幻惑の錦にて名古屋コーチン料理を堪能 「鳥銀本店」

2004年9月 5日 from 出張

 名古屋の錦といえば大歓楽街である。夜21時過ぎに歩くと、クラブのおねーちゃんや和服姿のママさんなどがスーツ族を見送りに出たりしていて、非常に晴れやかだ。新宿の歌舞伎町なんかよりも全然ものすごいパワーを感じる。でも、そういう店にいっても美味しい飯はないので、俺は全然関心がないのであった。
(しかしながら、クラブのおねーちゃん連中は旨いものには目がない人たちが多い。情報源としては非常に重宝する場所である。)

 久しぶりにK原に会う。75Kgあった体重が25キロ減ったという彼は、まるでホストとみまがわんばかりの浅黒い肌に茶髪であった。

「すごいだろー、これ、肌が黒いのは薬のせいもあるし、茶髪なのも自然に色が抜けちゃったんだよ。」

彼は今年の前半に肝硬変で倒れ、死線を彷徨ったのである。数億円を稼ぐ営業技術は飲みの能力と言ってもいい。売り上げと引き替えに身体は蝕まれていったのである。そこから復帰してすぐ、名古屋に配属になった裏には、会社から「養生してくれ」という暗黙のメッセージがあったのだろう。奥さんからは「そんな会社辞めてしまえ」と言われながら、しかし気分一新のために名古屋で単身赴任生活を始めたのであった。

「そんなに痩せたお前を観るなんて不思議だよ。」

「やまけんも気をつけた方がいいぜ~食い過ぎにな」

さてヤツが連れて行ってくれたのは、名古屋コーチンを食べさせる有名店「鳥銀」である。

新橋にあるチェーンの「鳥銀」とは別モノなのでご注意。錦に数点支店を出すほどに人気のある店だ。

味噌煮込みなんかに使われているのは食べつけているが、名古屋コーチンを焼き鳥でまともに食うのは初めてかも知れない。カウンターに陣取り、とにかく焼き鳥数種を注文する。

「首肉、ねぎま、レバー、つくね、、、」

ここでは、2串で450円のネタと500円のネタに別れている。つまり1串最低225円で、やはり通常の鶏を食わせる焼き鳥屋からすれば割高だ(バードコートは別だが)。しかし、運ばれてきた串を食べて納得。

「旨いなぁ、、、」

旨い鶏だ。まずジューシーで、置いた串からジュワジュワと肉汁が流れ出ている。


もも肉を、炭火でカリっと焼かれた皮目から囓ると、軽いコゲ味の裏から清い旨味が立ち上ってくる。

ああ、これか、この味か。比内地鶏に感じる上品さが、ここにもある。しかし、この鳥銀の味付けはかなり庶民派でしっかりしている。タレで焼いているネタは濃い目加減で俺好みである。

刺身はあっさりしている。

僕はどちらかというと宮崎の地鶏たたきのような歯応えと濃い旨味を求めているのだが、この上品さもまたカラーである。かなり手を入れてある醤油につけて砂肝刺しを食べると、コリコリとした歯触りに清冽な香りがした。

「まあ、一時は何もやる気がなくなったんだけど、よく考えてみたら一度死にそうになって、でも神様が『まだ死ぬな』って戻してくれたんだよな。で、しばらく家に居て、子供と久しぶりにゆっくりできる時を過ごして、すごく幸せだった。だから、得した気分だよ。もう何も怖くないね。」

淡々と話すK原には全く気負いを感じない。この脱力加減は本当に死線を垣間見た人間にしかできないものなのだろう。安心したと共に、人間34年(彼は僕と同い年である)生きることの重さを感じた。

「はい、釜飯です! しゃもじでよく混ぜてお召し上がり下さい」

コーチンの肉がタップリ入った釜飯は、肉に味が染みていてこっくりと旨い。
釜飯としての軍配は人形町の鳥長に分があるが、これはこれで旨いものだ。

鳥スープを飲み、勘定をしようとすると、ヤツが俺を制して「まあ名古屋ではいいよ」とカードを出してくれた。

20分くらいかけてK原の部屋へ。名古屋城の堀端、中京新聞社の目の前の好立地にあるマンションの一室で、着いたらバタンキューだった。

しかし!
なんとそのマンションから50メートル地点に、大好きなコメダ珈琲店を発見!朝のモーニングはここと決定したのであった、、、