したが、少しだけ熱っぽく咳は止まらない。遅くまで呑んでいたツケだな。仙台から山形県庁までは、高速バスを使う。
「やまけん、宮城と山形では吹雪のレベルが違うから気をつけてな。山形の奥羽山脈が雪を遮ってくれているから宮城にはあまり降らないけど、山形はスゴイよ!」
と恵ちゃんが言っていたとおり、高速道路で山を登り始めた途端に猛烈に雪が降ってきた。
周りの風景はそれこそ水墨画の世界である。
バス停「県庁前」を降りると、髪を後ろで結わえた高橋さんが、ひょいっと手を挙げて合図をくれた。まったく初めて会う人なのだが、もう10数年来の知己のようだ。この人こそ、白鷹町の「まあどんな会」の生みの親である、山形県庁の職員さんなのだ。
「いやあ、よく来たね。まあ乗って。」
と10年来の知己のように自然な空気で、僕を迎えてくれた。こういう空気を醸し出す、人の心の奥にするりと入ってきてしまう人が、たまにいる。天性の素質と、職能的もしくは趣味的にそれを磨くことによって獲得できる能力だと思う。それが、高橋さんからはプンプンと匂ってきた。
「高橋さんはどんな仕事をされてるんですか?」
と素朴な質問を投げると、へへっと笑いながら「そうだな、地域興し屋かな」と言う。
山形にある2600近い集落のうち、なんと680もの集落に潜入(?)し、その地域の住民(多くは農家さんたち)をまとめ、なんらかの地域興しプロジェクトを実践してしまうのが、彼の活動である。いや、それは県の仕事としてやっているわけではないらしい。そこがミソで、県職員としての彼の仕事は別にあり、そちらも立派に勤め上げた余力で、地域興しをしているということなのだ!
そうかそうかと合点がいった!先述したような高橋さんに漂う空気は、様々な地理・社会的条件の集落に出入りし、その地域の人々を見つめ、そして新しい秩序を迎え入れ、体制を再構築する。これを繰り返すうちに身につけ、磨き抜かれてきたものなのだろう。
その活動の一端はすぐに開かれた。
「ちょっと見せたい集落があるからさ、回り道するよ!」
と言って車を止めたのは、中山間地の集落にある、とある民家だ。よくみると入り口の小屋の壁に小さな看板がかかっており「農家民宿 はたざお」と書かれている。
「ここはよ、風景が綺麗だから登山客が多いんだけど、休む場所がなかったのよ。それで、ここのお母さんらが集まって考えた上で、民宿をやることにしたんだわ。」
車を降りると高橋さんはズンズンと母家の扉を開け、「ただいま~」と奥に声をかけて上がり込んでしまった。民宿のお母ちゃんと、近所(とはいっても一山超えるくらい距離があるらしいが)のお母ちゃんがこたつに入り、漬け物とカップラーメンの昼食をとっていた。
「最近はどうよぉ」
以降、山形弁が炸裂しまくり、僕にはほとんど意味が分からない!それを知ってて高橋さんはニヤニヤしている。
「俺でもわかんねー言葉がいくつかあるからなぁ。ヤマケンちゃんにはわかんねぇべ。」
そりゃそうだわかるわけがない!
「せっかく来たんだから餅、食べてきな。」
というと、お母ちゃんはホットプレートに餅を載せて焼きだした。
うーん困った、、、僕は餅がそんなに好きではない。ネチネチした食感をあまり好まないのである。正月の雑煮にも餅を入れない。でも、こういう場でそんなことを言っていては始まらない。僕はコンニャクは絶対に食べられないのだが、それ以外は「食べられない」わけではないので、いただくことにする。
「これにからめて食べな」
と出された納豆を混ぜ、取り皿へ。そこへお母ちゃんが「ほれ、ほれ」とぷっくりと焼けて膨らんだ餅を放り込んでくる。
そして、、、餅を納豆に絡めて食べてみて、ビックリした。
!!!!!!!!!!!!!!
旨い!!!!!!!!!!!!!!!!!
お餅に特有のモチ米臭さがほとんど無く、食感もモチモチというよりはフカフカ・ネットリした絶妙な快楽的食感だ。それに、山形必殺の納豆と醤油が混ざり合い、本当に至福の味わいだ!!
「う、旨いなぁ、この餅、ここでついたの?」
「あったりまえだろ、この辺じゃ餅は買わないよ、、、」
うーむ 餅も米やつき方により全く味が変わるんだなぁと実感したのであった。そして僕が喜んでいると、お母ちゃんは嬉々として餅をボンボンと放り込んでくる!餅わんこ状態になってきた!
「おいヤマケンちゃん、俺は数えてるんだけど、12個も餅食べてるぞ!次があるんだからさ!」
と言われハッと我に返る!12個も食ってたっけ?しかしスルスルと入ってしまうのだ、、、うーむ山形の民家の餅、恐るべし。
しかし本当にこの辺の風景は美しい!小高い山の白い稜線と、田んぼに降り積もった雪の遠近感が魔法のように視覚を癒してくれる。
さてお母ちゃん達の座を辞すると、いったん里の街道に降りて山形名物「肉そば」を食べに行く。
山形名物「肉そば」をご存じだろうか?関西で肉そばといえば牛肉の甘辛く煮たのを乗せたものだが、山形のそれは全く違う。鶏スープをベースにしたダシをキンキンに冷たく冷やし(その過程で固まった脂は一切を取り除く)、冷たい蕎麦の上にそのダシを張り、鶏肉を甘辛く茹でたものを上に載せるというものだ。山形の人たちは、寒い冬にこの冷たい肉そばを食べるのを好むのである。これがまた絶品なのだ!
■そば処 太郎亭
住所: 山形県朝日町宮宿中郷2370-3
TEL: 0237-67-3789
営業時間: 11:00-19:00
定休日: 火曜
店データ教えてくれたossaさん、どうもありがとう!
店内にはいるとやはり大きく掲げられているのは「肉そば」だ。
「色んなメニューがあるけど、肉そば以外のものを食べてる人をみたことねえな。ここはよ、鶏肉のだしが濃いんだわ。だから鶏臭いって好きじゃない人もいるけどな、俺はここのが旨いと思うんだわ。」
頼んでほどなくして来た肉そばは、見るからに鶏の香りが漂う濃厚なものであった!
蕎麦をすすり込むと、コクのあるダシの香りが口中に拡がる!まるでラーメンスープのような、しかしやはり蕎麦つゆの味。実に絶妙な加減である。
蕎麦は中太、色濃く強い食感だ。山形の蕎麦にも色々あるが、太め・硬めがすきな僕にはビッタリである。以前食べた肉そばよりも濃厚で野趣の溢れる味とかおりであった!
「しっかし良く食うなぁ。じゃあ、白鷹町にいくかよ。」
車で白鷹に向かう道すがら、まあどんな会についての話をいろいろきいた。
「あそこもさ、地域の中に、女性が集まって何かをやるってのがなんもなかったのよ。足を運んで、ワークショップっていう会を開いて、みんなが好き勝手に喋るってのをやったら、加工場を借りて漬け物や美味しいものを作る会をやりたいって言うのが出てきて、佐藤洋子さんがリーダーになって取り組んだわけさ。でもな、加工場を借りたり、スキー場のロッジを夏場に借りるとかなると、行政の壁がいろいろと立ちふさがってきて大変なわけさぁ。」
ここで決めての言葉が、高橋さんから出てきた!
「結局ね、『どれだけ泣くか』、なんだよな。壁が出る毎に悔しくて泣いて、その数が多ければ多いほど、強固なコミュニティができあがっていくんだぁ。俺もその手伝いをしてるけど、最近じゃ壁をどうやって超えるのがいいか、てのを考えるのが面白くなってきたね。」
といってニタリと笑う高橋さんに、底知れぬ凄みを感じた。これは、県職員でないとできない仕事いや活動だろう。
「さて、こっから白鷹だ。」
車は雪道を、音もなく滑っていった。
(続く)
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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