2004年7月25日 from 出張
「東京がら来た人が食べるんでね、地元のめずらすぃ料理をお願いします。」
仕事を終え、秋田市内に向かう車中、Nさんが店に電話を入れてくださる。このNさんの秋田弁は掛け値なしに最高だ。空港を降り立ち一言挨拶を交わしただけで、身も心もすっかり東北・秋田に来たのだ!という実感が沸いてくる。
言葉は文化。そして方言は国の宝だ。東京で起居する僕には、空港に降り立った後に感じるこの絶妙な言語的差異が本当に心地よい。からかう訳では全く無く、真似してしまう。
「いやこっちは普通に(標準語で)しゃべってるつもりなんだけども」
というその口調がすでに秋田なのである。そうそう、車中でこんな会話があった。
「山本さんは、彼女なんにん?」
え? 何人の彼女がいるかって? かなり汗をふきだしながら、
「え、え~と、、、うーん 10人とか答えればいいんですかねぇ」
「ん? 何年って訊いてるんだけども」
「ああああ なんにんじゃなくてなんねんかぁ!」
このように車中は爆笑の連続なのであった。
僕が発見したのは、語尾に「にゃぁ~」というような音が付くケースである。相手の発言に同意の相づちを打つ時に、短く「ですね」ということがあるが、これが秋田では「ですねゃ」と聞こえることが多い。昔、友人にそれを指摘すると「いや、『ですね』って言ってるよ?」という。その時は聞き違いかと思ったがやっぱり違うぞ!N氏も同じ発音である。
「まあ、一般的秋田人は全く意識してないでしょうねぇ、、、」
================================================
さて 車は秋田県庁がある山王(さんのう)地区周辺へと向かう。秋田市内の繁華街といえば「川端(かわばた)」なのだが、本日は僕の止まっているホテルが県庁近くなので、県庁があるもう一つのおとなしめ繁華街の山王地区で店を探してくださったのである。
「前に子供のクラス会で使ったことがあるんですが、、、旨かったんですよ!」
ようやく旨いものが食べられるのか!期待に胃袋が拡がる。いったんホテルにチェックインする。今夜泊まるパークホテルは、なんと一泊4100円の安さである。その分、風呂が共用の大浴場しかないが、全然Okである。その1Fレストランでカレーフェアというのをやっていて、インドネシアのナシゴレンやタイのカレーなどがメニューに並んでいた。キーマカレーが500円!のけぞる価格に食べたくなるのを必死に押さえる。帰ってから食べようかなぁ ラストオーダーは9時か、じゃあ2時間で帰ってこよう、と、この時点では思いながら出発。
県庁の庭先では、秋田市の竿灯祭りに向けた練習が行われていた。
昔、和太鼓を打っていた僕には懐かしい響きがしていたのであった。
その横を通り過ぎ、山王の繁華街へと入る。程なく、青い看板がみえてきた。
「ここですここです。」
================================================
■海味(うみ)
秋田市山王2-7-19 ロイヤル山王ビル2F
018-863-6723
================================================
「はい、いらっしゃーい」
美人女性2人の仲居さんと女将に迎えられ、座する。
店名のとおり魚が有名らしいのだが、鍋や肉料理も旨いという。
「ここの塩くじら鍋ってのが本当に旨いんですよ! 鯨のコロ(皮と脂身)を塩蔵したものの鍋に、山菜のミズの叩いたのをどさっと入れて、トロトロになったのを食べるんですヨ!」
うおおおおおおおお
旨そぉおおおおおおおお!
次回は絶対にそれなのである。この店には食べる前から旨そうな雰囲気が漂っている。かなり期待していたその矢先、突き出しが運ばれてきた。
「はい、ミズのぼんぼんのガッコ」
おお?なんだこれは!
「これはね、ミズの先に着く円い部分を一つ一つとって、漬け物にしました」
これもミズなのか!一つ口に運ぶ。
円い部分を噛みしめると、中からトロリ爆弾が炸裂し、あのトロトロのしぶきがプチッとほとばしる!その後に塩味が跳ね、一気に山の味を現出させるのだ!
「旨いっ 文句なしに旨い!」
これだけでもう大当たりである。同じく運ばれてきた白魚も鮮度がいい。
そして、期待の一品が早くも並べられる。
「はい、ミズと野菜のがっこ。」
キャベツ、キュウリ、そして赤ミズをふんだんに使ったがっこ(漬け物)だ。ほどよい塩加減に旨味がついた漬け汁に浸されたミズは、一瞬表面の歯応えを感じるが、カリッと噛みしめた途端に甘い汁とトロトロを染み出させる。
「おおおお これも旨いぃいいいい これがホントのミズのガッコかぁ、、、」
感動である。これまでこの店に行き着くまでに討ち死にしてきた秋田の飲食店の不満を一掃する旨さである。この店、佳い!
「やまけんさん、これがきりたんぽ鍋ですよ!」
N氏がまだ火のついていない鍋を開けて見せてくれる。美しい、、、きりたんぽは、米を練り、ちくわのように棒にくっつけ、囲炉裏端で焼き目をつけた郷土食だ。
「ここでは普通、出し汁は比内地鶏でとって、実として食べるのは赤鶏という地鶏なんですが、今日は比内地鶏をそのまま実として使ってくれと言ってあります。」
おお! いうまでもなく比内地鶏は国内有数の地鶏に数えられる名鶏である。ただし単価が高すぎて、飲食店で使うのには相当に苦労する。それをきりたんぽ鍋にダシ&実で使ってしまうのだから贅沢だ。 うーむ
「さて そうすれば、鍋も始めましょう。」
上で出てくる「そうすれば」というのも秋田言葉で、「それじゃあ」という意味でよく使われるようだ。とにかく、N氏により点火がされた。真夏の鍋の始まりである。
(続く)
※これから所用で長野のネット環境の無いところに行くので、火曜日更新となります。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
本サイトの著作権はやまけんが保持します。出版物・放送等に掲載される場合はご連絡を下さい。トラックバックはご自由に。