2004年6月 1日 from 首都圏
イタリアン好きならば、「イ・ビスケッロ」というトラットリアの名前を聞いたことがあるだろう。なぜか江東区木場にひっそりと在るこの店が名店、それもあまり人に教えたくない隠れ家的名店として知られているということは、僕も認識していた。しかし、これまでは行ったことがなかった。敷居がちと高そうだったからね。
そんな中、僕が愛する大阪の「旭ポン酢」を大阪帰りのついでに買ってきてくれたblog読者のkappaが「どうせならイ・ビスケッロで受け渡ししようよ」と言うので、これ幸いとばかりに行ってきたのであった。実に噂を初めて聞いてから3年目にしてようやくである。
場所は書かない。オフィシャルなWebにも記載されているので、そちらを見て頂きたい。なぜかと言えば店の人が言うのだ。
「あまりお客さんにドドッと来ていただきたくないんです。」
、、、なかなか言えるもんじゃない。
今回はランチコースだ。13時に訪れると、広い店内には一人もお客さんがいない。
テーブルの間隔も広めにとられており、落ち着いた雰囲気である。なんとなく暖炉がありそうな暖かみを感じるのは、北イタリア料理を標榜しているからだろうか。
ランチコースは2500円と3500円。本日は2500円の方だ。ちなみにランチの場合は前日夜までに予約が必要だ。給仕の女性は、これまた浮ついたところのない落ち着いた女性で、笑顔でとサーブをしてくれる。
「本日のコースは、生ハムと季節の野菜のサラダ、旬のシラスのスパゲッティ、そしてデザートとなっております。」
シラスのスパゲッティ!それはまるでシチリア料理のような響きだ。北イタリア料理っぽくはないが、どういう料理なのか!?パスタ研究bloggerであるkurakiさんのWebでも見たことがないゾ。思わず声が出た。
「あ、あの、、、スパゲティ大盛りって可能ですか?追加料金とってくださっていいので、、、」
「は? 、、、はい、ちょっと厨房に確認してきますね。」
1分後、にこやかに戻ってきた彼女は、「1.5倍増しできますよ。」と言ってくれた。思わず「2倍に」と言いかけてやめた。大人は「足るを知る」ことが重要なんである。
さて一皿目のサラダだが、ランチコースでいただくにはとてもゴージャスな内容だった。
上から見ると葉野菜で隠されているが、中には丁寧に蒸し煮された春野菜が生ハムにくるまれている。
重要なことなのだが、それぞれの野菜にはしっかりと塩とドレッシングがまぶされ、それにバルサミコとオリーブオイルベースのソースをつけると、野菜の味が強調される。素材がよければ何もしなくて美味しい、という言い方もあるが、素材の味をきっちり引き出す塩加減を「塩梅(あんばい)」というのであって、これがしっかりしていないと料理として旨くは成らない。この店のサラダはそれがなされていると思った。
しかもこの生ハムが旨い!給仕の方に訊いても産地の名前は忘れちまったが、パルマではなく3番目くらいに有名な産地のもので、味が柔らかく好評だという。たしかに野菜に合わせるにはこのような優しい味加減がいいだろう。パンでドレッシングまで拭いていただいた。
さて、スパゲッティが、海とトマトの香りをぷんぷんさせながら運ばれてきた。
旨そうダ!
正直言って、来るまで「北イタリアかぁ、、、もう暑くなってくるし、カルボナーラとか出てきたらやだなぁ」なんて思っていたのだ。それと、「シラスのパスタ、、、どうせ、アーリオ・オーリオ系でオイルベースのさっぱりしたパスタだろうな」と思っていたのだ。でも、、、全然違う!!写真見ただけでわかると思うけど、あの濃い目のトマトと魚介のひねた香りがネットリと漂ってきて、すばらしく旨そうなのだ!なんだか最近はまったシチリア料理の香りがする。
早速フォークに麺をからめ、シラスを塗りたくって口に運ぶ。適度に熱々の流体から、ものすごい香りの塊が弾けた。オイルの奥にニンニクとシラスの旨み、そしてなんだかわからないのだけど、適度にひねた感じの香りのエッセンスが漂ってくるのだ!シラスは熱を通されているので、とろとろになりながら塩辛的旨みをだしている。そうか、旨みと香りの基はシラスだ。考えてみれば、シラスははらわたも食べてるわけだもんね。アンチョビとは違った旨み成分の溶出元なのだ。
「旨い!」
本当に旨い!トマトソースもこってりと濃く、満足度十二分である。やっぱり二倍にしておけばよかったと悔やむのであった。あっという間に食べてしまい、デザートにはパンナコッタを頼む。
ぽってりと球形のパンナコッタ、ピスタチオやアーモンドの香りがする、手の込んだものだった。美味しい、、、
これにコーヒーが付いて、2500円。あのパスタは1200円以上の価値がある。生ハムがたっぷりと盛られて、野菜にも丁寧な仕事がされたサラダが800円、デザートとコーヒーで500円と割り振れば、むちゃくちゃリーズナブルだろう。満足した。
しかし、こんなお店なのに、13時から僕ら二人だけだ。
「いえ、その方がいいんです。夜の仕込みをしながらお昼を食べてくださる方にお出しすると言う感じなので、沢山お客様がいらっしゃると困るのです、、、」
と、あくまで「あんまりお客さんが増えて欲しくない」という基本線を崩さない。
だから言おう。皆さん、イ・ビスケッロは旨い!けど、行っちゃダメ!おいらは月に一回にとどめようと思った。Kaapa、誘ってくれてありがとな!
このように、木場にはなぜか名店がある。なんとなく、地元に誇りを持った昼だった。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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