2004年10月10日 from 食材
3ヶ月ほど前に、「ハーブスタイル」(誠文堂新光社刊)という雑誌を紹介した。その名の通りハーブに溢れたライフスタイルを模索するというか何というかの季刊誌だ。その辺の中規模以上の書店にいけば最新号が売っていると思う。
で、この雑誌に、「スパイスボーイズ」というばかげた連載が掲載されている。そう、ボーイズというには少し行き過ぎた僕や編集者のミソノ氏が、スパイス料理をその道のプロに教わり作ってみるという企画だ。企画自体はまともだけど、紙面がよくある写真漫画的に作られているのと、テキストを僕が書くのではなく悪ノリ編集者のミソノ氏が書くので、とてつもなくアホらしい頁に仕上がっているのだ。ほんっとに恥ずかしいんだけど宣伝しない訳にはいかないので、書店でみかけたら笑って欲しい。
さてその連載の今回のテーマは、「タンドリーチキン」なのであった。いつものごとくミソノ氏&カメラマンとアメ横を訪れ、スパイスの殿堂である大津屋商店に向かう。インド料理マニアなら知らない人のいない、ここで揃わぬスパイスはないという店だ。
にこやかに迎えてくれた竹内ファミリーが、この日のためにとっておいてくれたスパイスは、なんと世界有数の辛さを誇るトウガラシ、ハバネロのパウダーである。
「いやじつはこれはまだ商品じゃないんです。メーカーがサンプル品をうちに置いていったんですよ。」
「なんでまだ商品になっていないんですか?」
「『危険だから』だそうです、、、」
なんでも、このパウダー、眼に入ったりしたら失明の危険があるらしいのだ!大津屋商店でも実はこのパウダーを試食した人は居ないらしい。
、、、そう、今日この日、僕が初めての実験台になるわけだ。今回のバカ連載の紙面の目玉は実はこのハバネロを舐める僕、である。
ハバネロは世界一辛いトウガラシといわれている。辛さを表す単位をスコビルというのだが、メキシコの有名なトウガラシであるハラペーニョの10倍辛いそうだ。これまた有名なタバスコペッパーというトウガラシが50000スコビルだそうだが、ハバネロは300000スコビルというオソロシイ数字を叩き出している。とにかく辛いんである。
その辺が細かくびっしりと書かれた説明書きが、ご丁寧にもこのサンプルについてきている。
まあ、ここまで来たら舐めてみるしかない。嫌がる大津屋2代目と共に、舐めてみた。どんな辛さだったかは、この顔を見て察して欲しい。
更に、同行のミソノ氏がこのトライアルを動画に収めている。ブロードバンド回線で、かつ暇な人はどーぞ。
さて企画自体はそういうイロモノだけではなく、タンドリーチキンなのである。大津屋特製のレシピをいただき、作ってみるという算段だ。
■タンドリーチキンの材料
鶏肉:
・手羽元
・もも肉
※とりあえずどの部位でもいい。けど、食べやすさ、作りやすさ、美味しさ、そして安さから手羽元を推奨します。
スパイス類:
・クミン
・ガラムマサラ
・チリペッパー(今回はハバネロを使用したが、普通ならカイエンヌペッパーだ)
・タンドリーカラー(食紅)
その他:
・無糖ヨーグルト(適量)
・レモン
・ショウガ
・ニンニク
・塩
・胡椒
あー ちなみに大さじ何杯とかそういうのは割愛!そんなの守っても旨くないから、大体味見ながらやってみてください。それと、これは通常2日がかりです。最低でも6時間はタンドリーペーストにチキンをつけないと意味がないの
で、前日の夜から仕込むようにしましょう。
まず、鶏肉に下味を付ける。塩を多めに万遍なく振り、レモン汁を多めに絞り、これをよく揉み込む。
塩味をつけて余分な水分を抜くことと、そして酸味をつけることがポイントだ。鶏肉は淡泊な味で酸味成分がないため、柑橘などで足してやらないと単調な味になってしまうのである。これで1時間ほど寝かせると、水分が出てくるのでそれを手でしごいて次の工程へ。
タンドリーペーストを作る。無糖ヨーグルトにニンニクのすり下ろしとショウガのすり下ろしを、「ドカッ」と入れる。
「あ~ そんなにいれるの?」
とミソノ氏が叫ぶくらいに、だ。タンドリーチキンは上品な味つけにしては面白くない。ドカンといこう、ドカンと。
そうしたら、スパイス類を足していこう。
基本、ヨーグルト500mlにクミン、ガラムマサラは大さじ山盛り一杯ずつくらいと考えていいだろう。
チリペッパーについては何とも言えない。
辛いの好きな人はタップリ加えて欲しい。
そしたらタンドリーカラー(食紅)をちょっとずつ加える。少量でかなりキツイ色がつくので気をつけよう。色合いだが、インド料理なんだから、けっこう派手目に赤くなるくらいでいいと思うゾ。
これに塩を加えて味を調える。鶏肉に下味がついているので、それほど濃くなくてよい。
そうしたら、このタンドリーペーストを鶏肉にからめる。
ここではボウルに入れているが、ある程度の量があるなら、ビニール袋に入れるのが一番いいと思う。
この状態で最低でも6時間は寝かしておこう。
さて6時間以上経ったら、いよいよ焼きに入る。焼きは何でやるか?そもそもタンドリーチキンのタンドリーとは、インド料理には欠かせない金属製の壺の釜である。この釜の中に炭を燃やし、オーブンにしてナンやチキンを焼くのである。でも日本の家庭でタンドリーなんて買うわけにはいかないので、他の道具を利用するしかない。
フライパンで焼くのは×である。すでに実験済みなのだが、水分が飛ばずパリッと焼けない。オーブンで焼くのも、火力がおとなしすぎてうまくいかない。一番いいのは、、、魚焼き用のグリルである。これの網をとってしまい、鉄板のうえにアルミホイルを敷く。そのうえにチキンを並べて焼くのである。
直火の強火で焼くと、チキンの外側がパリッと焼ける。しかも、手羽元ならば中心に骨があるので、わりと早く、ジューシーさが残るように焼けるのである。これはノウハウだな。そうそう、焼く時に、鶏肉についているペーストは、あまり拭う必要はない。ペーストが焼けるとのヨーグルトの水分がぬけて、スパイス風味の濃い良い衣になるのだ。
こんな感じでバッチリ焼けるのである。
このご家庭でもできるタンドリーチキン、結論からいうと最高に旨かった。
タンドリーペーストはクミン・ガラムマサラ・ペッパーと3種のスパイスしか使っていないのに、複雑玄妙な味わいである。ヨーグルトに加えてレモンを利かせることで、酸味が適度に補充され、食をそそる。ニンニクとショウガをこれでもか!と利かせたのは正しかった。かなり香ばしく風味が出ている。そして肝心のハバネロの辛さだが、とてもいい感じに辛い!汗が出てくるが、一心不乱に食い進んでしまった。カメラマンとミソノ氏も無言でしばし食べまくる。
と、こんな感じだったのだ。この詳細版というかアホらしバージョンが、紙面には載っていると思って欲しい。ただ、レシピはもうすこし厳密なものが載っているので、レシピをきっちり知りたい人はどうぞ買ってね。
さてこの取材から1ヶ月半後、ある集まりでタンドリーチキンを60本作ることになった。60人集まるということで、60本。手羽元の調達からかなり凄まじい話になりそうである。折しも仕事が超繁忙期だったので、3日がかりで少しずつ作っていった。
まず一日目、鶏の手羽元65本を調達。これに塩をし、レモン(5個分)を絞り、ビニール袋で3つに分けて下漬けをする。
2日目、ヨーグルト1.5リットル分のタンドリーペーストを作る。大型ボウル一杯分のペーストを作る際、リニアにスパイスの分量を等倍すればいいというものではない。分量が多くなると、味のアタリがつくポイントは全く変わってくるのだ。なので、スパイスはドカドカ、ニンニクもドボドボ、指を入れて舐めまくって味のアタリをつける。これを、汁気を絞った鶏肉のビニールに入れて、揉み込みながら冷蔵。
3日目、よく漬かった鶏肉を取り出し、自分で編み出した魚焼きグリルと電気オーブンに並べる。一回25本程度焼けるので、3回転くらいで焼き上がる寸法だ。
しかしここで計算が狂った。グリルは強火の近火なのですぐに焼けるのだが、オーブンは210度にしてもじりじりとしか焼けない。しかも、肉から大量に汁が染み出してくる。この廃液だけでも相当な量が出てくるので、途中でこの肉汁を捨ててやらないと、焼きじゃなくて煮になってしまう。これが今回の廃液である、、、↓
鶏の脂がどっぷり入ったこの汁、なにかに使えないもんだろうか、、、
さて四苦八苦しながらも焼き上がりはなかなかのものだ。
換気扇は前回、冷房をガンガン効かせても汗が噴き出してくる。どんどん焼いて、段ボール箱に油紙を敷いて詰めていった。
どうにか60本焼き終えて会場入りに間に合った。食べた人は口々に「美味しい!」と言ってくれた。
このタンドリーチキン、手間はかかるが、技術的には難しいものはまったくない。材料もそれほど高くないし。スパイスはアメ横大津屋で買えば100gで400円程度で済む。100gなんて普通使い切れないよ。ぜひこのタンドリーチキン、もてなし料理にしてみて欲しい。僕はもう、会得した。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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