やっぱりハタハタは秋田の郷土の心だ!秋田料理 「ちゃわん屋」(前編)

2004年11月29日 from 出張

 僕が初めて秋田に行ったのは大学院修士の頃、農業情報という分野で研究をしていた僕はに、大潟村という先進的な米作地帯のある機関から講演依頼を受けた。その頃、若手で農業とインターネットを結びつけた研究を行っていたのは僕くらいだったから、話が来たのだろう。秋田に飛んだ夜、市内の料亭でメシを食べさせてもらった。

そこで初めて食べたのがハタハタだ。秋田県民の心といっていいこの魚を、関東で育った僕は初めて観た。ウロコが無く、ぬめっとした感じの魚。頭からかぶりつくと、口の中に「ブチブチブチっ」という強い弾力感が走った!それが「ブリコ」と呼ばれる、腹に卵を抱いたハタハタだったのだ。強い食感の割には、魚卵特有のひねた香りがほとんどし無いマイルドな味。

「旨い魚ですねぇ~!」

「これが20センチくらいですから、一匹2000円くらいですかね。今、出漁規制されているので高いんですよ、、、」

そう、秋田では乱獲でハタハタの個体数が激減したため、長いこと禁漁ということになったのである。県民の苦しみやいかばかりであったろうか。居合わせた人たちが口々に、

「昔はトロ箱1パイが500円くらいで買えたのに、、、」

「ハタハタなんて、毎日出てくるおやつだったのに、、、」

という愛惜の念のこもった細い糸のような言葉を繰り返すのだった。その日僕は1匹2000円のおおぶりなハタハタを3本食べた。そのブチブチというブリコの食感と上品な身の味は、今に至るまでよく覚えている。

「いやぁよかったですよ、もうハタハタは獲れるようになりましたから。」

秋田の大潟村助役と県庁のN氏がニコニコとしながら、秋田市の繁華街である川反(かわばた)の路地を歩いていく。

そう、本日は大潟村での仕事だったのだが、夜は別件でお付き合いいただいている県庁のN氏、I氏とも飲み交わそうということで川反に来ているのである。

「ここです!やまけんさんが美味しいと思うかどうかわかりませんが、、、」

と言いながら助役が階段を上がっていった。

■ちゃわん屋(詳細は下記画像ご参照)

階段を登ると、威勢のいいおばちゃんと若旦那が迎えてくれる。民芸調の居酒屋である。特にきらびやかでも嫌らしくもない、本当の居酒屋という内装。ここには地元の人が沢山くるのだろう。まったく飾っていない店内に好感を覚える。

座敷にはすでにI氏が座っていて、僕を迎え入れてくれた。

「今日は秋田の味を堪能していただきますよぉ~」

この店を選んで下さったのは助役である。N氏もI氏もここは初めてだといい、品書きをとっくりと観ている。この品書きがまたイイ!


どうだ? 久しぶりに煌めく品書きを観た!いい店のお品書きからは光が放射されるのである!「ダダミ刺し」ってなんだ???「くろも」?? こういう、地のものをリーズナブルに出す店に来ると、本当に品書きを観るだけで心が豊かになる。

嬉しくなって、皆さんがビールで始めるところを、僕だけ初っぱなから燗酒をいただく。

「はいよ突き出し!自家製の豆腐にとんぶりを混ぜてあります。」

と、いきなり秋田名産「畑のキャビア」とんぶりが仕込まれた豆腐である。

これがしみじみと旨い。豆腐には柔らかく火が通っていて温かい。すでに寒空の呈をなしてきた秋田の夜にこの温かさが心を和らげる。

「今日はね、コースでいきますけど、絶対にこれはたべたいってものありますか?」

と女将が訊くので、「ミズのたたきと塩汁(しょっつる)鍋!」と叫ぶ。ミズは東北の誇る山菜で、これをミソと一緒に形が無くなるまで叩いたのが最高なのだ。

8品くらいのコースでこうやって出すものを訊いてくれるのは嬉しいな。柔らかいアタリの女将さんがメモしてくれた。

そこに出てきた二品が、これまた秋田の名産だ。

■じゅんさい(左)ととんぶり

じゅんさいって秋田名産だったのだが、知ってました?

実はこの初夏、じゅんさい収穫が最も盛んになる時期に地域を周り、収穫風景をみたことがある。沼のようにした田に小さな舟(九州の干潟で使う”ガタ”のようなヤツだ)で入り、じゅんさいを摘んでいく。猛烈にやってみたくなったのだが適わなかった。この時期食べられるとりたてのじゅんさいは、「醤油味の小鍋仕立てにすると美味しいですよ」という。これも食いそびれた!

もう一つのとんぶりだが、これも小鉢に一杯盛られてくる。ウズラの卵黄を割って醤油をかけて混ぜる。一匙口に運ぶと、ひんやりした冷たさと清々しい香り、ごく密やかにプチンと弾ける感触が気持ちいい。

キャビアのような魚卵くささはもちろん皆無なので(植物だもんね)僕は和食の前菜にはこちらのほうが断然いいのだ。

「はい、ミズ玉の漬け物ね。」

■ミズ玉

前回の秋田のエントリにも書いたが、このミズ玉の漬け物がめちゃくちゃ旨い!ミズ本体も旨いのだが、このミズ玉のシャクシャク感と、炸裂したあとの粘りが最高なのだ。

そして僕の大好物が来た!

「みずのタタキでーす」

■みずの味噌たたき

でた!こいつがタタキである。山菜のミズをトロトロに成るまで薬味と味噌を加えて叩いたこの一品、もしかすると秋田料理の中でも一番好きなものかも知れない。

箸で持ち上げるとツーと粘りが糸を引く。食べると、少し残ったミズのしゃりしゃりした食感と、味噌の香り、それをまとめるトロ味が舌になめらかに載り、堪えられない。

「め、メシが食いたい~」

と叫ぶがそれはまだ後だ!

「はい、クロモと生イクラね」

■クロモ

男鹿半島で獲れる天然もずくがクロモだ。南国産のそれとは違って、テラテラと黒く、そして一本のもずくがしなやかに堅い。

歯を立てて噛むときっちりとした食感が返ってくる。二杯酢に咳き込まぬように啜り混むと、ミズに引き続いてのネバネバが口中に拡がるのであった!

■生イクラ

この美しき赤玉をみよ!我ら男子には赤玉はかなり危険な響きだが(笑)、、、イクラの赤玉さ加減は本当に蠱惑的である。
ここのイクラは脱水が効いているのか、ブチ、ブチと極めて強い食感。その後にトロリと旨味成分と新鮮な香りが拡がるのだ。

■キノコ →名前ワスレタ

まったく名前を忘れてしまったが、このキノコの煮付けもプリプリ、ヌメヌメとしており、しみじみと旨いものだった。

スギヒラタケのように急に毒性を強めてしまうキノコもあって怖いけど、キノコの旨さは何者にも代え難い。植物のようで植物ではない。だからその旨味成分や香りは、野菜には出せないものなのだ。

さて、ここまでは前菜。一気にこれからメインディッシュへと進むのである!

(続く)