埼玉で見つけた 野菜の旨いビストロ 浦和「ビストロ・ド・タニ」

2004年7月30日 from 首都圏

 今年の母の日は、妹が両親と僕を招いてフレンチをご馳走してくれた。大して期待していなかったのだが、これが存外に美味しく、また唸るほどリーズナブルで気に入った。その店を、埼玉の浦和駅からすぐの処にある「ビストロ・ド・タニ」と言う。

 ちなみに僕の実家は埼玉県にある。高崎線で大宮を更に20分ほど北上したところにある北本駅という、なーんにもない街である。僕が子供の頃、都会といえば大宮か浦和であった。ジャッキー・チェンの映画を観るために大宮に行き、吉野家の牛丼を食べ、ゲームをして帰るのが唯一の娯楽だった。高校に入ると、浦和の須原屋という、当時としては大きな書店に本を漁りに行ったものだ。ただ、県庁所在地とはいえ、当時から大宮の方が勢いが良く、余程のことがない限りあまり浦和には立ち寄らなかった。先だって浦和や大宮が合併して「さいたま市」になったので、現在は駅と地名の区分しかないが(←いまだになじめない)、浦和が持つコンテンツといえば県庁しか思い浮かばないという状況であった。

「浦和にさ、野菜の美味しいフレンチレストランがあるんだよ!」

と妹が言う。妹が勤務する会社の関係で初めて訪れて、あまりの美味しさと安さにびっくりしたらしい。恥ずかしいことに、店名にもなっているシェフの谷さんには僕の本「実践農産物トレーサビリティ」を謹呈したという。
 母の日当日、その噂の店で食べたのだ。確かに旨い。そして野菜がふんだんに使われていて、繊細さを感じる。残念ながらこの時、デジカメ紛失期間であったので、撮影できていない。ということで、再度妹を呼び出し、食ってきたのである。

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■ビストロ・ド・タニ
埼玉県さいたま市浦和区岸町7-6-13県パンビル1F
048-824-0993

店は浦和駅から県庁に向かう途中をひょいと左に曲がり、150m程歩いたところにある。十分徒歩圏内である。
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 店のある通りは、メインストリートを一本折れるため少し寂しいし殺風景なのだが、外観は優雅である。

 店内に入ると、中央のテーブルにトマトとパインアップルが並べられている。この店では、確か奥さんの実家だったと思うが、そのお父さんが野菜を栽培して店に提供しているらしい。だから、ふんだんに新鮮な野菜が盛り込まれた料理を提供できているということだ。

「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます。」

 コックコートの谷シェフが挨拶に来てくれる。まだ40代だろう、若く、本当にまじめそうな腰の低い方である。こういう人は好きだ。写真を撮るのを忘れてスミマセン →谷さん

 この日はランチなのだが、コース内容は限りなくレギュラーコースに近いと思う。1800円、2100円、2800円といった段が付いている。2800円は、前菜に魚、肉、デザートというほぼフルのコースだ。今回は、2100円で前菜、スープ、メイン、デザートというコースにして、アラカルトで数品頼むことにした。

 厨房を観ると5人くらいで回しているようだ。若くしっかりした人たちが立ち働いている。ホールを担当しているのは奥様だ。

■前菜

★野菜のサラダ

 さすがに野菜サラダはふんだんに具材が使われている、食べ応えのあるサラダ。とうもろこし、ジャガイモ、オクラなどの火の通った野菜が旨い。

★冷製茄子とトマト、鶏胸肉のバジル風味

 僕はこういうマリが大好きだ。トマトと胸肉の下には、揚げられた大きな茄子の切り身が敷き詰められている。バジルドレッシングの香りと甘さ、酸味が冷えた揚げ茄子のトロリ感とコクと相まって、旨い。

★スズキのカルパッチョ

 季節的に定番のカルパッチョにも野菜がふんだんに振りまかれている。ラディッシュ、キュウリ、シブレット、セルフィーユ、枝豆など。うだるような暑さが続く関東ではありがたい涼やかさなのだ。

■アラカルト

★うずらのガランティーヌ
 単品で採ったのは、うずら肉の骨を抜いた部分にフォアグラを詰め、ガランティーヌにしてコンソメの冷製ジュレをかけたひと皿だ。

うずら肉は臭みも無く、シコシコとした食感。温かい皿ではないので肉の旨味を少なく感じてしまうが、フォアグラ好きの妹はウズラ肉とフォアグラのコンビを喜んでいただいていた。

★スカンピのグリルバルサミコ風味
 スカンピは定番素材だが、ここは仕入れがよいのだろうか、品質の良いスカンピが出てくる。

 僕は国内では、三浦の長島農園から近い長井漁港のスカンピをよく頂くことがあるが、1本で1000円くらいとかなり高い。タニのスカンピは、2匹分が半分に割られて4片載っていて2000円に満たない。なんだかリーズナブルに思ってしまう。バルサミコソースを身になすりつけると、身の甘さ、旨味と酸味が相まって極めて旨い。みっともないが、手でつかみ頭部のミソ部分を啜り、殻を囓る。ビストロだからいいよな。だって旨いんだもん。

カボチャの冷製スープをいただいて一息つき、メインだ。


■メイン

★鮭のソテージャガイモのマッシュ添え

 多量の野菜で隠れているが、ジャガイモのマッシュの上にノルウェーサーモンのソテーが載り、そこに温野菜(モロヘイヤ、青菜←なんだったろう?と麦など)が散らされている。モロヘイヤのトロ味と、油脂を感じるマッシュポテトの相性がなかなか良い。

★豚肉のロースト

 もう一つのメインは豚のローストだ。観ての通り、こちらも野菜がちりばめられている。

 観てきておわかりと思うが、どの皿も分量的にはかなり一杯に盛られている。もちろん野菜が占める割合が大きいので、ボリューム感の割にお腹に優しい。しかし、「カラフルで野菜一杯でヘルシー」なだけではつまらない。きっちりとした味付けで、腹も一杯になる。僕のような大食い男性にも、欲張りな女性にももってこいだろう。
 しかも、この日は3人でテーブルを囲んだのだが、会計は12000円程度だった。アラカルト2皿を加えてこのボリューム感で一人4000円はリーズナブルだ。ま、ワインなどを飲まなかったからだろうけど、納得感のあるボリュームだった。店も、あれよあれよという間に満席になり、入れない人もいたくらいだ。そりゃ、人気でるよな。この価格なら全くお手頃だ。

 逆に、おそらく埼玉県という土地柄は、価格的にはこれくらいに押さえないと厳しいのだろう。東京であればまず2割高に価格設定けしないとまかなえないはずだ。ボリュームがあって美味しく、かつリーズナブルな店を探すなら、やはり首都近郊の外縁部か。(←浦和は県庁所在地だから外縁とはいえないかも知れないけど)

 この店以外にも、町田で野菜を旨く食わせるダイニングを教えてもらっている。これについてもまた書こう。

 ともあれ、野菜をストレートに素材に組み合わせて供する、けれんのない佳い店が出てきつつある。いい時代になってきていると思う昼下がりだった。