2004年1月24日 from 首都圏
眼下に広がる青い海面が突如として、一面の白い絨毯に変わる。雪の北海道に来るのは何年かぶりだ。
JAの岡坂さんから「雪の北海道を舐めてはイケマセン。完全防備で来ること。」と言われていた僕は、数年ぶりにモモヒキ(ボディタイツという名前で売っていた)と、二重にした靴下、そしてゴアテックスのキャラバンシューズで防寒していた。飛行機を降り、にこやかに出迎えて下さった岡坂さんはしかし、上下作業服に無造作にパーカーを羽織り、ゴム底の運動靴という軽装であった。
「いやぁ今日は暖かいから大丈夫だよぉ」
言ってること違うじゃないですか!
さて本日はとっても重要な仕事の日だ。が、すでに岡坂さんは僕が何のために帯広に来ているか、よーくご承知なのである。
「じゃあ、行きますか、黒い豚丼。」
そう、黒い豚丼というのがあるんだそうだ、、、
「俺が子供の頃からオヤジに連れて行かれてよく食べてたのが、そこの豚丼なの。俺の記憶だと、そうだねぇ、店を建て替えるまでは普通の豚丼出してたと思うんだけど、なぜか建て替え後から真っ黒な豚丼になっちゃったんだよね。でも俺はそっちも好きだったから、俺がよく食う豚丼はそこのなんだ。だけど、人によって食べらんない人が居るんさ!だから山ちゃんがどうなんだか、楽しみなんだよ、、、」
おおおお
そいつぁ楽しみである!
空港から20分程度、帯広市街のハズレのあたりに、その店はあった。
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■豚丼専門店「鶴橋」
帯広市柏林台東4-1
TEL0155-34-1155
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紫の暖簾をくぐって店内に入る。1時を回っているのに満員状態である。
「あらあらごめんなさいねぇいつもは空いてるのに今日はすごいことになってるのよ。」
とお母ちゃんが迎えてくれる。厨房内には眼力の鋭い腰の据わったオヤジと、その息子さんらしき方がフライパンを振っている。それにお母ちゃん、むすこさんの嫁はんという構成らしい。
品書きは豚丼の並と特盛り、みそ汁は別注文で豆腐となめこが選べる。ちなみに帯広の豚丼専門店は、なぜかみそ汁が別注文の店が多い。でも岡坂さんによれば「付いてくるところもあって、よくわかんない。」んだそうである。
当然のごとく「特盛り」をたのみ、みそ汁は「なめこ」を選ぶ。
超満員のお客さんを捌くために厨房はフル回転している。のぞき込んでみると、タレが入っているとおぼしきホーローびきのボウルがある。その横で息子さんが、でかいフライパンで肉を焼き、タレで煮付けている。そう、この店のスタイルは炭火焼きではなくフライパン方式なんである。
「なんか、炭火焼きだとあっさりしちゃっててね、、、旨いとは思うんだけど、満足しないのサ。」
それは前回「ぱんちょう」で食べた時に僕も感じたことだ。炭火だと、余分な脂が落ちることもあるのだろうが、全体的にあっさりめに仕上がる。タレをネットリ絡ませたコッテリ豚丼が好きな人には、フライパン方式の方がいいようだ。
30分くらい待っていると、とうとう出てきた!
うわっ
マジで黒~い! そして、香りが半端じゃない。香ばしいというのをちょっと通り越した、少しコゲ香の入った強くねっとりとした香り、いやクラクラしそうな「匂い」が立ち上っている。豚を食う。
「おお、ニガ旨い!」
みたとおりちょっと苦い!けど、その苦さと濃さ、甘辛さが渾然一体となって、強い刺激を味覚細胞を襲ってくる。次にこの黒タレがかかったメシを喰らう。
「タレだけでご飯がいけちゃう~」
すんごく濃厚なタレがご飯に絡むと、苦さは消え、程よいまろやかな「まぶし飯」になるのである。これは旨い!
「ああそう、山ちゃんも好きかい、よかったよぉ。俺もタレだけでご飯たべれちゃうんだよね。」
いやこれマジでウマいっす。
実は黒い豚丼というのを訊いて、その黒の由来は何だろうと大体の想像はしていたのだ。おそらくカラメルで黒とコクを出しているのだろうなと。砂糖を炒めてできるカラメルは、実は様々な料理にコクとテリを出す秘密兵器だ。岡山名物の海老メシ(東京では、カレーショップの「いんでいら」と八丁堀のダイニングバー「ラティーノ」で食べることが出来る。)も、こげ茶色の炒めご飯だが、カラメルが大量に使われている。
この「鶴橋」の豚丼もそれではないかと。最初の一口は苦さを感じるかも知れないが、その奥から深みのある香りと旨さが立ち上がってくる。コッテリ好きには堪らない第4の味覚を刺激されるような感じだ!
食べてみた感じ、カラメルとして使っているかはともかく、予想通り糖類を加熱してできたコゲ味ではあろうと感じた。夜の宴席におつき合い頂いた、岡坂さんのご同僚のノムさん曰く
「鶴橋の豚丼のタレにはさぁ、ザラメと黒砂糖を合わせて使ってるらしいんだ。」と仰っていた。フームなるほど。
この豚丼についてくる真っ黄色のたくわん、実は豚丼との相性がばっちり。豚丼→タクワンという連鎖でいくらでも食べられてしまう。空港レストラン「白樺」の豚丼についてきたキュウリのキューちゃんもそうだが、やはり豚丼は浅漬けではなく古漬けとの相性がよいのであろう。
しかしこれ、家庭ではとうていまねできん!と思う。食べ終わった後のドンブリは真っ黒黒状態。割り箸に付着したタレはおそらく絶対に洗っても落ちん!
特盛りはかなりの分量があるが、通常の僕であればもっと食べられる量だ。しかし、ここの豚丼には大満足だ。もう何も食べなくても大丈夫だ。
「岡坂さん、おれ、これ好きっす!」
「そうですかヨカッタ!俺の嫁さんはここ、ダメなのよ!」
このように好みがまっぷたつに別れる「黒い豚丼」、帯広を巡るなら絶対にはずせないところだ。また一つ、ぼくの豚丼ライブラリに欠かせない店が登録されたのであった。
さあ、仕事だ仕事!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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