2004年11月 3日 from 食材
関東に住む僕が、居酒屋などで口にする「シシャモ」が、実はホンモノのシシャモではないことが多いということは知っていた。で、ホンモノのシシャモがどんな味かということも、帯広で歓待を受けた時に味わってはいた。
しかし、本物のシシャモを、漁師が選り抜きに選り抜いて塩梅したものを食べるのは、これが初めてだった。
「10月13日にシシャモ漁が解禁されますので、東京でもホンモノを食べて頂く会を開催します。『居酒屋ししゃも屋』と題して、ししゃものフルコースを味わって頂きます!」
という連絡が近江さんから届いた。漁師・近江正隆さんは、しんのすけが引き合わせてくれた方で、実は3年前から盛んに「すごいシシャモがあるぞ!」と進めてくれていたものだ。でもいつもタイミングが合わず、食べず仕舞いだったのだ。見かねたのだろう、しんのすけが「今度近江さんが来るから、一緒に飯を食おう」と、六本木の隠れ家的な飯処(この店は残念ながら公開できない)で引き合わせてもらった。
第一印象は、
「この穏やかな人が、本当に漁師なのかぁ?」
ということだ。荒くれ漁師というようなイメージがみじんもない、思慮に満ちた文系の人、というのがイメージだった。控えめに笑いながらとつとつと話す彼の人生は相当に波乱に満ちていたらしい。なにせ東京でサラリーマンをしていたのに、辞めて北海道に渡り、漁師になったのだ。漁師は極端によそ者の闖入を嫌う。彼の苦労は並大抵ではなかっただろう。その辺の話は、楽天に出店している彼のWebをご覧いただきたい。
■漁師・近江正隆さんのWebショップ
http://www.rakuten.co.jp/shishamo/
落ち着いて訥々と語る彼はしかし、戦略家でもあるなと感じた。理に適った方向性をとり、、その理の通りに仕事をしていると思う。別れ際、「とにかくまだ食ったことがないんで楽しみにしてます」と言うと、「美味しいことには地震があります」と微笑んで帰っていった。
そのシシャモを食べる機械がようやく来たのだ!
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びっくりしたことに、居酒屋ししゃも亭の会場となったのは、日本橋の僕の借りているオフィスから50メートルという近さの、居酒屋駒八という店だった。どうやらオーナーが北海道の人らしく、貸し切りになっていた。会場には35人くらいだろうか、座卓についてししゃもを待っている人たちで溢れていた。
「え~ それでは始めさせていただきます」
と、近江さんのの発声で、会が始まった。
この日はとにかくししゃもづくしである。その合間に、北海道の幸も並ぶ。品書きにはししゃものフルコースが書かれていた。
ししゃもの骨酒
鰍(カジカ)のとも和え
秋鮭のちゃんちゃん焼き
本ししゃも刺し二種
天日干しししゃも二種
本シシャモの天ぷら
イクラご飯
ししゃもとナラ茸の三平汁
シシャモ骨酒は、炙ったシシャモを少し漬けていたのだろうか、蓋をとるとダシの濃い香りが漂う。
一口啜ると、シシャモからこんなダシがとれるのか!と驚く旨味が酒に滲み出てでいる。
カジカのとも和え、鮭のチャンチャン焼きは近江さんレシピだそうだ。
特にチャンチャン焼きは、通常は鮭に味噌を塗って鉄板で焼くのだが、彼のは醤油で焼くのだそうだ。
焼けた鮭をほぐしてスクランブル状になったのを食べ、骨酒を楽しんだ。
「皆さん、次ぎに観ていただくのが、今年のとれたてのししゃもです。昨日出漁して私が獲ってきました。今はオスが旨いので、今日はオス中心で楽しんでいただきます。」
と言って出てきたのがこれだ!
ししゃもってこんなに綺麗な姿形の魚だったのか、、、と意外に思ってしまったが、おそらく北海道、特に海の近くに住んでいる人たちにとっては当たり前なのだろうな。
「これからこのししゃもを刺身にしたものをお出しします。まずは醤油もわさびもつけずに一口、食べていただけますか。」
と運ばれてきたのが、小さなシシャモを綺麗におろした刺身である。本当にししゃもかよ?という典雅な佇まいだ。
近江さんの言にならい、美しい切り身を一つ、何も漬けずにそのまま口に運ぶ。噛んだ瞬間、瓜のようなシトラスのような香りが漂う。そう、川魚の雄である鮎は、頭からかじり付いた時にスイカのような香りが弾けるが、それと同じ系統の香りがするのだ!
「これを味わって欲しくて刺身にしました。繊細な味の魚なんですよ、、、」
いやまったく!本当に繊細な味わいと風味である。思わず3切れを何もつけずに口に運んでしまった。
そして、真打ちの「焼きシシャモ」である。大きいオスししゃもと、若シシャモの天日干しだ。絶妙な加減の塩水に漬け、干したという。この塩梅が漁師の腕なのだ。
頭から囓る。骨っぽさはほとんど感じない。瓜の風味は薄くなるが、焼きのちょっとスモークっぽい香りと適度な塩気、そしてあくまで上品な旨味が拡がる。そう、ししゃもって上品なのだ!ちょっとビックリ。無造作に焼いてバクバク食べるようなものではないような、本当に繊細な味わいである。
途中、箸休めというか何というか、あのニューウェーブジャガイモであるインカの目覚めのポテトサラダが出てきた。
「インカの目覚めはご存じの通り、栗の風味のする面白いジャガイモなんですが、これを少し貯蔵しました。貯蔵することで甘みが増すので、美味しくなるんです。これを年明けくらいに販売したいと思っています。」
なるほど。実は本日、インカの目覚めの主生産地として有名な帯広の幕別町のJAのノムさんから、「インカを貯蔵するとうんめえぞ!今度食わしてやるよ!」と電話があったところだ。今年は、インカの貯蔵が結構出回りそうな気配なんである。
さてその後、ししゃもの天ぷらとイクラご飯と、充実の〆に向かい始める。
しかし僕がノックアウトされたのは、若シシャモを使った三平汁だ。
通常は塩鮭でつくられる、北海道を代表する汁物である。これを薄塩じたてのシシャモで作るのだ。これが秀逸!大根と人参の甘みがししゃものダシを旨く引き立てている。これこそ乙な味と言えるだろう。
この会に集まった人たちがまた曲者揃いで面白かった。酒を飲み、笑いながらシシャモを食べた。近江さんはその人いきれの間を縫って、静かに話をして廻っていた。最後まで静かな佇まいという印象が残る人だった。
楽天のショップで販売している今年度産のシシャモ、今年こそ買い逃さないように気を付けようと思う。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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