2004年4月 1日 from 首都圏
あまり知られていないが、門前仲町には、かなりのレベルで誇ることの出来るバーが存在する。木場に住みたての頃に友人の柿沢夫妻に連れて行ってもらって知ったのだが、その門前仲町らしからぬ雰囲気と味に驚倒した。以来、愛用している。
名前は「オーパ」。知っている人は知っているであろう、銀座にある著名なバーの支店だ。支店といっても限りなく完成度の高い単独店である。その完成度をかもし出しているのが、トップバーテンダーの水ちゃんだろう。本名は忘れた。初めてこの店を訪れるのであれば、どうか必ず、彼が作るマティーニを飲んでいただきたい。ビシッと決まった、その辺じゃ絶対に飲めないような素晴らしいマティーニを飲むことができることを約束しよう。
僕がマティーニに目覚めたのは、もう7年くらい前になるが、年の離れたある女性に、銀座の超一流バーに連れて行っていただいたときのことだ。日本のバーテンダーで知らぬ人の居ないそのバーの名物がマティーニだ。実はそこのトップバーテンダーは酒が飲めない。しかし、彼の作るカクテルは最高だ。そしてマティーニを飲ませていただくと、、、もう声も出ないのだ。たとえて言えば、シルクの飲み口といえばいいんだろうか。ジンという強いアタックの酒を、こんなにも滑らかに口当たり好く飲ませる技術があるなんて、、、と、芯からびっくりしたものだ。以来、マティーニを計るときは必ずこの店を基準にしている。ちなみに、現存する中では、その人が最高齢のマティーニ名人であることは、ほぼすべてのバーテンダーが口をそろえて言う人だ。なので、なかなかこのものさしに合うマティーニは出てこない。
そして、、、このオーパの水ちゃんが作るマティーニは、このものさしにピタリと沿うのである。見事なのだ。
マティーニはジンとベルモットから成るカクテルなので、それぞれ銘柄を指定できる。僕はいつもゴードンのジンに、ベルモットはノイリープラットの組み合わせで、ベリードライにしてもらう。これに、アンゴスチュラ・ビターズを2滴ほど入れてもらうというのが、僕の黄金率だ。
数々の魔法を施した後、ステアした液体をカクテルグラスにあけ、我々の前にもってきてくれた後に、本当に魔法のような手振りをする。レモンピール(皮)を絞るのである。このとき、蝶が飛ぶように、手品のように皮をつまみながら動かす。下の写真は撮影したものだが、低照明下だったので手の動きがちょうど軌跡になっている。こんな感じなのだ。
これを見て、僕のヨガの先生であるまさみさんはウットリとしていたものだが、実はこのまじないには意味がある。レモンの皮に含まれている油分は、比重の重いものには苦味があり、比重の軽い液体には爽やかな香りが含まれている。従って、苦味のある比重の重い部分がグラスの中に入らぬような角度で、微妙にずらしながら爽やかな香り成分だけをグラスにあてる。それを一瞬でやると、ああいう手つきになるのである。
こうして出来たマティーニは、それこそシルキーな飲み物に変化する。可能な限りすぐに飲むのがよい。これだけ個性の強い酒を15分以上かけて飲むのは野暮というものだ。旨さが分離してしまう。
さて本題はこれからだ。実は先日来、行っても行っても水ちゃんが出てこない。訊けば、
「バーテンダーコンクールに出場するために休みをいただいておりまして、、、」
とのことだった。そうかコンクールだったか。ではその結果を楽しみに待つとしよう、、、
数日後、結果をききに行った。
「関東の部では優勝しました! 6月に全国大会に出場します!」
やったぜ水リン! ということは、現在関東のバーの新進バーテンダーではトップってことではないか!スバラシイ人にカクテルを作ってもらっているものだ。
こういうのは実に嬉しい。そういうキャリアも肩書きも何も関係なく、ただ「旨い」と思ってつき合ってきた相手が世に認められていくというのは、自分の味覚がまんざら悪いもんじゃないということの証になる。いや、絶対に全国大会でも優勝してくれよな。
「これが、大会に出したオリジナルカクテル 『Spring Hill』 です。」
と出してくれたのが、実に綺麗な綺麗なカクテルだった。その名の通り、春をイメージし、桜のリキュールと洋梨のリキュールをベースにしたカクテル。甘いのだが、その甘さは後を引かないでホロリと消える。その代わり、桜の香りの余韻だけが喉の奥に残る。
「これは、、、旨い! これだったら全国もイケルでしょう!」
「いやぁ、全国大会は6月なんですよ。季節が変わるので、もっとさっぱりしたものに変えたいんですが、優勝者は出品作を変更できないんです。どうなることか、、、」
「そうなのかぁ、、、 よし、わかった!俺、そのコンクール応援に行くよ!」
「え、ほんとうですか???」
マジで行くことにした。 会場はなんと神戸であるが、関係ない! ついでにインデアンカレーも食べられる! ということで応援に行くことにしたので是非がんばって欲しい!
これがコンクールの概要である↓
ちなみにオーパの場所だが、
・門前仲町から永代通り沿いに「富岡八幡宮」の大鳥居までいく。
・境内に一礼した後、失礼ながら鳥居に背を向け、永代通りの向こう側を眺めてみよう。
・寿司屋と居酒屋の間に小道がみえる。その奥左側の2Fに、ピンク色の看板で「O-PA」というのがみえるはずだ。
日曜日は休みなので注意。金曜日などはビジネスマンで混むので気をつけて。
ビールはバスペールエールの生が飲める。シングルモルトの揃えもスバラシイ。また、女性には季節のフルーツのシャンパンカクテルがお奨めだ。今は苺、秋には巨峰や洋なしなどが楽しめる。
しかし、僕のセレクトはやはり、、、1杯目にSpringHillをいただき、2杯目にマティーニを飲み、さっと出る。そして支那そば晴弘でつけ麺をやって〆める、、、というコースなのである。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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