2004年1月13日 from 首都圏
ものすごいカレー屋と出会ってしまった、、、皆さんは小麦粉をこんがり炒めたルーを使った和風のカレーと、インド系のさらさら汁カレー、どちらがお好きだろうか。僕はどちらも好きなのだが、本格インド料理は油分が多い上にインパクトが強いことが多いので、連日食べるのは厳しいかなと思っていた。たとえば湯島の名店「デリー」のカレーは大好きで、コルマカレー大盛のホットなんかたまに食べるくらいで十分だった。
が!
毎日食べてもいいかも、、、というインドカレーがあったのダ、、、
いつもどおり、池上の美容室に髪を切りに行ったのである。で、カレー好きの友人Yと、このBLOGでも採り上げた「インディアン」に行こうと、蓮沼駅前の本店まで行ったのである。実は、蒲田西口店と池上の店にしか行ったことが無かったのだ。本店の味を見てみたい!(ちなみに池上にもインディアンがあるのだが、系列が違うらしい)
、、、しかし、ふられてしまったのだ。19時に行った時点で閉店。蒲田西口店も閉店。空腹にカレーの話ばかりしていたため、やるせなく怒る友人Y。まあ、適当に蒲田駅周辺を歩いて、カレーを見つけようということになったのだ。僕としては、駅からすぐのところにある、「カレー屋ケンちゃん」的トラディショナルなカレースタンド「南蛮カレー」380円を食って腹を満たすかと思っていたのだが、そこに至る途中にある怪しげな店の前で友人Yが「この店気になる」と言う。
それがインドカレー「タージマハール」だ。
タミール語らしき看板と、やけにチープでフレンドリーな「営業中」の電飾、そしてメニューにはそれなりにリーズナブルな価格(チキンカレーが950円等)が載っている。しかししかし、ドアのガラスがよくわからない感じの曇りガラスというかそんな感じで、中が見えにくい。もうすんごくアヤシイのである。こういう店は、大きなあたりかその反対かどちらしかないだろう、、、
しかし友人Yはここにいたく惹かれたのである。白状すると僕もだ。その店の前で逡巡していると、20代とおぼしきカップルがその店から出てくるではないか!
「おお!結構まともな店なのかも。」
で、入ることにしたわけだ。
店内は狭く、L字型カウンターだけのつくり。インドの写真やらシヴァ神などの神像がお定まりのようにテーブル上に鎮座している。店の人は格別の愛想があるわけではない、ご年配のおいちゃん一人。
メニューはチキン、ポーク、キーマ、ムング豆とラム、ナスなど。べて850~1000円くらいで食べられるような構成になっている。ここまでの段階で、小麦粉のルーをつかう日本風カレーの店ではなく、インド料理スタイルのカレーだろうことは想像がつく。
メニューをぐーんとにらんで、Yはムング豆とラム。僕はチキンとした。おいちゃん、やおら炒めものの音をさせながらカレーを作っていく。ものの4分くらいで出てきたカレーは、実に空腹をそそる香りとプレゼンテーションだったのだ。
■ムング豆とラムのカレー
■チキンカレー
出てきたカレーは、さらさら汁系の極みという感じ。上には油が浮くが、さらりとした仕上がりである。湯気と共に香るのは、各種スパイスの混沌とした宇宙の香り、その中でも特にクローブ(丁字)が一際落ち着いた香りを呈していた。
そして秤(はかり)に載せてきっちりと重さを確認しながら「はい。」とだされたご飯は、赤飯のような赤紫のツブツブが。
「これはね、古代米。まあ、黒米っていうよね。高いんだけど、ちょっとづつ混ぜてお出ししてるの。」
この古代米入りライスにしゃぶしゃぶのカレー汁を一さじかけ、口に運ぶ。
「!!!」
二人、顔を見合わせてしまった! 旨い! さらりとした見た目からは想像できない濃さと深みのある刺激と、鼻を抜けるクローブとコリアンダーの香り。しかし、単純にインド風カレーと言い切ってしまうにはあまりにもオリジナルな味である。
食べ進むうちにじわじわと汗が出てくる。ラム肉には下味が施され、軟らかく煮られており、食べやすく旨味十分。チキンもカレーと別々に調理したようで、柔らかふっくらに仕上がっている。しかもこの後もう1皿食べることになるのだが、都合3品のカレーの味がすべて違う。きちんと素材の素性によってスパイス・味を作り分けておられるのだ。
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■タージマハール 蒲田店
東京都大田区西蒲田7-70
03-3734-0913
※蒲田駅西口を出て左へ歩き、東急線のガードの角にある「南蛮カレー」を右に入り、ガード沿いに20メートルほど。一筋違いの通りをもっと奥に行くと、富士吉田うどんの「縁」と、インディアンカレー蒲田西口店がある。
スペシャルインドカレー(チキン) 1000円
ムング豆とラムカレー 950円
※共にサラダが付く。
※他にも、「小松菜カレー」「七面鳥カレー」「ワニカレー」「ダチョウカレー」等、通年で50種類以上のメニューがあることが判明。毎日攻めても新技が出てくるという、、、
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店内には客が我々しかおらず、期待値をはるかに上回る美味しさだったので、つい声が出る。
「おいちゃん、旨いよ、これ!」
「ああそう、ありがとう。」
と、鋭い眼ながらもほっこりと表情を崩し、とつとつと、このカレーとその生い立ちにまつわる話をしてくれたのだ。
このお話が、まさに珠玉の玉手箱だったのだ。
「この店を始める前はねぇ、蓮沼でラーメン屋をやってたんだよ。焦がしネギを薬味にしたラーメンが流行ってるけど、昭和35年にもう俺がやってたんだよなぁ、、、台湾で食べたのが旨くて、やってみたんだよ。
俺は元々、阪急に勤めてたんだ。食堂で洋食を作ってたんだけど、大阪の方の大きな店が入ってくることになって、首になるんじゃないかと思って、自分から「辞めます」って言ったんだ。そしたら「何で辞めるんだ?」て訊かれたから、とっさに「ラーメンやります」って言っちゃったんだよなぁ。
でも開店資金がなくて、当時のお金で200万必要なところ、親族から100万しか集まらなくて、それでもなんとかして店を出したんだ。それが当たって、3年で元金は返したよ。」
「でも、何か違うことをやりたくなってねぇ、、、海外を旅するのが好きで、いまでも必ずインドには年2回行ってるんだけど、その時もインドに旅行に行ったんだよ。各地を歩いて、向こうのカレーが旨くて、これをやってみようかと思って、帰国して店を出したんだ。
当時はこんな汁のカレーなんて無かったから、お客は『これはカレーと違うよ!』なんていわれたんだよなぁ、、、でも、そのうちエスニックとか激辛とかのブームがやってきて、お客さんがついてくれて、今じゃあ新橋ともう一カ所に息子達が支店を出してるんだよ。」
「ホントはぇ、20年前にイタリアのピザをやろうと思ってたんだ。ナポリにいって、ギリシャにも回って、あの辺の料理を食べて、ピザが旨かったんだよ。石釜でね。でも、買おうと思っていた店を不動産にだまされて買えなくて、仕方なく断念したんだよ、、、」
「俺はね、10年経ったら何か新しいことをやろうと思って、それまでのことを全部清算しちゃうんだ。保険だって10年で解約しちゃうんだよ。10年間保証してくれてありがとうねって。10年単位の中で色々あったよ。ピザはダメだったけど、、、カレーは10年を超えて、ちょっと延ばしちゃってるね。今は65才だけど、これからはね、アマゾンの方のを何かやってみたいんだよ。」
なんてかっこいいオヤジなんだ! すさまじい生き様である。もう、二人してノックアウトされてしまった。30分くらいずっと話をしてくれたが、その間、力みは微塵もない。落ち着いて淡々とした、力の抜けた凄みを本当に感じた。
※ちなみに余り旨いんで、キーマカレーも頼んで食べました。
一方で徹底したコスト削減というか、経営センスが光る。カウンターには、ナプキンではなく街頭で配られる武富士のティッシュを籠に入れたものが載っている。それだけではない。トイレのトイレットペーパーはカラ。焦ってよくみると、貯水タンクの上に武富士のティッシュが積まれているのだダ!(笑) 友人Yはトイレの中で爆笑してしまったそうだ。
蒲田周辺は、本当になんというか、カレーの聖地と言えるかも知れない。A級なのかB級なのかはよくわからんが、実にソソル!しかも蒲田というロケーションで食べてこそ、この奇妙な満足感を感じるのだが、、、
結局カレー食べるのに1時間以上も腰を落ち着け、おいちゃんと記念写真を撮りつつ店を辞した。汗は引いていたが、代謝の活性と、痛快・爽快なお話を聴けたという満足感で一杯になりながら、寒風ふきすさぶ蒲田を後にしたのであった。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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