2004年5月28日 from 首都圏
どんな野菜や果物にも旬というものがある。旬とは、その野菜がもっとも美味しくなる時期、そしてもっとも数量が出る時期を言う。そして今、旬を迎えたものといえば、ホワイトアスパラガスをおいて他にないだろう。
ホワイトアスパラというとき、缶詰しか食べたことがない人も多いことだろう。あれが本当のアスパラの味だと思っているのだとしたらそれは不幸だ。ぜひフレッシュなホワイトを味わってみてほしい。全くの別物であり、フレッシュが本物だ。缶詰ものは味や香りが溶脱してしまっており、かつ食感がグズグズ。とはいえあれはあれで美味しい物なのだが、本物と同様視してしまってはいけないと思う。
ホワイトアスパラは、グリーンアスパラを遮光して軟白化させたものだ。簡単にいえば日光に当てず、白くさせたもの。土をかけたり、日光の入らないムロで育てることによって、光合成がされないので、緑色にならないのだ。そうなると一般に、甘くえぐみのない、優しい味になる。ウドなんかも同じだ。アスパラの遮光の方法は簡単で、芽が地上に出ようとするところに土を盛り上げ、ずっと陽に当たらせないようにして伸ばしていく。少しでも太陽に当たると、穂先が変色するので、農家にとってはタイミングを見計らい土を盛る作業が重要だ。
僕も学生時代に持っていた畑でグリーンアスパラを5株ほど植えていた。アスパラは、種を蒔いて一年で収穫し終わる物ではなく、株を植えておくと毎年そこから新しい芽が伸びてくる、いわゆる宿根ものである。これは、亥年生まれアントニオ猪木的猪突猛進タイプ短気爆発型の僕としては非常にイライラさせる作物で、ようするに畑の片隅に通年で植わっている存在を忘れてしまうのである。そして春が来ると芽が出て(つまりグリーンアスパラ)くるのだが、いつも取り忘れてスジっぽくなってしまうのであった。そんな僕がタイミングをみはからって土をかけ、ホワイトアスパラにするなど夢のまた夢であった。ということで、僕にとってホワイトアスパラガス農家は敬意を払うべき存在である。
さて毎年この季節になると、代々木上原のフレンチ「カストール」から、アスパラコースの案内はがきが届く。この店では、ずっと岩手県の国産ホワイトアスパラガスを入手し、その絶品な味を堪能させてくれていた。しかし、、、今年は残念な知らせがあった。
「山本さん、とうとう国産の入手ができなくなりました。高齢化が進み、品質のよいものを確保できません。」
詳しくはお店のWebに、藤野シェフの肉声で記載されている。
※「10.05.2004 「ホワイト アスパラガスのフェアー」が始まるにあたって 藤野」をご参照。
しかし案ずるには及ばない。藤野シェフが先日パリに行った際に有機栽培ものを食べ比べして、「これだ!」と思うものをチョイスし輸入できるようになったため、今年はフランスの旨いアスパラを用意できたとのことだ。鮮度面でも全く問題ないそうだ。実は輸入物のホワイトアスパラも藤野さんに料理してほしいと思っていたのだ。それはそれで嬉しいことではないか!
ということで、行ってきた。
ホワイトアスパラのコースは、7000円と9000円の物があり、単に皿数の違いだ。で、ぼくはいつもアスパラを二皿食べたいので、追加料金を払って変則コースにしてもらう。もちろん今回もそうした。
まずアスパラを使ったすばらしい一品が、ホワイトアスパラのブラマンジェだ。
茹でたアスパラと生クリームなどをミキシングして固めたものだが、最低限の味付けしかしていないので、口に入れた瞬間、限りなく優しいアスパラの味がフワッと溶け出し立ち上る。特にこれを食べさせてウットリしなかった女性はいない!絶品必須な一品なのである。
このブラマンジェには3種のソースが添えられている。写真の透明なジュレは、いわゆる「トマト水」だ。
トマトを切って断面に塩を軽く塗ると、浸透圧で水分がポタリポタリと染み出す。それはなぜか赤くなく透明な液体なのだが、なめてみるとびっくりするほどにトマトの味と薫りが濃いのだ。これをジュレにしたものがこのソースだ。ブラマンジェにこれを合わせてほしい。口に入れた瞬間はアスパラの風味がそよぎ、その後、トマトの香りが吹き抜ける。このジュレの他にトマトを裏ごしした2種のソースがつき、4様の味わいが楽しめるのダ!
嬉しいのはこのブラマンジェにすでに3品のアスパラが付いてくることだ。冷たく透き通るようなアスパラは、見ているだけでうっとりとしてしまう。
このように縦に繊維が走っているのが見える肌が好きだ。大きく切り分け口に運ぶ。噛むと、
「シャリっ」と「ネットリ」を足し合わせたような、「シャットリ」感といえばいいのだろうか、えもいわれぬあの食感が口を幸せにする。そして、フランス産のアスパラの実力を見た!
「味が濃いですね!」
そう、岩手産のアスパラは非常にはんなりした、優しく繊細な味ですばらしかったのだが、このフランス産はまた違うベクトルだ。土の特性を反映させた強い味わいと香り。繊細さでは日本、強い味ではフランスという切り分けが出来るだろう。でもそんなのは野暮だな、単に旨いと言えばいいことだな。
アスパラは穂先よりも軸の根本の方が旨いと言われるのだが、ホワイトの穂先は絶妙なまるやか味と微妙な食感で、別物のおいしさがある。
一本で二度楽しめるこの贅沢さ加減だ。
さてこの絶品ブラマンジェの次は、4種のアスパラ料理から選定させてもらった。温かい料理はオランデーズソースともう一つなんだっけ?もしくは冷たい料理。生ハム添えとゆで卵添えだ。僕は迷わずオランデーズソースをチョイスする。暖めたアスパラは、その特性をすべて発揮するのだ。そして、アスパラと卵の相性は抜群。故に、卵黄を効かせたオランデーズソースとの相性は、これ以上の仲はないという蜜月カップルなのだ。
大ぶりなホワイトアスパラを4本も食べられる楽しみは、いくら払ってもいいじゃないかと思わせる贅沢だ。
オランデーズソースは酸味のある、マヨネーズにも似た旨みたっぷりのソースだ。これをたっぷりとアスパラにつけていただくと、、、アスパラの濃い旨みと香りが、卵黄と油分によって50倍くらいに増幅される。アスパラから染み出す汁気が濃いスープとなって口の中を巡回する。もうヨダレじゅるじゅるである。
このようにアスパラの特別料理に加え、前菜とメインもしっかりいただく。今回の前菜はサバのスモークを、長島農園のジャガイモのマッシュに乗せたモノ。
メインは、なんとこの時期に鴨を用意してくれた、一番いいときにとれた野鴨を、特殊な方法で保存しておいたものだそうだ。
デザートも凝りに凝っている。たっぷりのイチゴとピスタチオクリームをミルフィーユのように挟んだものに綿菓子が飾られている。そこに熱々のフランボワーズのソースをたらりとかけると、甘く綺麗な紅の世界が現出した。
このホワイトアスパラのコースは、初夏のこの季節しか味わえない。ホワイトアスパラはこの時期、フレンチレストランではよく見かけるが、ここまで吟味しているところもそう多くはないだろう。輸入ものは、代理店によって物流コンディションが変わる。藤野シェフはとてもイイ業者さんとおつきあいしているようだ。
ということで実は本日も、遅めの母の日のプレゼントということで行ってくるのダ!さあ、今年は何回アスパラ食べようかな、、、
帰りにふと見ると、アーティチョークが飾られていた。
長島農園のもので、今年はまだ小さいので来年以降に食べられそうだ。初夏の香りが、身の回りに漂ってきた。仕事もおもしろく成ってきた。いい予感のする5月の末だった。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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