カレー3景 名店「デリー」上野店と新川店についての考察

2004年8月17日 from 首都圏

 浄水器のカートリッジを買うため、上野ヨドバシに行く。うちで使っているのはシーガルフォーだ。性能的には過不足ないが、人に浄水器を勧める際にはゼンケンというメーカのものにしている。実家や和歌山の親友・津田ちゃんに買ってあげたのもゼンケンで、シーガルフォーの半分くらいの価格で同じくらいの味が得られると思っている。ま、僕はシーガルフォーを買ってしまったから仕方がない、一生使い続けるつもりだ。ちなみに僕が浄水器を選ぶ際に気にするのはほぼ出てくる水の味のみなので、有害物質云々についてはよくわからない。

 上野と言えばアメ横だ。アメ横と言えば僕にとっては、スパイスの大津屋詣でをしなければ気が済まない。

大津屋商店
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/000348.html

 以前、上記記事で紹介したように、この大津屋商店は、在日のインド人・パキスタン人から絶大なる信頼を得ている店で、乾物が並ぶ表から店内にはいると、びっしりとスパイス類やインディカ米、その他カレー関連の食材が並んでいる。スパイスメーカが情報収集のために未発売サンプルを置いていくような店なのである。
 「ハーブスタイル」という雑誌にこの店に食材とレシピを教わる連載を担当しているので、ここのオーナー一家である竹内さん親子とは仲良くさせて頂くようになった。

「ちはーっす。」

「あれ、どうもどうも。こないだ言ってた新商品出ましたよ!その名もカシミールカレーパウダー。」

おお! 出たか!

 カシミールカレーと言えば、カレー好きはすぐに名店「デリー」を思い浮かべるだろう。デリーはここ上野(湯島)に本店のある、インドカレーの専門店である。そのラインナップ中、マニアからの絶大な支持を得ているのが「カシミールカレー」だ。Googleで「デリー」「カシミールカレー」と検索すれば、嫌と言うほどに評価記事が出てくると思うので、詳細はそちらの方をみていただきたい。とにかく絶妙な香りと辛さを誇る、完成度の高いカレーだ。2チャンネルなどでは、このデリーを語るスレなるものまで存在する、実にコアなマニアの多い店なのである。

 で、大津屋の竹内さんがみせてくれた「カシミールパウダー」だが、これはデリーのカシミールによく似た味のカレーが出来るんだそうだ。どこのメーカーが作ったのかは知らないが、ものすごい執念である。きっと通い詰めたんだろうな。

「スパイスを一から調合して専門店の味を出すのはとても難しいです。それよりもおそらくパウダーを使った方が美味しいはずですよ。」

そう、竹内氏の仰るとおりで、ヘタにスパイス類を自分で合わせるよりも、パウダーの方が旨い場合が多い。これは、熟成に関わっていると思う。スパイスをフレッシュに使う場合は、クミン、カルダモン、コリアンダー等を単品で投入した方が旨いと思うが、ミックススパイスは、合わせてから時間をおいて、熟成させる。そうすると化学変化が起きて、複雑な風味が生まれるらしい。

このカシミールパウダー、100gで350円程度だったので購入してしまった。しかしこのパウダーがあればカシミールカレーが出来るというものではない。僕も好き者なので、カレーに関するレシピは古くから文献をあさっているのだが、ずーっと前に出た料理ムック本に、デリーのレシピの一端が出ていた。そこではベースとなるカレーを作った上で、そこにカシミールペーストなるものを投入する。このペーストが、カラメルに多量のレッドペッパーとスパイスを投入するものであった。今回かったパウダーはこのカシミールペーストを作るものであって、他の部分は自力で作らねばならないのではないかと思う。そんナン無理だわなぁ。でも、買っちゃった物はしかたがない、次の休日あたりにきっちりカレーを仕込んでみよう。


さて
アメ横に来て、しかもカレー食材を買って、デリーを素通りする手はない。御徒町駅から徒歩で8分くらいと、少しはずれたところにあるデリーへと向かう。湯島駅からは近いらしいが、湯島って駅を使ったことがない。

■デリー上野店
http://www.delhi.co.jp/text/shop_ueno.html
東京都文京区湯島3-42-2
TEL03-3831-7311
営業時間/11:50AM~9:30PM
年中無休


 色んなファンがいらっしゃるようだが、この上野店こそがデリーの聖地と言えるだろう。ま、あまた居るデリーマニアの前で、僕ごときがデリーを語ることは遠慮しておきたい。だってまず第一に、僕はデリーファンではあるが、「カシミールカレー」のファンではないのだ!
 カシミール、確かに旨い。けど、刺激が強すぎて、一年に一回くらい食べればいいかなと思う。僕が毎回食べるのは「コルマカレー」だ。カシミールカレーは、ガツンとくる辛さの他はかなりシンプルにしてストイックな味。これに対して、コルマカレーはタマネギペースト等がタップリ使われているのだろう、マイルドでゴージャスな味わいだ。カシミールが垂直に伸びる剣のような旨さだとしたら、コルマは旨味が水平に拡がるリッチな味の世界といえよう。

 これが上野店のコルマカレーである。ライスとルーは別皿。

 ちなみにこの上野店のライスの盛りはかなりイイ。僕は大盛りにするのだが、きっちり満腹になる量である。大盛りにしても1000円。これは価値の高いカレーである。
 口に運ぶと、タマネギペーストによりネットリとしたルーの感触にあわせて、あのリッチな香りが拡がる。そして若干の辛み。ああ、言い忘れたが、コルマカレーは辛みを調節できる。「ホット」と言えば、2倍の辛さにしてくれるのだ。僕はいつも「コルマのホットご飯大盛り」である。

 このデリー、テーブルやカウンタに置いてある付け合わせ類がすばらしい。インド料理の矜持か、福神漬けとらっきょうではなく、タマネギのビンダルーペースト和えと、キュウリの酢漬けが置かれている。僕はこいつを大量に添えて食べるのが好きなのだ。

 このコルマカレー、僕はデリーの芸術品だと思う。

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さて今回のエントリ、タイトルに「3景」とあるように、もう一店書いておきたい。

 デリーは数店の支店があるが、その中に新川店というのがある。地下鉄の茅場町と八丁堀の間くらい、永代橋から500mくらいの企業ビルばかりがならぶ地点にある。

 前の会社が新川にあった関係で、僕は上野店よりもここを愛用していた。しかし、さきのデリーのWebの支店一覧に新川店の名は無い。新川店は直系・直営の店ではなく、のれん分けの店なのだそうだ。無論、店長さんはデリーで15年以上腕を磨いていた人である。だからこそデリーも暖簾を認めたのであろう。

 この新川店と上野店では、明らかに味の傾向が違う。このため、デリーマニアの間では熱い論争が繰り広げられている。とりあえずカシミールのファンは、新川の味は許せないという人が多いらしい。
 しかし僕はコルマのファンなのである。ことコルマカレーについては、新川店の味はよいと思う。どっちがいいと言う問題ではない。味の傾向が違うので、「僕は○○の方が好き」としか言えない。そして僕は、味わいの甘い、新川店を好む。上野店のコルマは、リッチさと芳醇さでは新川店より上だと思うのだが、スパイスの立ち方がやや強い。それを好きな人もいるだろうが、僕は新川店の、スパイス香を押さえ目にして、その分旨味を最大限に味蕾に感じさせるような構成にしているのが好ましい。

 食べながら店長さんに訊く。

「ダンチュウに掲載されてしまったから、客が増えてしまったんじゃないですか?」

「そうですね、ランチタイムは大変なことになりますね、、、」

「上野店とかと比較されたりします?」

「うん、結構好みが違う人が多いらしいですからね。上野店はインドのシェフが作っているので、スパイシーな方向なんです。僕は日本人なので、また違う味を出した方がいいかな、と思ってやってます。でも、デリーで15年以上やってきてますから、デリーの味ですよ。」

やはりそうなのだ!
彼は確信を持って、自分の味を追求しているということだ。しかもデリーという暖簾に対する誇りと尊敬はきちんと持ちつつ、である。

 デリー上野店と新川店。僕は両方が好きである。凡百のカレー専門店では敵わない完成度の高いカレーがそこにある。この日も、付け合わせのタマネギときゅうりを一缶分全部食べてご満悦の僕であった。

 次の休日は、カシミールパウダーでカレーに決定である。