僕の親友の石坂亥士(がいし)が、ソロの太鼓パフォーマンスを開催した夜だった。
■ 11月28日(金)19:00
Dragontone 遥かなる祭禮音風景
於:日暮里 「和音」
亥士と僕は高校の同期生だ。僕の高校は全国でも珍しく、体育の時間に郷土芸能を教える学校だった。和太鼓の躍動感と音に僕たち6人の仲間が溺れ、グループを結成した。高校卒業後も前衛舞踏家と共に即興演奏のパフォーマンスを3時間ぶっつづけで演じたりしていた。僕は高校卒業後、プロの太鼓打ちになろうとっていたが、あるきっかけから食べものの仕事をする方向へ転じた。依頼、太鼓の撥(ばち)は封印したままである。いっしょにやっていた友人はいずれも何らかの形で芸能を続けている。その中で最もストレートに太鼓に向き合っているのが亥士だ。
彼はせんだってメキシコへ招かれ、数回の公演旅行をしてきた。相当に素晴らしい内容だったらしく。あらゆる年齢層の客に大受けをとったらしい。その公演タイトルが「ドラゴントーン」だ。今日はこの凱旋公演である。演奏はとてもよかった。高校時代からずっと一緒に歩いてきた友だからそれ以外にいいようが無い。会場の都合で宮太鼓のでかいのはつかえないのが残念だったが、神楽太鼓での演奏で十分に意気を感じた。
終了後に「和音」でひきつづいて行われた懇親会でサプライズが待っていた。和服のチャーミングな女性が居ると思ったら、亥士が
「このひと、田口ランディさんだよ」
という。メキシコ取材旅行中の彼女が亥士のライブに行き、意気投合し、飲み仲間になってしまったそうだ。驚いた、、、
ランディさんは本のカバーの写真をみるよりチャームがあって楽しいひとだった。話の流れがなぜかモンゴルやトゥヴァの歌唱法ホーミーのことにおよび、なんと彼女は日本ホーメイ協会の特別審査員であることがわかった。僕がホーメイをすることを訊くとまたびっくり。少しだけ音を出したら、
「あたしより上手いからあたしはもうやんない」
と聴かせてくれなかった。残念。今度飲もうと誘ってくれた。楽しみだ。
中々に面白い夜だったが、収拾がつかなくなるので帰ることにした。しかしここは日暮里だ。日暮里といえば、手打ちラーメン「馬賊」だ。すでにネット上ではいろいろな情報があるから見て欲しいが、この店は僕にとっては感慨深い店なのだ。
民俗芸能めぐりを辞め、進学を志して入ったのは、埼玉のとある町にある小さな小さな予備校だった。その予備校はもうない。そこで、一人の激烈な教師に出会ったのだ。古文と論文を教えていたその教師は、予備校なのに学問を教えていた。受験勉強と学問のぎりぎりの境界上のその教えは、僕たち受験勉強の落ちこぼれには極めて刺激的だった。この人の話を聴きに通ったようなものだ。
そしてみな、それぞれの勝ち得た進路に進み、しばらく経った。僕はその教師を忘れられなかった。大手のシンクタンクに就職が決まり、それを報告するため、あるルートから教師に連絡をし、会えることになった。都内の大手予備校で教えていた彼に久しぶりに会うと、「飯をくおうや」と自分のワーゲンゴルフで猛烈な運転をし、つれてきてくれたのが、この日暮里の馬賊なのだ。当時からほぼ綺麗といえない店内だったが、人でごった返していた。
「ここの坦々麺は旨い」
と言っていたが、僕は当時からつけ麺が好きだったので、馬賊つけ麺を食べた。不均一な麺の太さなのに驚くほどコシがあり、透明感のある味だった。
その後、喫茶店でいろいろ彼と話した。今彼が何に関心を持っているか,についての話になって驚いた。僕の手首を握り、
「よく集中しておけ」
というと、さまざまな気を流し始めた。ピリピリ来る気。ビリビリの気。柔らかな気。瞬時に、彼がそっちの世界に足を踏み入れていることがわかった。
「わかるか?俺はゴミ問題と水の問題を、こいつで何とかしたい」
僕にはなんともいえなかった。その世界は大好きだ。けれど、今僕の主テーマではない。
「よっくわかりますけど、俺は違うところでやりたいことあります。」
「そうか、がんばれ。」
その後、彼の消息はつかめないのだ。家族がいたはずだが、、、
そんなことを思いながら馬賊に入る。相変わらず汚い店内は人で溢れている。つけ麺650円は前から変わっていない。運ばれてきたスープはやたらと塩辛いので注意が必要だ。しかし、麺をこいつに合わせると、ビタッと合う味になるのだ。
この店の麺は、よく中華で見かけるような手で生地を引っ張って畳んで、延ばしていく麺だ。店内には「ダーン!」という生地を板にたたきつける音が断続的に鳴り響いている。無論、それに驚く客は一人も居ない。
運ばれてきた麺を塩の効いた汁につけて啜る。やたら下品な汁に上等な麺が絡み、不思議に旨い。それとこの店は餃子が旨い。大ぶりサイズのこの餃子の餡は、どう考えても1日寝かしてあるような熟成味がする。さすが手打ち麺の店だけに、粉モノは強いといえる。
餃子の熱さにしびれながら、本当にいろんなことを思い出す夜だと思った。
先日来、代々木上原のフレンチ「カストール」の記事には「やまけんもフレンチ食べたりするんだぁ」という反応ばっかりである。そうなのだ僕だってフレンチ大好きなのだ。
で、この店もなんと20周年を迎えたとのことで、スペシャルコースが登場した(残念ながら11月一杯で終了とのこと。間に合って良かったぁ)。これを食べ逃したら一生後悔するだろう。しかもジビエが届く冬だ。ということで万難を排して行ってきた。
代々木上原駅から歩いてすぐ。こぢんまりとして落ち着いた店内にはいるとシェフが、
「ホームページ見てますよ。」
と迎えてくださる。
そういえば僕が「青森の真鴨」と紹介していたのは「新潟」の間違いであった。シェフにご指摘頂いたのでここに謹んで訂正させていただく。
いつも気持ちよくサービスをしてくれる浅利さんと椎名さんがメニューを説明してくれる。
先回も掲載した20周年のスペシャルコース、こういう布陣だ。
=================================
20周年記念秋のメニュー
・マム キュベ ナパ(食前酒)
・さまざまな野菜とホタテ貝の魅惑のマリアージュ
または
玄海灘で取れたフグにトリッフの香りをのせて
・栗のポタージュ 栗のクルトン
・知床で獲れたエゾ雌鹿のロースト 2つの香りをつけた人参 ソースポワブラード
または
野鴨や野鳥のロースト ソースサルミ きのこと大麦添え
・思い描くデザート
・白または赤の銘柄ワイン
・オレンジピールとコーヒー
\8,000円
=================================
という超お値打ちメニューだ。(繰り返すがこの価格でのサーブは11月末日までである。)
僕は前菜にホタテ、連れはフグとする。そしてメインだが、鹿か鴨かの悩ましい選択をすることになる。鴨を頼む場合は、1匹を2つに割る都合上、偶数の顧客がオーダーする必要があるのである。だから、鴨にする場合は2人共に鴨だ。本日は鹿か鴨かの択一というわけだ。
が、まだ鴨は熟成がそれほど深くないという。
「今日は山本さんに出せる鴨もあるけど、それでも10日目くらいだね。」
と、熟成中の鴨とまだ落としたての丸の鴨をバットに入れて持ってきてくださる。うん、熟成の進んだ鴨の方が濃い色味で旨そうだ。でも、僕はやっぱり20日間は熟成させてトロトロとした味になったものを食べたいので、また鴨を食べに来ることにして、今日は鹿を選択した。ちなみに鹿はほぼ一ヶ月くらい熟成させたものだそうだ。鹿も真鴨も、どちらも漁師から直接取り寄せた完全な野生の獣だ。真のジビエである。
さて
コースが始まった。そしていきなり本日のクライマックスがやってきた。
■さまざまな野菜とホタテ貝の魅惑のマリアージュ
かねてから思っていたのだが、この店では前菜だけが少し印象的に弱かった。僕は前菜が大好きで、前菜が旨ければ全て佳しとなるという傾向がある。
ところが、本日の前菜はとてつもなく素晴らしいものだったのだ!色とりどりの温野菜。ズッキーニの薄切り、深紅のビーツ、銀杏、ピンクの大根、ムカゴにフレンチドレッシングを浸みさせたものなどが散りばめられた中、ソテーされたホタテと半ドライトマトのソースとバルサミコのソースが合わせられている。この大胆にして繊細なデザインは、野菜使いの最近の流行である。サービスの浅利さんによれば、ウインザーホテル洞爺にオープンしたフランスのシェフ、ミッシェル・ブラス氏の店で受けた素晴らしい影響が、この前菜に現れているそうだ。しばらく前からフランスでは狂牛病のあおりも受けて野菜ブームになっており、著名なアラン・パッサールも野菜専門の店「アルページュ」を出すなどしている。僕の仕事的にみても非常に嬉しい流行なのだが、カストールのこの皿には、流行とは全く別物の見事な技術が凝縮されていた。野菜の一品一品の特性に合わせた味つけが施されており、驚きと共に味わった。特に、むかごを半割にしドレッシングで和えたものが、小さいのに強く印象にのこるものだった。ホタテにも、半ドライトマトのソースとバルサミコの二種のソースが合わせてあり、酸がホタテの横に拡がる旨味を際だたせている。このひと皿のためにまた来よう、と思った。
■玄海灘で取れたフグにトリッフの香りをのせて
連れが頼んだもう一つの前菜も少し食べてみた(行儀わるくてスミマセン)。フグの前菜は藤野シェフが得意とするところだ。酢漬けの紅芯大根(中心が赤い大根。酢に漬けると、赤の色素が溶け出し、全体が赤くなる)の薄切りを下に敷き、表面をあぶったフグの切り身を載せ、そこにフグの骨のスープをジュレにしたソースと、ブロッコリのソースを載せている。更にマス(だと思うんだけど)の薫製も添えられている。
こちらは前菜らしい前菜。ただ、素材の味を活かす藤野シェフの方向性は素晴らしいのだが、僕にはひと味たりないのだなぁ、、、そのキーワードはやはり「酸」だと思うのだが。紅芯大根と一緒にフグを口に運ぶと非常によいが、それを最初に説明した方が良いかも知れないな、と思った。女性はきっと、パーツごとに食べてしまう人が多く、フグはフグだけで味わってしまうだろう。そうすると、フグの旨味が平板な二次元のままで、のっぺりとした印象しか残らない。横に拡がる旨味は酸と出会って3次元になるのだ。大根と一緒にいただくとこれは上々なひと皿だ。
これを読んだ人は2人以上で行って、行儀悪いけどこっそり皿を交換して、二種味わってみてください。素晴らしいです。
■栗のポタージュ 栗のクルトン
さて秋の味覚、栗の旨味が凝縮されたポタージュだ。これも昨年いただいたものよりもコックリ旨味が深く、美味しく感じた。栗とタマネギ、鶏のフォンとのことだが、非常に濃厚。カップ一杯のこの料理の存在感はデカイ。ドンブリ一杯欲しいと言ったら怒られるだろうなぁ。
■知床で獲れたエゾ雌鹿のロースト 2つの香りをつけた人参 ソースポワブラード
そしていよいよメインである。写真を見ておわかりの通り、ここのジビエは非常に気前よく盛りつけてくれる。鹿も、200gくらいはあるのではないか。しかも、ロースの部位を
「大きめの2片はロースト、小さいのは同じ部位をソテーにしています。」
とのこと。同じ部位なのに料理法で全く味が変わるので、お客がびっくりするそうだ。果たして口にすると、全く違う味わいだった。ローストはオーブンで熱を通した後にベンチタイムを置くためか、やや落ち着いた味である。熱がじっくりと通っていくからだろう。肉汁もしっとりとなじみ、上品な味わいだ。対してソテーは、表面のコゲも強めで旨味が濃く、内部はミディアムレアでとろりとした感触。味はソテーの方が濃く感じるのだ。しかし、鹿特有の香りが立つのはローストだ。肉汁が落ち着いているせいか、肉を噛みしめ、立ち上る獣香の強みはローストのほうが上だ。うーむ どちらも旨い。
そしてこれまた付け合わせのニンジンが最高に旨い。クミンと八角風味で煮付けたものと、さっと火を通してある薄切りの二種だ。野菜使いがやはり一枚変わった感じがする。これでもっと味の濃い野菜を仕入れられれば、もっと存在感の強い付け合わせになるだろう。ニンジンなどの根菜は特に栽培方法によって味が左右されるからだ。唯一の死角は、肉に添えられた生のクレソンだ。通常の市場にある栽培品だろう、味も香りも薄く清涼感が感じられない。口を洗うには静岡の安部川流域などの清流に自生しているものがベストマッチと思うが、、、これは都内のレストランでは叶わないので仕方がない。残念だ!
とはいえそんなのは重箱の隅をつつくようなもので、全体としては完成されすぎたひと皿だ。ジビエではあるが、初心者にもまったく抵抗無く受け入れられるだろう。まず今の季節は鹿。そしてもう少し寒が深まってきたら鴨を食べる。これ以上の至福はないだろう。
■パン3種
この店はパンも自家製で素晴らしく旨いのだが、今日はこれまでのイーストとは違う種での仕込みのパンが出た。中に緑豆を入れた丸パンは、いつもよりしっとりとした感触で好ましい。無論、これまで通りの小型カンパーニュっぽいパンもあり、僕は大満足だった。
■思い描くデザート
さて、第2のクライマックスは実はこのデザートだった。運ばれてきたのは、セルクルで整形されたチョコレート地の円柱に、バニラアイスが乗ったものだ。これにナイフを入れると、、、
中に仕込まれていたオレンジ風味のチョコトリュフが熱く溶けたものが溢れだしてくるのだ!このチョコケーキ地と熱いチョコソース、そしてバニラアイスが渾然となったものを口に運ぶ。甘いものがそれほど好きではない僕でも、思わずため息がでる美味しさだ。もうこれは説明できないな。本当に素晴らしい!前菜とこのデザートだけでも行く価値あるな。
この状態からナイフを入れると、、、
こうなるのダ!ちっとわかりにくいか!
このチョコデザートの仕込みをしているのが、サービスの浅利女史だ。浅利さん、マジウマでした。
メインの安定性はもうわかっているので、今回はとにかく前菜とデザートにサプライズであった。この二皿は激賞したい。ちなみに20周年記念コースの料理自体は来月も続くらしいのだが、ビックリ価格の8000円(これでワインも付くのだ)は11月一杯、つまりこの週末だけだ。もしこの記事を見て旨そう!と思ったらすぐに予約の電話を入れた方が良い。
僕は12月中か年明けに鴨を食べに行きたいと思っている。20日以上熟成させたやつが食べたい。ソースは酸味を利かせた濃い目のものがいいな。もし一緒に行きたいという人は連絡ください。でもワリカンだぞ。今から楽しみだ、、、
最後に藤野シェフ、20周年おめでとうございました。また行きます。
すでにご承知の通り、初めてであったその日から、僕は大阪のインデアンカレーの虜である。一口目の甘さと、二口目から火花を口中に散らすがごとくの散弾銃的辛さの対比は、実に最高である。ルーの滑らかさ、牛バラ肉のとろける感覚、ご飯の粒の立ち方、そしてそれを盛りつける山田リーダーの手つきは、僕を魅了してやまない。
しかし前回、ライバル(?)のピッコロカレー梅田地下店に入った際、チキンカレーが旨いという情報を訊いた。その時はビーフを食べて、インデアンの方が好きだという判定を下していたのだが、正式にはピッコロのチキンを食べてからジャッジしなければならないだろう。
ということで、本日は年内で最後の大阪ということもあり、再度両店をハシゴすることにした。業界新聞の記者をしている友人女性と共に阪急梅田地下にあるインデアンへ直行する。今回はカレーのレギュラーで「目玉」(←卵の黄身2つのせ)を頼んだ。カウンターに座ると、やはり特製の飯びつの前にいるのは、あの飯&カレー盛りのエキスパートである山田氏だ。本日は若干余裕があるのか「いらっしゃいませ」と声をかけてくれる。すぐに我々のカレーを盛ってくれる。友人女性も初めてのインデアンということで、山田氏の無駄のないフォーム、寸分たりとも変わらない精確な飯盛りについて解説をしてあげたら笑われた。
目玉二つは実に贅沢で旨い!黄身の油分が舌を保護するらしく、若干辛みが緩和されてしまうが、ルーを大盛にすれば比率的にも合うハズだ。しかし本当に旨~い。付け合わせであるキャベツの甘酢漬けのシャクシャク甘み感とのマッチングも最高としか言いようがない。まさしくこれが現時点でのマイベストカレーである。思わず、ピッコロにハシゴするのを辞めてもう一皿食べようかと思うが、食倒ラーとしての尊厳がそれを許してくれない。
やっとの思いで「もう一杯!」という思いを振り切り、店を出る。ピッコロを目指し、梅田地下街を迷いまくる。もう一杯食べるぞというと、友人は仕事途中だしもう一杯なんか食えるか!と帰ってしまった。
それでも俺はいかねばならない。今日こそ自分の心にけじめをつけるのダ。
ピッコロ到着。狭いカウンタに座り、チキンカレーを頼む。先回ビーフカレーを食べた印象としては、マイルドすぎて今ひとつパンチに欠けるというもの。しかし隣の人とそのまた隣の人がチキンを頼んでおり、目をやると若干色が黄色み強く、辛みが強そうな印象。その後いろいろと訊いてみたところ、味が違うというコメントあり。そこでチキンを頼んでみたのである。もしかして、インデアンを上回る味があるかも!?
結果だけ記そう。やはりインデアンは最強だった。ピッコロのチキンは、ビーフと同じまったり系だ。肉の量はインデアンよりも多く存在感があり、これはこれで旨い。しかしパンチがない上に価格が850円と、インデアンの730円にくらべパフォーマンスが低いのだ。少なくとも僕にとっては。
食べ終わって勘定をし、店外に出た瞬間に自問自答した。
「もう一杯インデアンを食べられるだろうか?」
答えはさすがにノーだった。憤死してしまう。
でも、心の中には充実感が残っている。
アイ・ラブ・インデアン。
今後の僕の人生において、大阪を訪れてインデアンに寄らない時はないだろう。
どんなガイドブックも見ずに出会ったこの感動は何者にも代え難い。
大阪「インデアンカレー」を、謹んで出張食倒れの殿堂入りとしたい。
新たにこのWebの右ツールバーに「出張食い倒れの殿堂」というカテゴリを作成した。ここには、最高グレードの評価を与えられる店のみを殿堂入りとして表記していくこととする。
僕がよく書いていることだが、旨い店のお品書きは例外なく何かの輝きを発している。。「旨いぜ!」という店主の意気込みが、オーラとなって品書きの背後から見えてくるのが、いい店の絶対条件である。そんな店に、また出会った。
今日も大阪出張である。もう、ほとんど旨いものを食べるためだけに出張をしているということをよく知ってくれている友人が案内してくれたのは、中国酒家「福龍園」。
■福龍園
大阪市北区天満4-16-8 ハイツ天満宮1F
06-6353-7224
車以外ではなかなかアクセスが悪いところらしいのだが、僕は車で行ってしまったので本当によくわからない。確かに裏通りにひょっこりとある店だ。しかも小さい。友人が「屋台に毛が生えたようなもん」といっていたのがなるほどという感じだ。
そして引き戸を開け、小さなテーブルについたとたんに目に飛び込んできたのが、壁に掛かった小さな黒板にぎっしり、びっしりと書かれた品書きだ。その勢いと確信的な配列が一瞬で僕を魅了した。
だってまず最初の行に
「アイガモとオレンジの炒め物」などという料理が載っている店はそうない。思わず品書きの端から順に頼んでいきたくなるが、この日はコースを頼んでいるそうなので、流れに任せるコトにする。
そして、至福のひとときがやってきたのだ。
・前菜5種
豆モヤシとアナゴの中華和え物
バンバンジー
小茄子の四川風挽肉炒め
エビのカレー風味揚げ
大根甘酢漬け
魅惑の前菜だ。クラゲやザーサイなどで誤魔化さないのがよい。イタリアンやスペインの前菜盛り合わせのように、勢いを感じる構成だ。特に豆モヤシとアナゴの和え物が秀逸だった。それと意表を突く小茄子の四川風には美学を感じた。
・豚ヒレ肉と花ニラ、カリフラワーの炒め物
この店の味付けの傾向がよくわかった。こんなにわかりにくいところにある小さな店で、高級中華のマイルド感を見事に出している。つまり、労働者階級に向けた味付けの濃い、一皿で満足する料理ではなく、重層的な味覚の積分でコースを堪能させるあの味付けだ。
・エビマヨ炒め
きわめてポピュラーになったこの料理も、突出せず非常にマイルド。独自のマヨネーズとエバミルクをベースにしているが、香り付けにジンは使われていないみたいだ。
・生牡蠣のトウチ蒸し
品書きだけで旨そうだったのがコースにも入っていた。白菜の芯を縦に裂いたものが敷かれ、牡蠣がトウチソースに浸されて蒸されている。牡蠣の半生の触感と、トウチジャンの濃い味付けがガツンと合って、職が進む。
・グレの甘酢あんかけ
グレは癖のない魚だ。これをコイのように丸揚げして甘酢をかけている。みてわかったが、甘酢はスープと黒酢をベースにしたしつこくないもので、これも箸を進めさせるものだ。骨までばりばりと食べ、堪能した。
この辺まで、皿がくるごとに僕が「いや旨いな~」を連発していたせいか、店の奥の料理人のおっちゃんが、にこにこして話しかけてきてくれる。
「このあとマーボー豆腐がでるけど、スーパーマーボーにしたろうか?」
よくわからんけどスーパーの方がいいに決まっている。
「それでいって!がつんとね!」
というと、ニヤリと笑って鍋を振りだした。
・スーパーマーボー豆腐のチャーハンのせ
劇辛である。四川の山椒である花椒(ホワジャオ)が、直線的にぱっと散る辛さと痺れ感(麻という)を降り散らす。辛くて痺れて、4人一同気を失いそうになる。もう僕はTシャツ一枚になって、汗をだらだらとかきながらメシをかっこむ。ああ、メシといっても白飯ではない。チャーハンである。
・蒸し鶏ソバ
地獄のマーボーの後にはマイルドな鶏ソバだ。見事な上湯(シャンタン)で、実に滋味深い。極細ながら腰のある麺が大量のネギと絡んで実に旨い。
と、ここでコースは終わりなんだが、僕がどうしても食べたいのでもう一品いただく。
・茄子と豚の味噌炒め&ご飯大盛り
やはりこういうオーソドックスな料理を食べないと、店の真価がわからない。果たして、テンメンジャンのこってり甘みが利いた炒めものは、ご飯大盛りをたいらげるに十分な味だった。
このあとデザートに、上新粉の餅でカスタード餡を包み、ココナツフレークをまぶした温かいまんじゅうがでたが、これも旨かった!
いやー ひさしぶりにこんなに旨い中華を食べた!充実である。壁にはダンチュウなどに掲載された記事がたくさん貼ってある。知る人ぞ知る店なのだろうなあ。
結局最後の客になったが、みせのおっちゃんもあきれかえっていた。
「ふつう、おなかいっぱいになってくれるようにコース組んでるのに、バンバン頼むからコースの流れが全く変わっちゃうよ。でもよく食べるねぇ、、、」
そういいながら笑っていた。
大阪で中華を食べるなら、ここ福龍園にきて損はない。またこようと、ココロに誓うのであった。今度は絶対に合鴨のオレンジ炒めを食べたい!
北千住のバードコートにて、野島さんご夫妻と僕、農家の長島勝美君とで語らいをさせていただいた。その内に野島千寿子さんが「ま、座って飲もうか!」と日本酒を出してくださった。しかも福岡の名門酒造「杜の蔵」の秘蔵酒だ。そこから勢いがついてしまい、4人で叫んだのが
「肉がくいてぇ~!」
だった。そう、昼から野菜しか食べていないのだ。
「よし、焼肉行こうか!」
と野島さんが電話をかけたのが「京城(けいじょう)」という焼肉屋。超有名店らしい。しかし、すでに行列が出来てるよ、とのことだった。一同シュンとなる。その後20分ほどいろいろ考えたが、すでに焼肉腹になってしまっている我々は納まらない。並んでもいいからこの京城にいこうということになった。
北千住の駅からすぐ横丁に曲がり、北千住のあの猥雑なイメージを背負ったストリートに入る。するとすぐに出てくる、ピンクと紫の中間のような「京城」の電光看板。
「うおーー いかがわしそうな看板!」
「でしょ?でもね、すごいんだよこの店!」
そりゃあそうでしょう、伝説の焼き鳥屋「バードコート」の主人が「旨い!」っていうんだから、旨いに決まっているだろう。
そして店の前に行くと、「おおっ?行列が無いぞ!入れ替え時間にあたったぞ!」そう、この店、2時間で入れ替えになるらしく、運良く入店できるタイミングにあたったのだ!こういう運については、はずさないのである。入店すると、野島さんはなじみらしく、番頭さんと挨拶。二階に通る。注文も何もかも野島さんにお任せする。
■焼肉 京城
松坂牛のネギトロ
センマイ刺し
ネギ塩タン
上ロース
上カルビ
ハラミ
ササミ(牛肉)
サーロインステーキ(5000円!)
とりもも
しいたけ
ペチュキムチ・オイキムチ
カルビクッパ
冷麺
石焼きビビンパ
ユッケビビンパ
この京城、俺は知らなかったのだが、超有名店だった。ザガットサーベイなどのそうそうたるグルメガイドで最高得点を獲得している名店なのだ。希少価値のある松坂牛の取り扱い免許を取得しており、全国で唯一の近江牛販売店指定店なのだそうだ。
こんなに怪しげなロケーションにあるのに、、、
そしてまず出てきたのがネギトロ。これ、マグロではない。松坂牛のすき身をネギとたたいて、海苔に巻いて食べるのだ。牛肉でこういう食べ方をして旨いものに当たったことが無い、、、と思いながら口にしたが、お話にならないほど旨い!牛肉なのに、脂が舌の上の温度で溶けていく。
焼肉が運ばれてきてまたびっくりした。タンはこれまで僕が食べてきたものの中で最高のものだと思う。ロースに至っては、一口目を生のまま食べたが、空前の旨さだった。焼くとこれがまた旨い。
ちなみに僕は牛肉は最高レベルのものを食べてきている。和牛の肥育農家に友人が多数居るからだ。A5という、牛肉の等階級で最も上のクラスの肉を何度も嫌と言うほど食べてきた。いつも脂が多すぎて本当に嫌になるのだが、、、しかし、この京城の肉はそれらを上回っていた。理由はわかる。熟成(エージング)だ。牛のような大型家畜の肉は、屠殺後の硬直が解けて、肉が分解していく過程でアミノ酸になり、旨味が乗っていく。この店では、枝肉を買い入れて専用冷蔵庫で熟成しているに相違ない。その熟成加減がやたらと深く、旨味成分がこれでもかというほど乗っているのだ。これは、牛の産地でも家庭でも絶対に出せない味の秘密なのだ。
その後、カルビ・ササミと食べ進む。ササミといっても牛の部位だそうだが、そんなの知らないなぁ。これが絶品。サシの入り方と味ののりが極めてバランスよい。
そして圧巻だったのはサーロインステーキだ。
「この肉を焼きます」
といって盛って来たのは、サシ(脂肪)が入りまくって薄ピンク色にしか見えない極上肉だ。そしてそれが鉄板にジュウジュウと音を立て、たまねぎのおろしソースをトッピングして運ばれてきた。こいつを食べてまた絶句。一枚5000円ということだが、この味ならば満足してしまう。
一通り肉を食べ、各自食事。僕はカルビクッパを食べるが、一杯700円というおかしな安い値段なのに、実に牛のスープが濃く、旨い一品だった。もうノックアウトである。
会計は一人10000円程度だがどう考えても安い。と思ったら、野島さんに奢られてしまった。いかん!今後何かでお返しをしなければ、、、
野島さんとは固い握手をしてお別れ。今度は門仲に招待せねば、、、御馳走様でした!
大阪にお住まいのバナナさんから、築地市場の旨い店を案内しろというお達しである。わかりました。
日本最大の卸売市場は大田市場なんだが、テレビで出てくるのはいつも築地市場ばかりである。それは水産品については築地がトップだからだ。水産物は絵になるからね。あと、市場に隣接している商店街、いわゆる「場外」の店舗群があまりに雑多で猥雑に賑わっている様が、これまた絵になるからだろう。
ただし、何か目的意識をもっていかないと、ブラブラ歩きになってしまうのも築地である。例えばいいマグロや数の子を入手したい、などの目的を持っていくとよい。
さてそんな築地市場の旨いものだが、、、場内と場外を分けて考えないと、はじめていく人は混乱するだろう。築地へのアクセスとして一般的なのは地下鉄日比谷線の築地駅か、大江戸線の築地駅だ。日比谷線から行くと、場外をちょうど通ることになる。表通りにはいかにも旨そうな店が建ち並んでいる。大半は立ち食いで、路上にテーブルなどが並んでいる。まあここはスルーして中にはいってみよう。
さて場内だが、初めての人は地理感がないだろう。いいサイトがあるのでこれをプリントアウトしていって欲しい。
この中でどれがお薦めか?これは個人の好みにもよるのだが、、、
まず1号棟の並びで有名なのは、洋食「豊ちゃん」だ。ここは雑誌などでカツ丼の特集があるとよく出てくる店なのだが、有名なのはカツ丼だけではない。「アタマ」というと、カツ丼の具とご飯が別々に出てくるが、これも人気。そして洋食メニューではオムカツカレーやオムカツハヤシといった、オムレツ+カツ+なんとかという超絶メニューもある。オムカツカレー大盛りにすると、僕でも食べるのがやっとという量になるので注意が必要だ。ただし、これは私見だが、オムは劇ウマなんだが、カツはバランスが悪くなるので、オムカレーorハヤシがお薦め。カツがよければアタマで食べて欲しい。
その数軒となりにカレーの「中栄」がある。ここは特別格別に旨い!というわけではないのだが、なんともほっとする味なのだ。なんといっても今どき400円でキャベツの千切りが乗ったカレーは食べられないだろう。ほかにハヤシもあり、「合いがけ」といえば両方が盛られて600円になる。
さて1号棟から市場内部に入っていくと、行列ができている棟に当たるだろう。寿司屋などが密集している地帯に入るのだ。テレビで有名なのは寿司大や大和寿司といった店だ。ま、率直に言えば、どこに入ってもまあ満足はするのではないだろうか。築地にあるということで、不味いネタは出てこないだろう。
しかし、「この店でしかあれは食べられない」というネタを探すのであれば、絶対はずせない店がある。「寿司文」である。この店の売りはなんと言っても「江戸前の仕事をしたネタ」なのだが、その中でも秀逸なのが「煮貝(にがい)」だ。アワビを柔らかく煮て、ツメといわれる濃厚なタレをつけて供されるネタだ。もう、この握りを食べると、ほどよく甘辛く、限りなく深いツメの味と、1時間くらいは噛みつづけていたくなるような天使の歯ごたえが至福を誘う一品なのだ。
あと、ここは穴子も素晴らしい。絶品である。穴子については、僕の行きつけの寿司「匠」よりも旨いと断言したい。ま、これも好みだけどね、、、
この寿司文での注文だが、僕は上寿司2000円に煮貝の握りをつけてもらう。それで大体3000円程度だ。特上はネタがよくなるということなのだが、グレードがあがるよりも、よく仕事をしている青魚などが出てくる上のほうが僕は好きだ。本当に満足度の高い店だ。
ま、まずはこんなところかな。問題は、僕なら昼メシで3軒くらいはハシゴできるのだが、バナナさんには無理だろうなぁということだ、、、
明日以降、場外の案内もしてみよう。
この一つ前のエントリに書いた中でも、チキン南蛮への関心が高いようなので、スペシャルコンテンツとして、レシピを掲載しよう。
これはうちの会社の宮崎出身の女性から教えてもらった、いわば「ジモティーレシピ」なんで、確実である。まあそういう主観を排除しても、非常にノウハウのあるレシピだと思う。甘酢(南蛮液)の作り方と、そして肉には小麦粉→卵の順でつけ、そのまま揚げるというのがミソと言えよう。
うおー食べたい!
あ、そうそう、魚山亭はなんと渋谷に支店があります。チキン南蛮は少し味が違うんだけどね、、、
=== 南蛮液 4~5人分くらい ===
水 60cc
しょうゆ 120cc
酢 160cc
砂糖 120g
玉葱千切り 80g
人参千切り 60g
ローリエ 1枚
大体この比率であれば、失敗はしないはず。
私は酢が好きなので、しょうゆ少なめ・酢多めで
適当にやっちゃいます。
全部ごっちゃにして一煮立ちさせます。
=== タルタルソース 4~5人分くらい ===
マヨネーズ 80g
かたゆでたまご 1個
パセリみじん切り 適量
ピクルス 0.5本
玉葱みじん切り 20g
塩・こしょう 少々
大体この比率であれば、失敗はしないはず。
私はいつもピクルス無しで作ります。
パセリを多めにすると、色がきれいです。
パセリ・玉葱は水にさらすとgoodです。
全部ごっちゃにして適当にグチャグチャ混ぜれば完成。
=== チキン南蛮の作り方&美味しい食べ方 ===
肉にかるく塩・こしょうをふっておく。
小麦粉をまぶして、ときほぐした卵液につけて、170℃の油で揚げる。
揚がったらすぐに南蛮液に1~2分漬け込む。
南蛮液も一緒にデロ~っと盛り付けちゃって、
タルタルソースをドップリかけてごちゃまぜにして
食べるのが美味しいです。
------------------------------------------------------------
どおだ!
僕は宮崎が大好きだ!大好き!愛してる! 学生時代に農業情報ネットワーク大会というので初めてその地を踏んで以来、こんなにも好きな県はない。静岡とならぶぐらいだろうか。その後出張機会多数で、さんざん食い倒れさせてもらった。特に宮崎市の橘通りの裏側については「地元の人間より知ってますね」と言われたこともある。過去、こんな食い倒れ記事を書いたこともあるくらいなのだ。
で、大学時代の友人(先輩)が宮崎によく出張にいくとのことなので、絶対に抑えておくべき店を紹介しておこう。
まず宮崎空港に着いたら、即座に空港内の3Fにある魚山亭(ぎょっさんてい)に直行して欲しい。11時半くらいにならないと空かないので僕は15分くらい、開店準備をする店員にプレッシャーをかけながら店の前で待っていたことがある。「おまたせしましたー」と入店し、すかさず飛行機が離着陸する様をみられる窓側の二人掛け席に座し、メニューも見ずに注文するのが「鶏南蛮定植」いわゆるチキン南蛮である。
このチキン南蛮という料理、九州一帯では昔から食べられており、関東圏でその名を訊くようになったのはつい最近である。簡単に言ってしまえば「鶏の竜田揚げを甘酢にくぐらせてタルタルソースをかけたもの」なのだが、こいつが最高なんである。甘酢とタルタルの組み合わせがポイントで、酸味と甘みとタルタルの油分が食欲中枢を刺激しまくりなんである。店によってモモ肉を使ったり胸肉、ササミなど色々なバリエーションがあるが、やはり弾力があり旨味に溢れるモモ肉の南蛮が一番好きだ。宮崎では「小倉チェーン」というレストランチェーンが元祖ということなのだが、ぼくはこの魚山亭の南蛮が一番好きだ。小倉のタルタルは白っぽいのだが、魚山亭のはトマト系の何かが入っているのか、ちょっとピンク味がかかっている。もうこのソースがスペシャルで、ご飯4杯くらいはいけてしまうのだ。ちなみに恐ろしいことに、この魚山亭ではご飯おかわり自由である。ふふふ、、、
ちなみにこの日、僕は「鶏南蛮定食」に加え「冷や汁定食」も食べた。この写真がそれを証明している。店員は3度くらい「両方食べるんですか?」と確認していた。ちなみに昼飯である。
冷や汁も宮崎を代表する郷土食だ。ただみそ汁を冷やしたものではない。まず、すり鉢で魚(アジなどを焼いて身をほぐしたもの)をあたり、すり身になったところに地味噌を混ぜ、滑らかになるまで擦る。これをすり鉢の内部になだらかに塗り、コンロ(本当は炭火)に逆さに置いて火をつけ、表面が乾き軽く焼き目が付くまで焼く。こうして香ばしく変容した味噌に水・きゅうりの小口切り、シソ、ごま、みょうが等を投入し、混ぜたものが冷や汁だ。どうだこの手の混み具合!これをご飯にかけて食べるわけだ。うちの会社にいる宮崎出身の女性は、夏場には大量につくって冷蔵し、毎日食べていた。だいたいの居酒屋等で食べられるので、酒や食事の〆に食べてみて欲しい。
さて。
宮崎の旨いものでもうひとつ特記すべきものがある。意外だろうが、それは「釜揚げうどん」なのだ。宮崎市内では3軒の有名店がある。「戸隠」、「しげの井」そして「緒田薪(おだまき)」だ。このうち有名なのは「しげの井」と「戸隠」。しげの井は巨人軍キャンプの時にかならず長嶋監督が訪れたという店だ。そして戸隠は、タクシーの運ちゃんが必ず「あそこは旨いデスよぉ」と言う店だ。僕は3軒とも行ったが「戸隠」は推さない。先日行ったところ、一口で帰ろうかと思うまずさだった。それにくらべしげの井と緒田薪は素晴らしいの一言だ。今回はしげの井を紹介しよう。
しげの井に行きたいなら、夜の宿泊は「宮崎観光ホテル」にとるといい。何故ならその裏手にしげの井があるのと、そのまた近くにレタス巻きの元祖「一平」があるのだ。この一平についてはまたいずれ書こう。ただし、しげの井はひっそりとたたずんでいるのでわかりにくい。近所の人に聞きながら行こう。
宮崎の釜揚げうどんは、細めの麺でそれほどコシはない。ムッチンブリブリのコシを効かせた讃岐とは全く違うベクトルで、のど越しとダシの旨味で食べさせるうどんだ。そう、ダシ概後なのだ。しげの井でも緒田薪でもそうなのだが、注文がはいってから茹でるので8分くらいは待つことになる。ついついその間、いなりずしを食べてしまう僕だ。店内には巨人軍のサインなどもあるのでそんなのを眺めていてもいいだろう。
そうこうしているうちにうどんと茹で湯が入った碗と、濃いダシつゆが張られた碗がならぶ。ダシは濃厚茶褐色で、関西の透明感のあるダシとは文化圏が違う。万能ネギと揚げカスなどが最初から投入されており、椎茸の香りがプンプンする。うどんをたぐり、つゆにつけてすすりこむ。熱い!そして芳醇な旨味と魚貝の濃厚な香りが口腔中いっぱいに拡がる!あとは一気呵成にすすりこむだけだ。しげの井ではうどんの量で大中小があるが、お代わりを頼もうと思っても、「最初から茹でるから時間かかるよ~」となってしまうので、とにかく大盛りを頼むのが吉である。ちなみに写真は「中」だ。旨かったんでぼくは10分まってもう一杯「大」を食べた。それにいなりも食べたので、店のおばはんが喜んでいた。
あ、ちなみにこれは、チキン南蛮と冷や汁を食べた日のおやつである。この後の夜にはさらに快進撃が続き、摂取カロリー数が5000を軽く超えることになるのだが、それはまたいずれ書こう。当時の僕の記録によれば、下記を食べていたらしい。
> ■朝10時半
> 魚山亭にて
> ・とり南蛮定食
> ・冷汁&ご飯
> それとおかわり1杯
>
> ■夕方6時
> 茂の井にて(巨人長島監督のひいきの店)
> ・釜揚げうどん 中盛と大盛
> ・いなりずし 3個
>
> ■夜8時
> 鳥の里にて(地鶏専門店)
> ・鳥のたたき
> ・地鶏モモ焼き
> ・冷汁&ご飯
> ・焼酎(銘柄忘れた)×1杯
>
> ■夜9時
> 弁天寿司にて
> ・レタス巻き(宮崎が元祖らしい)×2本
> ・チキン南蛮巻き×1本
> ・サーモン&中トロあぶり握り
> ・キスの南蛮漬け
> ・自家製烏賊の塩辛
> ・霧島オンザロック×1杯
9月某日
中華料理の希須林は有名なのでご存知だろう。希須林は都内中心に数店舗展開をしているが、それぞれにハイクラスなもてなしをすることで人気がある。しかし僕は実は行ったことが無かった。
なぜかといえば、最近はやりの中華店は軒並みヘルシー嗜好(つまり油っぽくなく、素材を活かして味つけがあっさりしている)の店が多く、僕には物足りないからだ。ヌーベル・シノワーズなんてほとんど興味が無い。中華料理は火と調味料で素材をねじ伏せていく料理だと思っているので、ガッツリ食べられるものでなければならないと、個人的感覚としては思う。ただし化学調味料はあまり使わないで欲しいが、、、(料理番組などでもドコドコ投入するのは料理人としていかがなものかと思うゾ)
希須林も同じように家庭料理っぽい中華なんだろうな、と思っていたわけだ。しかし、中央線沿線の阿佐ヶ谷に住む食人・飲人夫婦の神澤・板橋夫妻に「メシ行こう」と誘われたら、行かずにいられない。例によって兄弟分の工藤ちゃんと出かけた。
阿佐ヶ谷にあるのは希須林の中でも元祖といえる「小澤」という店だ。その辺のことはようわからんが、最初にはじめた人らしい。店は阿佐ヶ谷駅から5分ほど歩き、路地を少し入ったよくわからない場所にある。中は綺麗なつくりで、中華という構えでは全く無い。よくある「綺麗な自宅にお呼びしました」風の店だ。二階に通されるとさらにその綺麗な調度が印象的な室内だった。清潔感のある制服を着て、きちんとしたサービスをしようという気がバンバン伝わりすぎてくるウェイター&ウェイトレスをみて、
「うーむ 俺の苦手な中華かも、、、」
と若干心配になりながらも、品書きはナカナカに魅力的なものだった。
本日のオーダー
魚と野菜とナッツの希須林サラダ
雲白肉(ウンパイロウ)
酢豚
穴子の唐揚げ中華ソース
揚げ海老マヨネーズソース和え
麻婆豆腐(劇辛)
上海焼きそば
(続きは下記↓をクリック)
魚と野菜とナッツの希須林サラダ は、よくある中華サラダ。これはもう優しい味付けで、この店のこれから出てくる料理の方向性がみてとれる。
雲白肉(ウンパイロウ) はニンニクネギ風味のソースが上品だった。
酢豚は旨かった。ケチャップを使わない、黒酢ソースだが、これが臭みのない豚のカリカリ揚げにマッチして非常に美味であった。
穴子の唐揚げ中華ソース は、雲白肉と同じソースだということだが、旨そうなので頼んでみた。結果は上々。穴子は江戸前かと思うが、瀬戸内以外で水揚げされる穴子は揚げ物に合う。これに少し酸味のある中華醤油のソースが非常に合っていて、食が進む。
これに気をよくして頼んでしまったのが麻婆だ。ちなみにおいらは大盛飯、他の方々は普通の茶碗で飯を頼む。
ただしこれは今ひとつだな。コクが薄かった。おそらく数年前の、マイルドな麻婆豆腐しかなかった時代ならショッキングだったのだろうが、花椒や本物の豆板醤といった食材がふんだんに供給されるようになった現在では、満足度としてはやや平板な印象だ。
それとは対照的に満足度の高い一品が、海老マヨであった。
海老に粉をまぶして揚げ、エバミルクとマヨネーズ等を合わせたソースに絡めて供するこの一品だが、実に旨かった。本日一番いい皿。横浜の聘珍樓で9年ほど前に食べたのが最高だったが、こちらはこちらで旨い。
もうこれで板橋夫妻はお腹一杯だったらしいのだが、僕は全然足りなかったので焼きそばをオーダー。
横浜中華街の梅蘭のように卵のカリカリで蓋をした焼きそばだ。これはこれでまずまずの味。
といった感じで食い荒らしたわけだが、、、
結論としては、まあ満足。というのは、この店のTPOと僕のそれが合っていないというだけだ。やはり冒頭に述べたように僕はギンギンぎらぎらトンカツソース系の人間なので、もっとこってりしたものが食べたいわけだ。けど、この小澤の店内を見回すと、年齢層は高い。ゆったりと構えた家族や夫婦がゆっくりと楽しんでいる。そういう人たちにはこれ以上の店はないだろう。重たくならず、さっぱり、あっさりと素材の味を最大限に引き出した調理方法。そして家族的なあたたかいサービスと店内の調度。そういったものを味わうのに最適化されている店なのだ。
ただ、素晴らしいと思ったのは、化学調味料バンバンの調理では全くないということだ。奇をてらわず落ち着いた味付けは非常に好感がもてた。
そしてこの後、阿佐ヶ谷のディープゾーンに潜入し、気の利いた日本酒が飲める「善知鳥」(「うとう」と読む)にて酒を飲むが、この店のカレーが絶品で旨かったのだ!大盛でカレーを平らげる僕を観て、板橋さんは今にも吐きそうな、気持ち悪そうな顔をしていた、、、
以前の記事に紹介した日本酒ライターの神澤さんと板橋さん夫妻の、長野県蓼科のご自宅に招待して頂いた。これがすんごい家なんである。デジカメで撮ろうとしたら50m離れないと全景が入らない横長さなのだ!
ちなみに神澤さんは青少年少女向け小説を数作出版しているれっきとした小説家さんなのだが、僕としては日本酒ライターであって欲しいのでそう呼ぶ。
夫君の板橋雅弘さんはというと、実はさらに有名な作家である。イタバシマサヒロというカタカナ表記をすればわかる人もいるのではないか?週間少年マガジン誌に長きに渡り連載された(全32巻!)、あの青少年向けチョットHなドキドキ漫画「BOYS BE・・・」の原作者様なのだ!それはこのページを見て頂ければわかるだろう。他にも、第二次UWFの頃に高田延彦の本を書いたりと、プロレス関係者があっと驚く人なのだ。この業績に敬意を表し、僕は彼を「師匠」と呼んでいる。
とまあ、ご夫婦で充実した仕事をしていらっしゃるすばらしい方々なのだ。東京と蓼科をいったりきたりしている彼らの家にお邪魔して、さんざん食い散らかすというのが今回趣旨というわけだ。
兄弟分の工藤ちゃんとその弟子の浅見君の運転で蓼科へ。かなり冷え込む空気の中、「渡辺篤史の建もの探訪」に出てきそうな綺麗で豪勢な家に到着。あとで冗談交じりに言ったら「ああ、ここの建築家はあの番組にもう10回くらい作品がでたらしい」と言っていた。うーむ。
冷え込む前に工藤ちゃんが薫製を仕込む。彼が創作した段ボール燻煙機だ。中には花輪飾りの台を芯として仕込んでおり、簡易ながらも余裕を持って温薫がかけられる設計になってる。
四方山話をしながらメシ。神澤さんは実に料理が旨い!これはおそらく食べることが人並みはずれて好きだからだろう。実に酒が進む旨い料理を作ってくれる。
ウドのきんぴら
野沢菜漬け南蛮炒め
☆ゆで豚のにんにくみそ漬け
☆牡蛎のグラタン
マグロのカマ焼きカボスとスダチ・大根おろし添え
白菜の干しエビ・干し貝柱スープ煮
☆原木しいたけの揚げびたし
☆牛肉・パプリカ・ニンニクの芽のオイスターソース炒め
☆絶品ナスカレー
☆マークは超旨かった料理だ。
全部旨かった!ナスカレーはドンブリに3杯食べた!感動した!
食べて一言
「飲兵衛・食いしん坊が作る料理は旨い。」
これ、ホントだと思う。
牛肉関係の仕事で芝浦へ行く。昼飯をすっ飛ばしてしまったので、2時過ぎに遅いメシを物色する。今夜は親友のしんのすけと飲むので、軽くすませようと、この時点では思っていた。品川駅港南口周辺を見渡すと、新しい路麺屋の看板がみえた。海鮮かき揚げ蕎麦330円生卵サービスというのにグラッとくる。
腹が減っていようが満腹だろうが素通りできないのが、こういう街中の路面にあるそば・うどん屋、つまり「路麺屋」である。駅校内のスタンド生そばと同じで、ぼくはついつい入ってしまうのだ。こういう初めての路麺店で僕が注文するものは決まっている。「天玉蕎麦またはうどん」だ。かき揚げ天と卵、そして蕎麦の組み合わせは、いわゆる普通の蕎麦屋では味わえない路麺独特のものだ。
と思いこの品川駅前の店で注文するが、瞬間的に嫌な予感がよぎる。新しく出来たであろう綺麗な店内。パートのおばちゃんの制服。そして円い型枠を使って揚げた、同じ形のかき揚げ天ぷらが並ぶバット。これはもうアウトである。しかも卵は最初から黄身が割れている。不味い。怒りを覚えながら2分ですすりこんで店を出る。
このblogを見た人からよく「何でも美味しく感じるんでしょ」と言われるが、僕が美味しいと思う店は10軒に1軒程度しか遭遇しない。そして、近くにいったら再訪したいと思う店は、そのまた10軒中の1軒しかない。さらに、用事が無くても行きたいと言う店になるとそのまた5軒中の1軒くらいだろうか。ということで、僕が旨いと思う店は実はそうそうないのだ。今日のようなハズレ店の累々たる屍の上に、金字塔的名店があるのである。
しかしあまりにもまずい天玉蕎麦に腹が立ち、会社への帰り道をちょっと曲げて新橋の路面屋をハシゴし、口直しをすることにした。夜は親友との飲みだが、それとこれとは別なんである。その路麺屋とは、JR新橋駅東口地下改札の前にある「日本亭」だ。
この店の蕎麦は旨い。ちょっと麺が柔らかめの時が多いのだが、昼飯時に行けば回転がよいため、茹で立ての時にぶち当たることもあり、こういう時は素晴らしいパフォーマンスを発揮する。なぜこの店が旨いのか、秘密がある。実はこの店の隣に、座って食べる通常の日本蕎麦屋があるのだ。そう、この日本亭では、そこの生蕎麦を茹でているのダ!系列店なんだかどうだか知らないが、とにかく日本蕎麦屋の打ち立て麺を使っているのだから不味いはずがないのである。なおかつ僕が路麺を判断する際の三原則をきっちりと守っている。
1.かき揚げに型枠を使っておらず、形がいびつであること。
これは体験的事実である。型枠に流し込んで効率的に同じものを作り置きしていくタイプの店で旨いかき揚げ蕎麦に出会ったことがない。
2.つゆは若干の甘めの醤油強めをもって良しとする。
天玉蕎麦を基準に考えると、つゆは甘めで、醤油が強いのがよい。
3.新店と古い店が隣り合っていたらまず古い店
まあこれは単純な理由だ。路麺は激戦の時代を迎えている。古い店構えの場合、歴戦の強者であると言える。今回も新しい店に入って失敗したのだから、、、
2.について補記する。最近、路麺店でも関西風のつゆを出してくる店が多いが、全く歓迎できない。大阪駅構内で食べる立ち食いうどんは旨いが、関東で食べる関西風つゆのうどんは不味い。これは、つゆだけ関西風にして、他のパーツを関東バージョンそのままにしているからではないだろうか。特にかき揚げ天ぷらとの相性は×だ。第一、大阪駅の構内でかき揚げ天ぷらをみかけたためしがない。向こうでは天ぷらといえば海老天で、それ以外は無料の揚げカスがあるのが通常だ。関西の人は経験的にベストな相性をわかっているのだ。
ある蕎麦専門誌の調査によると、関西と関東の蕎麦・うどん店の違いは、醤油と塩と昆布と鰹の利用配分だ。関西は昆布と塩、そして少量の薄口醤油がベース。関東は鰹節と醤油がベースということで、仕入れ値に占める率が全く違うのだ。結論として関西風のダシは関東の路麺のかき揚げには合わない。
さてそれではこの日本亭のかき揚げ蕎麦はどうだろうか。かき揚げ天蕎麦は480円、先の品川駅そばの店より150円も高い。が、そんなのが関係無いと思う完成度だ。
かき揚げは大きめのかなりいびつな形。ざっくりと切り分けたタマネギ片が多い。それに小エビが絡まり、フンワリとしている。蕎麦はいつものごとく若干柔らかいのだが、それが甘めのつゆに良く合っている。黄身を崩してかき揚げの上に塗り、蕎麦と共に口にすると、何とも懐かしく温かい味わいだ。どんなに不味いものを食べてしまった後でも口直しになる、安定した火力。
ちなみにこの店と、この店の麺の秘密を教えてくれたのは、前の会社の上司である辻さんという人だ。この人には仕事のことよりも「正しい日本のサラリーマンの飲み方」を教えてもらった。辻さんは希代の蕎麦好きで、この人に連れて行ってもらった新橋の名店にて、うどん一辺倒だった僕も蕎麦に開眼するはこびとなる。そのことも、いずれ書こう。
11月14日
このblogではおなじみの、静岡県中小家畜試験場の岩澤氏と、広島の名門酒造「竹鶴」の敏夫専務が同じ日に上京。時間を合わせて飲もうということになる。ご両名ともに寿司匠を所望だったので、匠を起点に、門前仲町の名店を味わってもらうコースをたてた。
1軒目 寿司処 匠
2軒目 バー オーパ!
3軒目 シナソバ 晴弘
というものだ。おいおい説明するが、これはゴールデンなコースなのだ。もう一つ地酒居酒屋のS&Sを1軒目あたりに加えると、完全無比なものになるのだが。
岩澤さんは静岡県の職員で、現在は中小家畜試験場にて駿河若シャモの育種を手がけられている。この週末にかけて、東京ビッグサイトでの展示会で若シャモをホットプレートで焼き、試食販促をするために上京していたわけだ。若シャモを初めて食べた人は、まずその味の濃さゆえ、鶏肉だということが信じられないという反応をするそうだ。しかも、若シャモには塩も胡椒もかけず、ただ肉を焼いて食べさせているのだが、それを訊いてまたビックリするそうだ。その場で取引依頼が来たりと、とても有意義な出展だったらしい。よかった。
岩澤さんからは
「今後も静岡県駿河若シャモ振興会東京支社長としてよろしくお願いします。」
というありがたいお言葉をいただいている。はい、頑張りまぁっす!!
竹鶴酒造の若き専務、敏夫君とは、彼が高校生の時に会っている。彼の姉つまり竹鶴酒造の娘が僕の大学同期の親友なのだ。図々しくも酒とメシを漁りに行っていたわけだが、この性分は大学時代からすでに開いていたということだ。その頃の彼は地味なんだか何なんだかわからないオタクのような青年だったが、29になってそのオタク度はさらに深化し、社会人オタクといえる立派な男となった。わはははは!要するにおいらからみたら弟みたいなもんで、正確な人物評なんてとてもじゃないが恥ずかしくて出来ないのであった。しかしあの頃は竹鶴が日本酒業界でこんなに有名になるとは思っていなかったので、ちょっとビックリの今日この頃である。
岩澤さんと竹鶴、そして岩澤さんの部下の女性と早めに門前仲町の不動尊前にて待ち合わせ、寿司 匠へ。実は4日前にも客人を連れて匠に行ったのだが、その日は淡路島沖の釣りアジと北海道のバフンウニが今ひとつの出来だった。加藤ちゃんにはきちんとその旨伝え、しくじりないようにお願いしておいた。結果、抜群に旨い11貫だった!岩澤さんは本当はおしゃべりなのに終始言葉少な。江戸前の世界を味わっていた。
一通り食べたところで移動。次は門前仲町では最高のバー「オーパ!」である。故・開高健の本のタイトルからとった名前のこのバー、本店は銀座にある。しかし支店のレベルも極めて高く、はずれはない。特にこの店のマティーニは素晴らしい。ゴードン&ノイリーの組み合わせで頼むと、あまりにもまろやかでドライな、綱渡りのようなバランスを保った珠玉のマティーニが出てくるのだ。それと、最近はまっているのは「ドクターM」という、世界中の薬用酒をシェイクしたカクテルだ。言ってみれば養命酒のような酒を混ぜているので「ドクター」と言う訳だが、これが苦み走っていて意外にイケル。酒談義に花を咲かせながら一人2杯、ハードカクテルをいただく。
さて酒を飲んだら、ふだんはラーメンを滅多に食べない僕でも食べたくなってくる。ここで行くのがシナソバ「晴弘(はるこう)」だ。門前仲町周辺ではこの店は実に有名。検索すると沢山出てくるだろう。この店の面白いところは、シナソバが旨いのはもちろんだが、酒のラインナップがすごいのだ。グレンリベットなどのシングルモルトに加え、魔王や島美人、伊佐錦といった鹿児島の芋焼酎の品揃えもいい。これらは、焼酎ブームに沸くしばらくまえからのものだ。このそうそうたるラインナップの酒にあわせる肴も素晴らしい。沖縄の豆腐よう、中国の腐乳(フールー)や南乳(ナンルー)といった発酵食品、ウドのきんぴらといった、シナソバやとは思えない気の利いたつまみが出てくる。
こうして酒(主に焼酎のお湯割り)を2~3杯飲み、最後にシナソバを食べるのが定番なのだが、ふと品書きに目をやると、新メニュー「つけめん」があるではないか!つけ麺ブームの波は、この店にも影響を及ぼしたのであった。ということですぐさま注文。
晴弘のシナソバは、油分は多いものの基本的にはあっさり東京醤油味。それに細めの麺である。しかしつけ麺用には中太麺を利用。これがナカナカにはまっていてよい。適度な卵と鹹水の香りと、コクがあるけどあっさりしているスープに絡まるとなかなかの心地よさだ。
門仲の裏にある名店「こうかいぼう」のような深い満足度はないが、飲みを締めるにはあまりにも背筋の伸びる味だった。これは通年メニューになるのだろうか。また食べよう。
外に出て、二人を送る。富岡八幡宮の境内を通って駅まで歩く。Tシャツに薄手のジャケットでは肌寒い外気だった。冬がやってくる。
IFOAMジャパンという、世界的に有機農産物の基準を策定する団体の日本支部が主催するオーガニックフォーラム2003という年次報告会に出席した。有機農産物とかオーガニックという言葉はかなり流通しているが、実はJAS法の下、厳密な規定がなされている。この有機という基準はほぼ世界共通のものなのだが、長く欧米主導で検討がなされているため、日本やアジアのような、湿気が多く雨がよく降り、土地集約型農業(つまり狭い土地をこれでもかと使いまくること)を旨とする地域には現実的でないことが多い。また、「有機」や「オーガニック」と名乗るためには、第三者の認証を受けなければならず、非常に手間とコストがかかる。このため、案の定日本では積極的に有機認証をとる農家が少ない状況だ。
この日の報告の中でも、統計値として有機農産物が全農業生産に占める割合はたったの0.15%と発表された。前年度は0.1%なので、0.05%の増加である。虚しい。もちろん、「有機って名乗らなくたっていいもんね」という人たちが、減農薬減化学肥料、もしくはほとんど有機と同じくらいの基準で生産している農産物は、増加しているのではないかと推測する(理由はまた今度)。けど、そういう農産物は統計を取る方法が無いので、判断できない。
なのに街角では、カフェとかレストランで「近所の農家のオーガニック野菜を使っています」というような文句が溢れている。これ、もし認証されていない野菜のことを、雰囲気だけで言っているとすると、表示法違反なんだけどなぁ、、、
などと思いながら午前の部が終わり、昼食時間。科学技術館には併設の食堂しかなく、いやーな感じなので、徒歩7分の毎日新聞社ビルの地下まで歩くことにした。今日はなんとなくパワー不足を感じるので豚カツが食べたい。そう思って地下街をさまよう。盛り蕎麦とカツ丼のセット1000円。うーんなんだかパンチが足りない。赤坂飯店の中華定食。ん~違う。
ふと見ると、よくある地下街のスタンドカレー屋が。しかも店名はカタカナで「タカサゴ」。メニューのサンプルをみると、カレーは楕円のアルミ皿に盛られてくる。うーむこういうのはやはり気になる。カツカレー900円を大盛りにして頼むか。
「いらっしゃい!」
カツを揚げること3分半。すぐにカツカレー大盛りがカウンター越しに手渡された。カレーはほとんど固形の入っていないマイルドソース系。黄色に近い茶色。味わうと、予想通りパンチはあまりない、まろやかなカレーだった。これはカツは余分だったな、、、と思いながらもくもくと頬張った。食べながら、午前の部の最後に話をしてくださった、韓国の有機農業協会代表の先生のお話を思い出す。彼はしきりにこう言っていたのだ。
「有機農業をやっていると、精力が授かります!統計でも出ていますが、精子の数が都会の人の数十倍なんです!」
これを日本語でむちゃくちゃ大きな声で話していた。ものすごいインパクトだった。うむ、たしかに有機農業云々は、効率性といった産業の側面でも、政治性・思想性の問題でもない。それは「生命」の問題なんだよなぁ、と。こんなことを考え腑に落ちたのも、僕にとってのカツカレーという存在が、直接的なパワーのシンボルだからかもしれない。
なんと先日の洋菓子の記事にちょっと書いた、日本におけるガトーショコラの権威である代々木上原「カストール」のシェフである藤野さんから、コメントをいただいてしまった! これはやばいでしょう。手抜きできません。
ということで、今回はこの「カストール」を紹介させていただこう。でもなぁ 本音を言うとあまり紹介したくないんよ、本当に好きな店のことは、、、まあ仕方がないか。
僕はフレンチ大好きだが、本当に好きになった店はそんなに無い。カジュアルスタイルだったら代官山の「プティ・ブットン」、ゴージャスクラシックにこってりした鴨を食べるなら福岡は博多の「メゾン・ド・ヨシダ」などあるが、血眼になっていい店を探すというほどではない。だから、店に出会うときも、誰かに誘ってもらってということが多い。そしてこのカストールもそうだった。
僕をこの店に誘ったのは、この食い倒れ日記のWebを運用してくれているプロコムジャパンの社長さんである矢島さんだ。この人はMac関係のコミュニティでは結構有名な方。いろいろとお近づきになるので、ということで、食事に誘ってくださったのだ。僕が魚が好きだと言うのを聞きつけてくれたらしく、この店でということになった。
実はこのとき、正直言って「フレンチかぁ、、、」と、あまり期待していなかった。でもせっかくのお誘いだ。体調をフルに整えて店に向かった。代々木上原の駅から歩いて3分くらい。すぐ近くに小さな店が構えてある。ドアを開けると、綺麗で品のある空間が拡がっていた。
そして、ピンクのスパークリングワインで幕を開けたスペシャルコースの、とある一皿が、僕の五感を極限まで開かせた。その皿とは、、、
この一皿が、2001年~2002年度における僕にとってのフレンチ部門のベスト・オブ・ベストディッシュである。角切りのフォアグラを中心に、甘めに煮付けたレンズ豆を周りに配し、ジュレで固めてある。その横に、なんとも魅惑的な玉子の黄身色の小さなブリオッシュにこんがり焼き目をつけたトースト。そして、珍しく白いイチジクのコンポート。直感的に、ブリオッシュの上にフォアグラのテリーヌとイチジクを少量のせて口に運んだ。
衝撃が走った。
フォアグラの、濃厚に拡がる旨味にレンズ豆の甘さ、イチジクの風味が重なる。しかしそれらの旨味と風味に立体感を与えているのが、ブリオッシュの香りだ。バターと卵黄の香ばしさと食感が、二次元的な味覚に縦軸を与え、立体的な小宇宙を現出させている。いや、オーバーに書いているわけではない。本当に背筋に何かが走る旨さだったのだ。甘さと深みと軽やかな香り。なんとも複雑な味の世界が、一瞬にして目の前にあったのだ。これは、中国の武威山の超高級茶である岩茶の大紅砲を初めて飲んだ時に感じたショックと同じだ。ほかの人にはわからないだろうけど、視界が狭くなるのだ。
後でシェフとお話をした時に、やはりこの料理のキーはブリオッシュであるとおっしゃっていた。
「ブリオッシュはね、美味しく作ると、本当に美味しいんですよ。」
つまり、美味しく作っているところがほとんど無いと言うことか、、、本当に僕は生まれて初めて旨いブリオッシュを食べました。まあとにかくこの一皿に出会ってから、この店に通うようになったわけだ。しかし当たり前のことだが、旨いのはこの一皿だけではない。
カストールの素晴らしいところは「安定感」だ。藤野シェフは、そのキャリアの中で自分の「型」をエスタブリッシュした方だと思う。彼の中では季節ごとの「旨いものリスト」があり、それをムニュに反映する。春は岩手のホワイトアスパラガス。冬の今ごろは鹿。12月後半くらいからは青森で獲れる野鴨。彼の素晴らしいのは、メイン食材の仕入を一般の流通ではなく、産地とピンポイントでしていることだ。この店の売りの一つであるホワイトアスパラも、岩手県のご高齢の農家さんから直接買っている。そしてジビエなんぞは猟師さんと綿密なコンタクトを取りながら調達しているのだ。だからこの店に冬に行くなら、迷わずジビエを食べることをお薦めする。本当に素晴らしいから、、、
唯一僕が少し残念なのは、藤野シェフが素材の旨みを最大限に活かす調理をするため、濃い味好きの僕にはちとばかりオトナシイ味だということだ。しょっぱいと思うくらいに強い塩加減のソースでガツンと攻めて欲しいなとイメージをして一口目を食べると、ちょっと物足りなく感じることもある。
が、しかし。
不思議なことに、一口二口と食べ進めるごとに、舌の上に旨味が相乗されていくのだ。食べ終わる寸前にはいつも「なんと豊潤な味世界なんだ!」と唸りつづけてしまう。だから、やはり計算された味なのだ。ちなみに写真にあるのは野鴨だ。どうだ、この端正にして野趣にあふれるプレゼンテーションは、、、このソースは、こってり好きの僕のために、通常の澄んだソースに内臓を加えて煮詰めたものを用意してくれたときのものだ。これは絶品だった。
もちろん魚の仕事も素晴らしい。ここの名物である鰯のソテートマトソースも絶品だが、白身魚のソテーにブールブラン・ソースの組み合わせは、ベーシックな組み合わせながら感動してしまうほどに旨い。
藤野シェフは福岡出身で、玄海灘の新鮮な魚貝に囲まれて育った人だから、すごーくウルサイのだ。そんなシェフが魚料理で手抜きをするはずが無い。出来るだけシンプルなソースでいただくことが一番のポイントだと思う。写真の一皿は、、、うーむなんだったか忘れた。でもそーすはブールブランだったと思う。藤野さん、間違えてたらゴメン。
さあそして女性にはお待ちかねのスウィーツである。藤野シェフの名声をとどろかせたのは、実はお菓子。先述のガトーショコラである。重くなく軽くもない、実直にして旨いガトーは、左党の僕でさえも旨いと思う。
写真の一皿は、たしか昨年食べた一皿で、チョコレートのパイ皮でホワイトチョコのクリームを挟んだ一品だ。どう考えても他所ではお目にかかれないゴージャスリッチな味わいに、後一歩で気絶しそうだった。同伴の女性も悶絶していたと言っておこう。
ちなみにコースのお値段などはお店のWebを見ていただきたい(ちなみに藤野シェフはパソコンマニアで、高速回線が店にも引かれているのだ)。ぼくは大体ワインを1杯程度しか飲まないので、12000円程度が普通だ。前菜、メイン、デザートのコースをとって、別に単品で食べたいものを一皿と言う感じ。量的にも十二分に満足する内容になっている。とくにジビエを頼んだ場合は確実に満腹になる。狩猟民族的に獣を食った!という気にさせてくれること請け合いだ。
それと、フォアグラや野鴨などは、必ずあるわけではないので要注意だ。
おお!
今、店のWebで秋のコースを見たら、すんげぇ旨そう!
=================================
20周年記念秋のメニュー
マム キュベ ナパ(食前酒)
さまざまな野菜とホタテ貝の魅惑のマリアージュ
または
玄海灘で取れたフグにトリッフの香りをのせて
栗のポタージュ 栗のクルトン
知床で獲れたエゾ雌鹿のロースト
2つの香りをつけた人参 ソースポワブラード
または
野鴨や野鳥のロースト ソースサルミ
きのこと大麦添え(11月15日以降に新潟で獲れた物)
または
シェフ本日こだわりのお勧め料理
またはお魚料理
思い描くデザート
白または赤の銘柄ワイン
オレンジピールとコーヒー
\8,000円
=================================
これで8000円は安っ! いかなきゃ、、、
ああそうそう、この店のサービスもとてもよい。2名の女性がサーブしてくれるのだが、実にきめ細かく好感の持てるサービスである。
この店、ランチもやっている(僕は試したことが無いが)ので、もしお近くにお住まいの方が居れば、ぜひ試して欲しい。予約を取るときにはジビエがあるかどうか、旬のお薦めは何か、を聞いておくといい。藤野シェフの世界観を味わってみて欲しい。
そして、これが肝要なのだが、美味しかったら、ぜひシェフを呼んで直接感想を伝えて欲しい。その飾らない人柄とトーク自体も、御馳走なのだ。
シェフ、また行きますよ、、、野鴨、3週間くらい熟成させといてくださいネ。
石井威望(たけもち)先生に豪勢なランチをご馳走していただいた。
石井先生とは何者か?希代の天才である。Googleに石井威望と入力して検索してみると、すさまじい量の肩書きが出てくるので、余計混乱するかも知れない。国内の技術関連の委員会の座長等を30以上兼任していたような人だ。そして、私の大学時代の恩師でもある。現在は、東京海上研究所理事長という役職がメインだ。
大手町の研究所のオフィスが近いので、よく遊びに行かせて頂くのだが、あることでお手伝いをし、昼をご馳走していただいた。東京海上ビル23階、皇居を一望できる絶景展望の会員制クラブである。ん~ シチュエーションがご馳走。
先生が最近提唱しているのが「キュービタル」という概念だ。これについては僕があるグループに出したメールを再掲しよう。
------------------------------------------------------------
最近、石井威望先生にお会いするようになった。先生は東京海上研究所の理事長になられたのだけど、相変わらずの知的好奇心で、どんどん突き進んでおられるように見受けられる。
http://www.tmresearch.co.jp/
その先生に本を渡すために会いに行ったら、ことのほか喜んでくださり、そこから小一時間の講義(?)が始まった。曰く、、、
「近く、閉塞感が感じられるようになったデジタル社会から、次なるパラダイムシフトが起こる。それは、ビットからキュービット(量子ビット)の世界観へと変わっていく、キュービタライゼーションと名付けられるものだ。
「キュービットとは量子コンピュータ上の概念だが、ここでいうキュービタルとはそれだけではない、価値観としてのキュービタルだ。
「量子力学では光を、粒子と波動のどちらでもありうるという見解を採る。これは、デカルトの心身二元論に拠り構築された近代西欧のパラダイムを過去のものとしている。つまり、二元的な世界観から、二元的意味が「もつれあう」世界観が、キュービタルなのだ。実はその考え方は汎アジア的なものと言える。
というようなことが延々と続くのだけど、僕にとっては衝撃的な講義だった。
このキュービタルという言葉自体が先生の造語なので、Webを検索しても出てこない。下記が、先生の講義緑だ。
http://www.tokiomarine-forum.org/keynote.html
何故、僕にとって衝撃的かといえば、本のテーマになったトレーサビリティという問題を正確に捉えるための視点がここにあったからだ。それを見透かしたかのように、先生は、
「君のこの本に書いてあるトレーサビリティっていうのは、キュービタル的視点が入っていると思うよ」
とおっしゃった。
僕のテーマからいえば、農産物が産地で作られ、流通する際に、どんな情報をどのように貼付することで、消費者に安心感を持ってもらえるのかということが焦点だ。そう、ここですでに二元論になっている。野菜自体はものだから、ものの流通、つまり物流になる。しかし、残念ながら現在の流通では、情報はそれについていかない。何より、日本の野菜生産では、情報は記録されないままものだけが流れていくの普通だったからだ。
しかし、キュービタルな「もつれ合い」の世界においては、情報は常にものに寄り添うべきだ。つまり、今僕や業界で議論されているアプローチとは次元が違うものの見方が必要なのではないか、ということを感じた。
これを発端にいろんなコトを考えたのだけど、とにかく石井先生のお話には刺激を受けた。
------------------------------------------------------------
来る11月21日、東京海上研究所にて、このキュービタルをテーマにしてのフォーラムが開催される。無料で参加可能なので、関心を持たれた方はぜひ参加してみて頂きたい。
ちなみに東京海上ビルから、僕の大好きなスパゲッティ屋「リトル小岩井」はすぐ近くである、、、会場で僕を見かけたら声をかけて欲しい。
■第21回東京海上研究所のフォーラム
http://www.tokiomarine-forum.org/
洋梨ラフランスの記事を読んで、僕あてに注文や問い合わせをして下さった皆様。スミマセン今年は僕が販売する訳ではないので、直接、尾形果樹園にご連絡ください。匡弘(まさひろ)さんに代わってもらって、ヤマケンのWebをみたと言えば、厚遇してくれると思いますよ。
ところで親友の加賀谷から言われて知ったのですが、いまGoogleで「やまけん」というキーワードで検索をすると、僕のこのWebが一番上に来るそうです。おお、、、ホントだ!ちょっと嬉しい。「やまけん」とかいう短縮形のニックネームはやたら多いので、以前は一番上に来ることはなかったんだけど、、、おそらく更新頻度が高いからですかね。
でも、昔々、私が大学生の頃は、インターネット・WWW利用者も少なく、その中で農業情報関連の内容をきちんと作っていた私のWebサイトは、「日本の農業ホームページアウォード」というイベントで6位にランキングされたことがあるんですよ。
でもそっちよりGoogleで1番上の方が嬉しいかも。よし、次は「食い倒れ」というキーワードで一番になってやる!現在はというと、、、おお!それでも7番目だ。 よーし頑張ろう。
ラフランスが美味くなる季節がやってきた。洋梨は、食べ方とくに食べ頃の見極めが難しく、苦手とする人が多いのだが、ピークの時期を見極めて食べると超絶に美味しく、やみつきになる果物だ。ただし、それは「よく栽培されたラフランスであれば」ということになる。何でもいい訳ではない。
そして僕は素晴らしい生産者を知っている。つい最近ぶどうを送ってきてくれた、山形県上山にある尾形果樹園がそれだ。僕はここの2代目、匡弘ちゃんと昨年取引をしたのだ。でも今年は取引はしない。けど、売れて欲しい。ということで、頼まれてもいないし仲介手数料も発生しないが、紹介したいと思う。その代わりテキストは昨年使用したものに少し手を入れただけだが、、、果物好きな人は必読だ。
山形といえば何を思い浮かべますか?さくらんぼ、ぶどう、、、はいはい、それもそうですが、今回はあの、山形が誇る高級フルーツをご紹介します!それは、、、秋冬の山形の味覚の女王、「ラ・フランス」です!
山形県が誇る洋梨、ラ・フランス。これほど、有名で誰でも知っているにも関わらず、その真価を味わっている人が少ない果物もないでしょう。というのは、この果物、食べ頃を見極めるのが難しい!輸送中の事故を防ぐため、たいがいの産地では硬い実のまま出荷し、フルーツ店の店頭でもまだ硬いまま販売します。これを家庭で適度に熟させて食べ頃を見極めなければなりませんが、、、このラ・フランスは本当にデリケートなので、追熟に失敗することが多い!ですから、この旨極をみて「な~んだ今回は洋梨かぁ、、、」という人は、きっとまだ最適に熟成されたラ・フランスを食べたことがない人なのではないか!と思います。(個人的私見ですけどネ!)
そこで!今回は、農家さんの段階で、最適な環境で追熟させたラ・フランスをお届けします!熟し加減の見分け方もきちんとご説明しますのでご安心。お値段は、絶対に安い!今回ご紹介する生産者さんは、山形でも有数の技術を持つ、地域の農業普及員さんが「あそこだったら間違いない!」とお墨付き太鼓判を押す生産者さんなんです!本当だったら超高級フルーツ店で、目が飛び出そうな値段になるハズの実を、、、今回は無理をお願いして限定で分けて頂きました!
■やっぱり山形はフルーツ王国だった!
山形の上ノ山温泉(かみのやま)駅から車で15分のところに、その農園があります。尾形匡広(まさひろ)さん。当年とって27歳のこの若武者が、今回ご紹介のラ・フランスの生産者です。尾形さんの一家は本当に果樹一家。3.2ヘクタールの西洋梨農園をもつ大規模生産者さんなんです。
今回出荷のラ・フランスは、その中でも自信のある畑で栽培された、超一級品なのです!
「ラ・フランスはいろんな地域で作られているけど、今回出荷する畑では、化学肥料は使っていません。うちも入っている生産車グループ独自で原料(魚かすなどの有機質資材)を吟味して配合した肥料を施しています。また、よく陽が当たる畑で棚栽培にしているので、ひとつひとつの実に日光があたって味が抜群に乗るんですよ!」
この畑、蔵王を背中にしょっている最高のロケーション。メチャ空気が澄んでいて旨い!水も旨い!用水路をちょろちょろと水が流れている音をバックに蔵王山系を眺めていると、こんな環境で育った果物がまずいわけないよなぁ~ と納得。
さてこのラ・フランス、実はすでに収穫は終了しています!ラ・フランスは、この時期(10月中旬)に一気に収穫し、最適な温度帯に設定した冷蔵庫で保管して、長期熟成の期間に入るのです。この熟成によって、あの高貴な香りと滑らかな舌触りが産まれるんですネ~。今回はその冷蔵庫まで入ってきましたヨ!5分も入っていると身体の芯まで冷え切ってしまう環境の中で、じっくりと寝かせられ、熟成され、出荷を待つラ・フランスたちに対面してきました!薄緑色と、ところどころに黄金色がまざったような微妙な色合い。あの洋梨型のスタイルに微妙な凸凹があり、それが複雑な陰影を産み出しています。
■お買い求めは
キロ数と1玉の大きさで決めます。たとえばLサイズだと3K箱で11個入り、3Lだと9個入りになります。
3K 5K
L 2300円 3000円
2L 2800円 3800円
3L 3200円 4500円
4L 3300円 4700円
5L 3500円 5000円
連絡・注文は下記に。
尾形果樹園
(FAX)023-674-3374
■最重要!おいしいラ・フランスの判断方法と保存方法
ご説明したように、生産者さんの冷蔵庫にてぎりぎりまで熟成させますが、ご自宅についた時点ではまだ完全な食べ頃にはなっていません。食べ頃になるまで、一工夫が必要です。下記をご参考に、ご自分の好みの熟し加減を模索してください!
①到着したら!まずは箱をあけて、一目その姿を愛でてください!ただしまだこの時点では食べるべからず!
②追熟・保存をするには、お届けした箱で保存するのがベスト!ラ・フランスは、20度を超す室温だと呼吸が激しくなり、香りが飛び、日持ちしません。18度以下の室温がベスト!ただし、冷蔵庫は×ですヨ。例えば、雨や風が激しく吹き込んでこないベランダがあれば、その日陰に置いておくのもよし。ただし、日光で段ボール自体の温度が上がらないように、一枚別のの段ボールを上に置くといいでしょう。
③箱にシールで貼られている「食べ頃日付」は、正確には食べ頃というより食べ始めてよい日付です。ですからあくまでこの日付を目安に、追熟させた箱を開けて、香りをチェック!甘く麗しい香りがプ~ンと漂うようになったら食べ頃に近い!一つの実をそっと取り出し(両手でネ!)包装キャップをはずして、軽く指でお尻の部分を押してみて、抵抗なくスッと押せるようであればOKでしょう!ここから先は、ご自分の好みで更に熟成させるなどしていただくのが一番いいと思います。
④美味しい食べ方、、、お菓子に使ったりといろんな食べ方があるけど、、、やっぱり私は、熟したラ・フランスを食べる40分くらい前に冷やして、切りわけてそのまま食べるのが好きですねぇ~ 芸がなくてスミマセン。でも、本当に極上品だから、手を入れるのはもったいないカモ、、、
やまけんは、いくつか手に入った時は、一度に食べきらないように、若い熟成の段階から、柔らかくなってちょっとやばくなる手前の、熟成しきった味までをまんべんなく味わうのが好きです!とはいっても、あんまりおいしいとすぐに食べ切っちゃうんだけど、、、
ここまでやって美味しくないはずがない!本当の極上のラ・フランスを、ぜひご賞味あれ!!
僕は通常は甘いものは苦手である。でも、時折無性に甘いものが食べたくなる。ただし和菓子にはそれほど惹かれない。もっぱら洋菓子というかケーキ類である。ちなみにそれほど吟味して食べる訳ではなく、コンビニのシュークリーム程度で十分である。でも、美味い不味いの別はわからないでもない。例えばガトーショコラだったら、代々木上原の小粋なフレンチ「カストール」の藤野シェフが作るのが一番だ。ま、食べればわかる、ということだ。
そんな僕が最近、打ち合わせに常用している洋菓子店がある。門前仲町の深川不動尊の参道にある「ペリニィヨン」である。変なところにィがついているが、あくまで「ペリニィヨン」だ。ここの何が美味いかというと、ペリニィヨンロールというロールケーキが見事にバカ旨なのである。ショーケースに並べられた色とりどりのケーキの上段に、見事な存在感で置かれているフルサイズのロールケーキ。断面にはフレッシュフルーツがこれでもかと言わんばかりに入っている。このロール、1本丸ごと買おうとすると、1800円もするのだ! さすがに1800円は買えないのだが、嬉しいことに1人前にカットされたものを380円で求めることができる。喫茶コーナーもあるので、よくここで打ち合わせをし、絶品ロールを食べるのだ。
このロールケーキ、何が違うといえば、スポンジの質だろう。僕はこんなにフンワリ、しっとりとして、かつ卵黄の香りがクンと漂う上質なスポンジを食べたことがない。そしてそのスポンジが抱く生クリームと、フレッシュフルーツとの妙なる組み合わせは、まさに夢見心地である。
すごい実力の店だ、、、と思っていたら、この店、なんとあの洋食の名店である京橋ドンピエールの系列店だという。道理で、、、
ちなみにこの店に来るのは簡単だ。地下鉄門前仲町駅の出口1番を出ると、そこにはすぐ深川不動尊の大鳥居がある。そこをくぐって、奥にみえる不動尊に向かって30メートル歩いた左側にあるのだ。この通りの名前がすごい。だって「人情深川ご利益通り」なのだ。そしてこの通りの反対側に、僕の会社の入っているビルがあるのだ!
記憶して欲しい。「人情深川ご利益通り」には、いい洋菓子と食い倒ラーが同居していると、、、
以前にも「現在東京で一番旨いと思う蕎麦屋」として紹介した出羽香庵が入っているのは、地下鉄虎ノ門駅からすぐのところにある三井ビルの1Fにある「山形プラザゆとり都」だ。ここは、山形県の特産物を直売している、いわば県のアンテナショップだ。
山形の郷土食は、首都圏で余り知られていないと僕は感じている。実は山形県は非常に特殊な食文化を持つ地域だ。枝豆と小茄子に関する美意識は、おそらく日本で一番と言える民族(?)が山形県民であることは間違いないと思う。枝豆は一世を風靡した「ダダ茶豆」クラスの枝豆品種がゴロゴロしているのだ。なすについて言えば、山形の人にとって、よく関東でスーパーに並んでいるサイズのなすは「収穫し忘れてでかくなってしまったナス」なのだ。そう、やはりナスも小さい内が味が濃いので、彼らは贅沢にも小茄子を標準としているのだ。
そんな山形の食文化に触れるために非常にいい入り口がこの山形ゆとりプラザだと言えよう。常設されている販売コーナーでは、関東では通常手に入らない食材が豊富だ。赤カブに代表される漬け物類に始まり、向こうでは標準的に食べられている充填豆腐、珍しい加工納豆である塩納豆や南蛮納豆、蕎麦だけではなく麦キリなど、バリエーションに富む乾麺類、そして納豆汁の素や打ち豆、乾燥山菜などなどなど、ここに挙げるのも難しい。
常設コーナーの他に、季節毎にたつ企画コーナーがある。ここではラフランスなど旬の商材が並ぶのだが、ふと立ち寄ると、秋の味覚であるキノコ(茸)が並んでいた、天然ではなく栽培ものだが、それにしても通常の栽培品とは趣が違う。そう、山形は山菜特に菌茸(きんたけ)類の宝庫なのだ。300g程度で300円~380円と安い。普通にスーパーで売ってるものとは違い、傘をほぼ開ききったナメコと、独特の質感のクリタケを買い求める。となりにあった辛味大根(50円!)も買う。帰り道で和牛コマ肉を買った。
帰宅後、茸は石突を取り割き、葱と牛肉と一緒に鰹出汁で煮込み、濃い目の盛りづゆにする。別鍋で低アミロース麦を原料にした乾うどん(これは国立作物研究所の所長さんにいただいたものだ)を茹で、もちもちとした食感を得られる12分にざるにあげ、冷水で洗う。これに、同じく山形の辛味大根おろしと葱を薬味に、一気にきのこうどんを啜るのである。一口すすってすぐ、口にきのこの出汁と香り、旨みが広がった。その後、ヌメリとしゃっきりの入り混じった歯ごたえが感じられる。思わず鍋にもう一束、うどんを追加してしまった。
きのこのシーズンは長くない。虎ノ門周辺に居る方は一度いってみて欲しい。
以前に竹鶴酒造の石川杜氏に連れられて大満足の一夜をおくった北千住「バードコート」を再訪した。単に食事をするためだけではなく、僕の雑誌連載の企画にご登場願うため、ご挨拶も兼ねている。とはいってもメインは食いしん坊であり、編集者と共に眼を爛々と輝かせながら入店した。奥様でホールご担当の千寿子さんが案内してくださる。店主の野島さんはまさにリング上で串と真剣勝負の真っ最中だった。
にもかかわらず、合間にこちらの話に相づちを打って頂いたりして、非常に恐縮。野島さん、本当にこんな売れっ子なのにも関わらず、腰が低く物腰柔らかで、謙虚な方なのだ。ちょっと有名になるとすぐ天狗になってしまう人が多い中、こういう方に出会うと我が身を反省せねばと思うことしきりである。
バードコートでは、焼き鳥は勿論絶品中の絶品なのだが、他のアテも丁寧に吟味されており、旨い。特に僕が好きなのはレバーペーストだ。下の写真のように、大きめのバター片のように切って出てくる。これをバゲットにコテコテと塗りつけて口に運ぶ。全くレバー臭のしない、典雅で強い旨味と甘み、そして深いコクがやってくる。これには実は赤ワインが合うような気がする、、、高そうなので頼んだこと無いけど。バゲットは適当なタイミングで追加してくれるので、かなり楽しめる。お得な一品だ。
そして今回旨かったのは、これも初めてだが、食後のプリンだ。詳細は尋ねなかったが、当然奥久慈シャモのタマゴなのだろう。味は、、、画像のごとくである。これにもコクとまろみがあり旨い! もう完全にノックダウンなのであった。駿河若シャモとは全く違う奥久慈シャモ。何が違うかと言えば筋繊維の強さ。奥久慈シャモは繊維感については若シャモを寄せ付けない。噛むとプチンプチンと音を立てて弾けそうな感触なのだ。
平日でもほぼ予約をしないと入れない店になりつつあるバードコート。日・月は休日。しかも焼き鳥としては破格の値段を覚悟する必要がある。でも、死ぬ前に一度は行っておくべき店だと思う。
会社で、ある小売向け出荷の大根の葉っぱの状態が悪く、返品が20ケースほどあった。1ケースに6~10本入っている。これ、減農薬減化学肥料の美味しい大根である。見栄えを気にしないので有ればまったく問題はありません。
すでに知り合いの店に箱ごとあげることにしてますが、必要な人がいれば無償でおわけしますよ。なんなら箱ごと。ただし、門仲に来て手渡しでないと難しいですが、、、
ご連絡下さい。
先日も書いた、大倉正之助さんプロデュースの能舞台、飛天双輪能の当日。「招待するからおいでよ。バラシ手伝ってくれればいいから」
ということで、受付はスルー。スタッフシールを貼って客席の隅から能を観る。
ハコは新木場のスタジオコースト。国立能楽堂のような伝統的なたたずまいと違い、ここはオールナイトで皆が踊る、クラブだ。今日の内容は2本立てで、大鼓独奏、能「山姥」 と新作能「一石仙人」。先日木場で正之助さんに再会したのもびっくりだが、この日はもう一つあって、1本目の「山姥」に、安田登さんがワキとして出演していたのだ。安田さんは、僕の高校時代の担任教員をしていた人だ。教員をしていた当時からすでに能役者だったが、僕が卒業する少し前にいろいろあって退職し、現在は能役者やさまざまなことをしている。その彼が出ている。ちょっとびっくりした。まあ、世界は狭いのだ。
二本目の「一石仙人」は古典ではなく現代人が書いた作品。一石仙人とはアインシュタインのことだ。謡の中では相対性理論が語られる。面白かった。
最後、正之助さんが独りで出てきて御礼のことば。そして、
「さいごに、マイクを通さないで肉声で大鼓をやります。」
そういって、一切のPA抜きで演奏が始まった。乾いた大革の音。正之助さんの声。この日いちばん観客の心に迫ったのはこの音だったに違いない。
客が捌けたら撤収。大道具屋さんに適当に混じってばらしをする。おそらく僕が、全く関係ない人だと思った人は居ないだろうな、、、
実にいい夜だった。
みそカツを食べた直後だが、目指すはあんかけスパの「チャオ」。あんかけスパといえば、本記事の「その1」に紹介した「スパゲッティハウス ヨコイ」が元祖だが、このチャオは、そこで修行した人が開いた店で、人気を二分しているという。実は僕はヨコイ一辺倒で、チャオにはいったことがない。今回は「矢場とん」もそうだが、行ったことのない店で攻めてみたい!ということでチャオを目指すのであった。
さて、西口地下街の「矢場とん」から速やかに移動。目指す「チャオ」は東口の地下街にあるなのだが、、、見つけるのにすごい苦労したぁ~
名古屋の地下街というのは非常に充実している。そして網の目のように張り巡らされており、初心者には全く全容がつかめない。駅前の地上にそびえたつビル群の地下にそれぞれ地下街があり、それが相互に連結して巨大な地下空間を形成しているといった感じなのだ。これはLANが相互接続することで形成されるインターネットの構造と同じだなぁ。
「名古屋地下街はインターネット方式だった」
ということだな。名古屋の地下街もLANの世界は保持されていて、例えば「テルミニ街」とか「ミヤコ地下街」など、ストリートや区画ごとに名称がある。新参者には訳がわからないのだが、、、しかし、この地下街でほぼ必要なものが全てまかなえるようになっているのはすごい。あらゆる業種の店があるようである。当然、食べ物についても困らない。名古屋のB級グルメの名店の支店がかなり揃っているのである。
さて11時に矢場とんに入店し15分で完食。そこから5分で移動するハズだったんだけど、、、どこだかわからん!ビルの名前「菱信ビル」をアテに地上部を探すのだが、全くもってわからない。しょうがないので電話で店に聞いた。要するにメルサを背にしてみえる東京三菱銀行のビルの地下ということだ。道の向かいから地下に降りてその方面に向かったが、同じ所をぐるぐる回ったりと、苦労してたどり着いた。もう11時35分である。
------------------------------------------------------------
■チャオ 菱信ビル店
住所 : 名古屋市中村区名駅4-8-12 菱信ビルB1
電話 : 052-562-5668
営業時間 : 11:00~(L.O.21:00)
ミラネーズカントリー レギュラー 650円(だったかな?)
------------------------------------------------------------
チャオは非常にきれいな店の作りで、地下街のカフェという感じである。しかし、そこで出てくる料理はギトギトなのだが、、、店内にはサラリーマンと家族連れに二分されている。12時過ぎには殆どがサラリーマンになるという。
オーダーは当然「ミラカン」である。これが一番出ているメニューだそうだ。ミラカンとは正式には「ミラネーズ・カントリー」。ミラネーズというのはタマネギ、ピーマン、マッシュルーム、タケノコを炒めたもので、カントリーというのはそれにウインナーが加わるということだ。ここでスゴイのが、ウインナーは、ちょっと本格的な粗挽きウインナー、、、などではなく、皮が赤いあのウインナーなのだ!絶句であるが、これでないとあんかけスパではない!という痛快さだ。みよ、このプレゼンテーションを↓
まずは麺とタマネギ、ソースをちょいっと絡めて食べる。うん、マイルド!ヨコイにくらべると食べやすい感じがする。麺がかなり強めに炒められているので熱い。ちなみにこのスパ、最初に麺とソースを混ぜたりしない方がよい。なぜかというと、麺にタップリこってりとラードが絡まっているのだが、そのままにしておけば下に流れ落ちて溜まってくれる。それをソースと丁寧に混ぜたりすると、ソースの中の片栗粉が油もまとってしまい、ギットンギットンになってしまうのだ、、、
さて順調に食い進むが、なんだか違和感も感じる。チャオのスパは俺には合わない予感。食べやすい味なんだけど、なんか引っかかりがなさ過ぎる。それにちょっと油っぽさが好かない。ヨコイのラードもギトギトなので量的には同じかと思うのだが、こっちのは少し腹にもたれる。あ、いや、トンカツ食べてるからじゃないですよ。おいら、トンカツとスパなんてたいした分量じゃないっす。なんだか量的な問題ではなく、質的な問題なのだ。
ま、そうはいいながら完食。ごちそうさまでした。割り切れない思いはあるものの、立派なあんかけでした。時刻は11時50分。11時から50分間で2食。ほんとうは喫茶コンパルの海老フライサンドも食べたかったのだが、今回は断念だ。
急いでとある卸売市場に向かう。さ、仕事、、、
(更につづく)
先日写真で紹介した島バナナが完熟を迎えた。一気に皮が弾け、茶色いシュガースポットだらけになる。みためは悪いが、数メートル先からわかる強い香りが、完熟を伝える。こうなったら後は一気に食べてしまわなければならない。
もし、本日8時以降に門前仲町にこられる人がいたら、食べさせてあげますよ。他のバナナが食べられなくなること請け合いである。
ところで先日の枝一本の写真、あれだけの島バナナで一体いくらくらいだと思われるだろうか。
答えは2~3万円である。
なんと仰天のニュースだ。
http://www.asahi.com/special/farmsteal/TKY200311010108.html 大学時代に僕に畑を貸してくださっていた農業の師匠、藤沢市の飯島正博氏のぶどう園に泥棒が入っていたのだが、なんとそれを捕まえたと言うことだ!朝日新聞に写真入りで掲載されるなんて、かっちょいいぞ飯島さん!
ちなみにこの飯島さんの農園で僕の本の表紙を撮影したのだ。ニンジンの写真も飯島さんのものである。うーむあとで電話をしてみよう。
名古屋出張である。名古屋は大好きなのである。名古屋には独特の食文化がある。それは関東とも関西とも違う、やはり「名古屋」としかいいようのない文化が存在するのだ。鰻の焼き方が関西流になる(蒸さないで焼く、アレだ)のがだいたい名古屋からだし、とんかつのソースに味噌が使われるのもやはり名古屋だ。いや、ちょっと手前の豊橋でもそうだけど、マイルストーンとしては名古屋ということがいえるではないか。
その名古屋の食の中でもひときわ異彩を放つのが、「あんかけスパゲッティ」だろう。これは、ちっと信じられない料理だ。まず麺は2.3ミリの超極太麺だ。ボルカノ食品というメーカが作っているもので、これをゆで揚げておいておく。そして注文が入るとその極太面をラードでこってりと炒めるのだ。ラードがまぶされて風味の就いた麺を大きな皿に盛り、そこにかけるのが洋風ソースだ。これがまた超弩級のオリジナルソースで、トマト風味ではあるものの、正体不明のとろみソースなのだ。ちょっとピリカラで、どう考えてもとろみは片栗粉系のトロトロ加減である。これを先の極太麺にたらーりとかけて、その上から各種の具をトッピングしていただくのである。これが見事にはまる。ラードがしつこいとか、とりあえず量が多すぎるとかいろいろとあるのだが、大体、僕が薦めてこれを食べた関東人は「おいしい」と言っている。そのあんかけスパの元祖が「スパゲッティハウスヨコイ」という店だ。テレビ塔から栄を錦通り方面に歩いたところにあり、数年前に僕はそこで衝撃の初体験をしたのであった。このヨコイ、愛好家が多く、こんなページもある。↓
ヨコイではその独特のソースをレトルトで販売しており、僕の家にはかならずこのソースとボルカノ食品のスパゲッティが常備されている。
名古屋名物はいろいろあるが、まあ僕にとってはこのあんかけスパをもって嚆矢とするのであった。
さて名古屋では午後イチに重要な会議があるので、スケジューリングが難しい。昼の一歩手前に名古屋に着き、かつ手早く食べ歩かないといけない。なぜならそう、ハシゴする気満々だからだ。せっかくの名古屋だもんね~
とりあえず13時から市内で会議なので、11時には名古屋に着いていなければならない。また、食べ歩きをするならば、できればあまり離れていない場所で2~3店を回りたい。また、今回は、まだ「行った事がない店」に行きたいと言う気持ちだ。ということを条件設定し、名古屋駅周辺で食べられるあんかけスパと味噌カツを食べることにした。
店は下記である。
チャオ 菱信ビル店のあんかけスパゲティ
住所 : 名古屋市中村区名駅4-8-12 菱信ビルB1
電話 : 052-562-5668
営業時間 : 11:00~(L.O.21:00)
矢場とんの味噌カツ
住所 : 愛知県名古屋市中村区椿町6-9エスカ地下街
電話 : 052-452-6500
そう、どちらも名古屋駅に隣接する地下街の中にある店だ。豚カツの矢場とんは、これまた有名だがまだいったことがなかった。矢場町というところが本場らしいが、名古屋駅横の地下街にあるので、まずはここからとしよう。で、味噌カツを食ってから、あんかけスパのチャオに行くことにしたい。チャオとは、先述のヨコイで修行した人が開いた店らしい。ここも超人気とのことなので、前から行ってみたかったのだ。この2店舗を攻め、その状況によってはもう一店攻めると言う計画を練り、就寝。
~起床!
朝食は摂らずに「のぞみ」で一路名古屋へ。名古屋着が10時30分。地下街はすぐとなりなので移動に10分もかからない。早く着きすぎて、店の人たちの朝礼中だった。
「お客様に感謝して、一日をはじめましょう!」みたいな。
この「矢場とん」の外観は、、、恐ろしくベタである(笑)このブタちゃんマークを観て欲しい。
このブタが店内にも跳梁跋扈している。さて11時ジャストに入店。僕が一番目のお客さんです。店のおねーさん(カワイイ!)に「初めての人が頼む場合、どれがいい?」と訊いた。「そうですねー基本はロースかヒレの定食ですよ。」とのことなので、ロース定食(1100円)にする。また、串カツでヒレも一本(200円)頼んでみる。
程なく運ばれてきたヒレ串をかじる。久しぶりのドテカツである。あ、ドテというのはこの味噌ソースの俗称である。串カツとドテソースの相性は素晴らしい。この矢場とんのドテは実にマイルドかつドライな風味だ。つまり甘すぎないと言うことだ。これには好感が持てる。
そして運ばれてきたロース定食。とにかくカツが味噌色に染まっている。
先ほど書いたとおり、ここのソースはどちらかというと甘味抑え目のドライ。これも実に旨い。不思議なことに、なんだか家で食べているような懐かしい味である。僕の後、カップル2組がはいってきたりしているが、外では「お土産20本!」という声が聞こえる。あ、そうか、串カツを20本ということだな。中々いいお土産だな、、、ロースは1本150円だし。
ぱくぱくぱくぱく
12分で食べてしまった。御馳走様でした。
うん、旨いです。矢場とんの味噌カツ。ただし、なんとなく先入観としてある「甘~い味噌」というイメージではなく、甘味控えめのドライなソースなので、少し残念感があるかも。でももちろん、問題なく合格点。
さて15分経過だ。すぐさま駅の反対側に渡って地下街に潜入。あんかけスパのチャオに向かうのだった、、、
(つづく)
むふふ。本日は名古屋出張である。
名古屋と言えば、、、という店がいくつもあるのだ。
とりあえず昼食時間に間に合えば、下記を回ろうと思う。夜はそんなにゆっくりしてられないので、昼にかけるのである。こう期待。
チャオ 菱信ビル店のあんかけスパゲティ
住所 : 名古屋市中村区名駅4-8-12 菱信ビルB1
電話 : 052-562-5668
営業時間 : 11:00~(L.O.21:00)
矢場とんの味噌カツ
住所 : 愛知県名古屋市中村区椿町6-9エスカ地下街
電話 : 052-452-6500
コンパル テルミナ店 のエビフライサンド
住所 : 愛知県名古屋市中村区名駅1-1-2 テルミナ地下街B1
電話 : 052-565-0211
営業時間 : 朝8:00~夜9:00
過去に書いた静岡編の一番最初の記事を掲載し忘れていた。SAVAさん、これだけあれば困らないと思いますよ。感想よろしく。
2002年3月22日
たった今、新幹線で静岡に向かっている。本日はあるお茶産地の生産者グループに対して実施しているコンサルの最終報告会である。
静岡には、農業関連の仕事をしている知人が多く、そうした人が私を講師として呼んでくれたり、コンサルの仕事を紹介してくれるため、接点が多い。また、そうした知人がほとんど全て食に関心の深いため、県外人である私に静岡の美味い物をこれでもかというほど食べさせてくれる。おかげで、静岡についてはその辺の人よりは通じていると思う。
静岡というと、ほとんどの人が反射的に「お茶」を思い浮かべるだろう。事実、私の仕事としての静岡との関わりはお茶関連のものが多い。私がまだ大学院生だった頃、静岡市内にあるお茶メーカーとお付き合いができた。深蒸し茶全盛のこの時代に、あえて若蒸し(業界では「伸び」という)の本物志向のお茶を前面に押し出すそのH社の最高級茶は、かの高級スーパー紀伊国屋にて一番高い価格をつけている(なんと100g5000円である)。このH社の専務が、船乗りになろうと水産大学にいったのにもかかわらず家業の都合でお茶の道を目指すこととなった快男児であり、かつまた食道楽なのである。私の静岡美味いものの旅はこの専
務との連れ食いから始まる。
当時まだインターネットの普及が始まったばかりの頃、このH社のWebを立ち上げるべく、泊りがけで毎月若手社員に指導にいった。3度の飯より食べることが好きな私のために、専務は本当にいろんな美味しいスポットに連れて行ってくれたのである。
(続きは下記↓をクリック)
■とんかつ「かつ好(よし)」
特製ロースカツ定食 2500円(当時)
中でも最高だったのは、とんかつの名店「かつ好」。静岡と清水に店があるが、最近では恵比寿ガーデンプレイス内にかっちょいい店を出しているので有名である。ここに入ったら、トクロー定食(特製ロースカツ定食2500円!)を食べるべし。包丁の入ったかつが銅製の網にのせてやってくる。それをソースを使わず、店独自に調製した塩でいただくのだ。今でこそこうした食べ方は珍しくなくなったが、当時初めてこのとんかつを食べて私のとんかつ観は抜本的見直しを要することになったのであった。豚特有の獣臭みを抑えながらよい意味での香りはなくさぬように飼育された豚肉を、あくまで軽くふんわりと揚げている。噛むと肉のジュースが口中に染み出てくる。塩を使うことで甘味が引き出され、これまた店で調製された芥子をつけることで一層味が引き締まる。元来とんかつにはソースをどぼどぼとかけたいのだが、このかつはそれを許さない凛とした佇まいがあった。
「学生時代からよくここで食べてたからここのオヤジはよく知ってるんだ。今は一番いい職人が○×店にいるから今度連れてってやるよ!」
と専務は言っていたものだが、数年後の最近、「いい職人が辞めて味が落ちたからもうあまり行ってない」とのことだった。あのカツがまた食べたい、、、その後、恵比寿店に何度か足を運んだが、確かに「あの味」ではなかったのである、、、
■しずはた蕎麦 静岡市内
(詳細わからず)
もう一つ忘れ得ぬ店がある。静岡の郷土の陶芸に「しずはた焼き」がある。市内に、このしずはた焼きの器でそばを供する小さな店がある。何処にでもあるようなその気取らない市中の蕎麦屋で「しずはた蕎麦大盛り」を頼むと、しずはた焼きの大きな鬼の面を器に、蕎麦が盛られてくる。この店のスタイルで素晴らしいのは、つゆと薬味である。薬味には白葱、青葱、ゴマ、天かす、鶉の卵が付いてくる。これをつゆに投入しどろどろになったところに麺を「和える」。これが素晴らしく美味いのだ!以来、家で蕎麦をゆでる際には、この薬味が私の定番に
なった。
しかし今回は新たにチャレンジをしようと思っている店がある。それは前回そのお茶メーカーの営業の人に聞いたとんかつ屋である。何でも、そこの「特上」は、皿の上にとにかく肉が食いきれないほど載ってくるというものらしい。
「とにかく肉を食べたぁ、って気になりますヨ!やまけんさんでもあの特上を食べたらばっちりなんじゃないですか?」
という。で、あれば絶対に食べよう!と決心しているのであった。
そうこうしているうちに静岡に着いた。これから山間部に入るのでしばらく筆を休める。
、、、最終報告会の午前の部、終了!ここ静岡の新間地区には、素晴らしい中華がある!それは、満留賀(みるか)という店なのだ!私はこの産地に来るたび、お願いしてここに昼食に来ている。はっきりいって静岡市街から30分ほど山に入ったところにある、完全に田舎(失礼!)の川沿いの店である。知らない人もいると思うので言っておくと、静岡という土地は、中心部である駅から10分も車を走らせるともう山と川、、、である。私の通う産地は新間という地域にあるが、どだいここの街道筋に中華の店を出してもなぁ、、、というロケーションである。
しかし!この満留賀、むちゃくちゃに繁盛していて、昼なんぞは時間をずらさないと入れないくらいに四方八方に名声がとどろき渡る店なのだ。店構えは小さくて汚いその辺の中華屋なのだが、店内の厨房はビカビカに磨かれ、使い込まれている。大火力コンロは4口ほどあり、熟達の料理人が鍋を振っている。聞けば、この満留賀の店主は、大ホテルの中華部門でコックを長年やっていたのだという。
その料理は本当に驚嘆の味と価格なのだっ!!
■満留賀 静岡県新間
坦々麺 550円
上海焼きそば 550円
五目あんかけご飯 650円
鶏とカシューナッツの炒め物 650円
セットB レバニラ炒めセット 700円
セットD 豚の角煮セット 700円
この値段を見よ!この店のロケーションがなせる技であろうが、この価格で出てくるのは、本格中華料理である。横浜中華街の名店のレベルと大差ない技術がおしげもなく使われている。特に坦々麺の美味さは特筆に値する。ちまたの日本風坦々麺は、チーマージャン(ごまのペースト)がやたらと使われて味のりんかくがボヤケタ坦々麺で、あまり美味いと思うものに出会ったことが無い。しかし、この店の坦々はスープの味ベースがしっかりしている上にチーマーと肉味噌が乗っている。肉味噌を崩し溶かしこみながら麺をすすると、きっちりと味の輪郭が浮き上がりながらゴマの香りがするのである。美味いのだ。これが550円はないだろう。そして鶏のカシューナッツ炒めを食べて、その技術の確かさと食材への妥協のなさ、そして価格との落差を実感し、気が遠くなるのである。
この店で私は毎回確実に2人前は食べる、、、麺とご飯ものと単品。本日は夜もあるしとんかつもあるし軽めにしよう!と思ったのだが、結果的にレバニラ炒めと上海焼きそばを頼んでしまった。カシューナッツ炒めはみんなで頼んだがみなおなかいっぱいと言って残しているので食べてしまった。産地の人手、私より1つ年下の石原さんがご飯を大量に残しているので、ご飯食べ残しを許せないやまけんとしてはつい引き受けてしまった。都合3人分だろうか、、、夜が思いやられるのである。
そして最終報告会はバンバンに終わり、夜の打ち上げに進むのであった。とんかつはさすがに本日はムリだろう。まずは産地の方がいきつけの活け魚料理の店へ。
■克巳(かつみ) 静岡市羽鳥
石鯛お造り・ぼたんえび・ホタルイカ刺身・しめさば・かつお
黒はんぺんのフライ
黒はんぺん焼き
フライ盛り合わせ
すき焼き
鯖のバッテラ
多くは言うまい。私は本気で静岡への移住を考えてしまった。なんで街中の家族経営のこんな小さな店で素晴らしい料理が出てくるのだろうか、、、
活け魚料理は美味くない(いけすの中で身が細った魚が出てくることが多い)といわれるが、この店はなんとオヤジが船を持っており、底引き網で漁をしているのである。料亭にも魚を売っているらしいが、このオヤジ(ひょうひょうとした、ごくふつーのめがねオヤジである)はめっぽう魚好きらしく、いいネタは自分の店の水槽に持ってきてしまうのである。石鯛、おいしゅうございました。ホタルイカ、新鮮で目が飛び出そうになりました。そしてお酒は、静岡が誇る磯自
慢。端麗すぎて食中酒っぽくはないんですが、好き。
そして私の大好きな黒はんぺんのフライ。静岡といえば黒はんぺんである!これは声を大にして言いたい!黒はんぺんとは、江戸前の白いはんぺんとはまったく異なる。いわしなどの小魚をすり身がベースとなったはんぺんで、どちらかといえば愛媛の名産であるじゃこ天に近いものがある。これの食べ方で私が一番すきなのが、フライである!パン粉をはたいて揚げた、湯気の上がる黒はんぺんフライにソースをどぼどぼとかけて食べるのである。底力のある黒はんぺんだからこそ、こんなタフな食い方ができるのだ!ちなみに私はこのフライにかけるには中濃ソースがよいと思うのだが、地元の人たちは「ウスターが定番じゃ!」とのことであった、、、
そしてその後になんとすき焼きが出てくると言う、??という料理の展開。しかしこれがまた、素晴らしい肉が出てくるのです。私も肉牛農家にたくさん友人がいるので、牛肉のグレードは判別つきます。最上クラスのA5というグレードの肉がきっちりと出ていました。この時点で私は、本日はこの店で打ち止めでいいや、、、と思い、食いまくりました。
そして最後に出てきたバッテラ。鯖の切り身がちょこんと寿司飯にのっかっているような物とは違います!大型の鯖の半身がご飯を抱きこむような形の変則バッテラ!つまり、外からご飯が見えないのです!切り分けるとご飯が身に抱き込まれているという、贅沢なシロモノ。しかも酢で締めすぎていないから新鮮な鯖の切り身感を存分に味わえるのである!ヤラレタ、、、
さすがに私も満腹。次にもう一軒、県職員の知人の方々が集まっている二次会の店ではおとなしくしていました。海老しんじょを種に酒を飲む飲む、、、
しかしそこを出た後に私は米の飯がくいたくて仕方なくなってしまったのです.お茶漬けかなんか、、、といったら県の方がつれていってくれました。隠れ家のような小料理屋(もう場所もわからず、二度といけないと思う)。ここの料理が美味くて、結局どんぶりめしにいわしの酢〆め、じゃがバター、茄子の味噌炒め(絶品!)。穴子の煮物があったのでこれでどんぶりめしおかわり。
これにて打ち止めとなったのでした。超ド級のとんかつは翌日に持ち越し!
(つづく)
鹿児島の産地から、島バナナが会社に送られてきた。島バナナをご存じだろうか?通常スーパーに並んでいるバナナより数段旨いと私が思っているバナナ品種である。こんなに立派な枝でお目にかかれるとは、幸福至極というものだ。
ご存じの方には釈迦に説法だが、我々がよく目にするバナナは、キャベンディッシュという品種のものがほとんどである。スーパーに普通に並んでいるアレである。フィリピンのミンダナオ諸島やエクアドルなどで栽培されている。台湾バナナはまた少し品種が違う。実はこのキャベンディッシュは、いってみれば栽培品種であり、品種改良の末に出来たものだ。ちなみにフィリピンなどの栽培地ではこのキャベンディッシュはほとんど食べられていない。完全に輸出用なのだ。キャベンディッシュも確かに旨いし圧倒的なシェアを占めているのだが、これだけがバナナではない。茶色っぽい色のモラードバナナやモンキーバナナなど、多種多様だ。そして純国産種といえるのが、島バナナである。といっても台湾や沖縄にあるものなので、純国産とは言えないかな。
はっきり言ってこの島バナナ、激・劇・激旨である。通常のバナナの3分の1程度の小さい実を剥くと、プンと香る甘酸っぱい匂い。ネットリとした果実は甘みと酸味があり、キャベンディッシュに比べると強い個性を感じる。そう、全ての点において強いのである。やはり規格化・大型化された栽培方法で作られているのと、沖縄や鹿児島で小規模に栽培されているのでは違うのだろう。
ではなぜそんな旨いバナナをあまり首都圏で見ないのか、、、それは簡単な話だ。本州に回すほどの量が獲れないのである。沖縄や鹿児島で栽培される島バナナは、収穫の季節が台風の季節と重なる。台風にやられると、パキンと樹ごと折れてしまう。そこでジ・エンドである。なもんで、収穫量は島の人たちで食べる分で終了なのだ。そういう部分もなんとも牧歌的なのだが、極めつけは熟成方法だろう。通常、輸入したバナナは青くて食べられない。食べると死にそうに不味いのだ(僕は食べたことがある。瞬間的に吐き出した。なんともいえない渋みとエグ味が口中に広がり、大変だった。)。それを「室(むろ)」とよばれる部屋に入れ、エチレンガスを噴霧し、一定時間吸収させる。それにより熟成が進み柔らかく甘くなるのだ。
しかーし、島バナナの熟成はというと、枝を適当な大きさに切って、タコ糸で縛り、軒先に吊るして置くのである。で、茶色い点々(シュガースポット)が斑点状につき出したら、食べごろ。それだけである。最高だ。ビジネスにはとてもならん。そこがいいのだ。
会社に届いた島バナナはまだ熟成の途上だ。けど、我慢しきれず一つもいだ。皮を剥き、アイボリーの果肉を齧る。爽やかな酸味とフレッシュな香りがパッと散る。そう、キーワードは酸なのだ。決して甘さではない。甘さをコントロールするのは酸味なのだ。さてこの島バナナ、食べごろになるまでこのままの姿でいられるだろうか?
静岡駅周辺の名店を教えてくれと言うSAVAさんへの返答その2。
これは2002年4月5日の手記だ。
本日も朝から新幹線で静岡へ向かっている。静岡とはすっかり縁が深くなった。お茶との付き合いが産んだ人の縁が、仕事として必要とされるという、正の循環となっている。ありがたし。
しかしこれまで書いてきて、1回の出張で出会う数々の店を全て一号で紹介するのは大変な作業と悟った。親切な読者の一人が教えてくれたところによると、
「やまけん、あんたの食べた量を額面どおりに信じたら、一日5600kcal食べてるよ。」
とのことだ。うーん。
前号となった3月22日編の翌日は、友人に教えてもらった、噂の巨大とんかつの店「蝶屋」に行ったのです。
■蝶屋 静岡駅より徒歩5分 スクランブル交差点近く
上とんかつ 1800円
(ちなみに特上は2000円)
店はむちゃくちゃに狭い。1.3Mほどの入り口と同じ幅でカウンターが10席程度、奥は少し広間になっているが、狭い。しかしカウンター席のスペシャルリングサイドで、演歌歌手のような、絵に描いたような職人の揚げ技を観ることができる!
今回は、最大のでかさを誇る「特上」ではなく「上」を頼んだ。特上は、この店を教えてくれた友人と一緒のときのために取って置く事にしたのだ。店のおばちゃんいわく「特上と上と並の違いは大きさだけ!」ということだった。
絵に描いた職人オヤジが厚手の鉄鍋にフワッと投入したのは、一枚の肉ではなく、「直方体の肉塊」であった。ここでいう「巨大さ」は、横幅ではなく厚みのことだったのだ。当然、火を中まで通すには時間がかかる。10分ほど待つ間にとなりのおばちゃん二人連れを見ていると、ひれカツを頼んでいる。揚がったヒレカツには、もう一人のおっちゃん(鍋前にはいない。キャベツ、ケチャップ担当?いやおそらく交互に鍋前に立っているんだろうなぁ)が、瓶に入った真紅のケチャップをカツにかけている。カツにケチャップを直にかけてしまい客に供すというスタイルは始めてみた。
(続きは下記↓をクリック)
私は、邪道と言われるかもしれないが、とんかつの楽しみの30%くらいは、ソースの旨さが占めていると思っている。先回号で紹介した「かつ好」のような名店ではソースを使わず塩で食べるのが旨かったが、特例である。通常は、これでもか!というほどソースをじゃぶじゃぶかけて食べる。とはいっても段階がある。これを読む皆さんは揚げたてを職人の牛刀包丁で切り分けられ、整然と並んだとんかつのどこから箸をつけるだろうか?これには、端からと言う人と、真中という人に分かれるだろう。当然この端と真中で味わいは違う。まず、端にあるカツ片は、体積比率からすると真中よりも衣の量が多い(あたりまえである)。火も真中より若干通り過ぎ気味である。しかし衣の量ゆえにソースまみれにしたときの至福感は真中片と比べ物にならない。そして真中片は、寿司で言えば大トロか。最も火が通りにくいところゆえ、職人はここがミディアムレアのぎりぎりの加減になるように揚げているはずである。ゆえに、ソースぶっ掛け量はカツ片の部位による変動するのである。
これを「カツ片変動ソース制」と言う、とゆーのはうそである(変動相場制にかけてみました)。
ということでソースの量の話でした。つまり結論としては端っこはソースじゃばじゃば。真中に向かうにつれ淡い味つけで楽しむ。ということで、一口目は真中に近い方から楽しみ、じょじょ
にソース量をふやしていくのが私の食べ方た。
蝶屋のカツにもどる。ここではケチャップが予めかけられて出てくるというスタイルだ。このケチャップ、非常に気になる。瓶に入っているのだが、よくある広口瓶ではなく、カルピス瓶のような瓶なのだ。しかも無印なのでメーカーがよくわからん。そして卓上にはソースさしが出ている。振ってみると、濃度はそれほど高くない。私の好みは濃度の高い、若干甘め野菜たっぷりフルーツ系ソースなのだが、ここのは違う。濃度は若干薄め(つまりさらさらとねっとりの中間)で、辛口ソースである。ケチャップとソースが混ざることでなかなか他に無い味わいになる。
肉は、先に書いたように「肉塊」が切り分けられて出てくる。肉の断面は明らかに通常のとんかつの3倍くらいの面積である。一切れを一口でほお張るとさすがにでかい。噛み締めると肉汁がじゅわっと染み出てくる。お?しかし意外にさっぱりしている。よく考えてみると、肉塊の体積が大きい分、コロモよりも肉の断面のほうが分量的に断然多いので、油っぽさを感じないのである。むしろ、良質の豚肉の味が純粋に染み出てくるのだ。
肉質は、申し分ない上質のロースである。銘柄豚使ってるかどうかは、、、わからん!畜産の仕事もしてたけどちとわからん!!けど、私の好きな「豚の香りがする豚肉」ではある。黙然と食い進むうちに、無言で店のおっちゃんがキャベツを一盛り追加してくれた。ウレシイ。
味噌汁が欲しかったが別注文になるため今回はよすことにした。ごはんもおかわり自由なら頼むのだが、150円かかるので辞めた。あっさり食い終わり、なんとなく物足りなさを感じながら勘定をした。1800円。金額相応と言えよう。
店をでながら、何かしら違和感を感じていた。求めていた物と違う、、、という違和感だ。この違和感の源はなんだろうと歩きながら考えて、結論がでた。
「やはり特上(特大)を食べないとダメだ!」
ということで、本日は蝶屋リベンジマッチで特上を食べに行くのだ!
~~~~~~~~~~~~仕事中~~~~~~~~~~~~
ぷはっ!
仕事終了。
そもそも蝶屋を紹介してくれた静岡のお茶メーカーの社員君とともに蝶屋に向かう。ちなみに蝶屋は「スクランブル交差点の近く」といえば、静岡市在住の人間はすぐに地理的に把握できるらしい。そんなにでかくないスクランブル交差点なのだが、、、
さて、店に入ると、驚いたことがある。カウンター内の頑固そうな親父が、私と目が会った瞬間、ニィ~っと笑みを浮かべたのである。
私は、はじめての店で店員さんと親しくなるのは得意である。しかし、前回は満足感が今ひとつだったため、店の人には目立ってコミュニケーションは取らなかったのだ。にもかかわらず親父は私に笑いかけた。自意識過剰だと言われる向きもあるかもしれないが、私のうしろにいた友人も
「やまけんさんもうあの親父と友達になったんですか!」
と驚いていたほどなのだ。うーんびっくり。そんなにがっついていたかなぁ。
カウンターにつくなり片手を突き上げ「特上!」と頼む。また親父がにやっとしながら肉塊を鍋に投入する。たっぷり10分かかってから切り分けてくれたその肉塊は、やはり「上」とは違う「特上」レベルの圧倒的存在感を放っていた。
あとは書くだけ野暮だろう。私は食った。赤だしも飲んだ。同行の友人が「食いきれない」といったカツ3片も食った。キャベツは都合3皿分食った。
結論:
「とんかつではなく、コロモ付き肉塊をひたすら摂取するという感覚だった。」
でも満足!
あ~ 一軒しか書かないのにやっぱり長いな俺の原稿は!
さて、続きだ。門前仲町の会社で翌日の準備だけして、会社を出た。
ところで僕が人に誇れることと言えば、まずは食欲だ。その他にはそうそう自慢できることはないのだが、ことこれだけはというのがもう一つだけある。それは出会う力だ。32年の短い人生の中で、どうしても偶然とは思えない出会いや再会が多々あった。
そして今日、大倉正之助さんに再会した。
なんとなく、家に帰りがたい気分だったのだ。僕には珍しくファーストフードが食べたくなった。門前仲町のモスバーガーに行こうとしたら、その手前にフレッシュネスバーガーがある。そういえば沖縄でよく食べられているスパムをつかったバーガーが出たはずだと思い、こちらに急遽変更。入店して注文し、バーガーが出るのを待っていたのだ。そこに、革ジャン、皮パンツを履いたライダー風の男が入ってきた。その後姿で、僕にはわかった。振り向いて目が合ったときに「正さん」と呼ぶと、向こうもびっくりしながらも、「ああ~なんでだよ~」と握手。
大倉正之助さんは、破天荒な能楽師だ。大革(おおかわ)という、「カン、カッ」という高い音のなる鼓をご存知だろう。彼はこの大革の重要無形文化財総合認定保持者だ。が、彼の場合、肩書きで「へへぇ~」となる相手ではない。ものすごく型破りで面白い人なのだ。能の舞台のみならずジャズや民族音楽、クラシック等のミュージシャンと共演多数、革ジャンを着て舞台に上がり大革だけで独奏もする。ハーレーを駆るライダーでもあり、ケンタウロスというライダー軍団と、満月の夜には集会を開いて能を演じる。
しかし、
彼と僕との接点は芸能ではない。彼は一時期、能楽の跡取になるのが嫌で家を出ていたのだが、その時期、なんと伊豆で農業をしていたのだ!バイクに農具と野菜を積んで伊豆を走り回っていたのだ。しかも有機農業バリバリである。だから彼と僕が話す内容は、芸能のことよりも先に農業なのだ。無論、彼は農業の世界から能の世界に帰ったのだが、スピリッツは持ったままだ。
とにかくかっこいい人なのだ。
彼とは学生時代に出会った。僕は、実は芸を持っている。モンゴルやトゥヴァ共和国といった国々でよく奏でられている「ホーミー」または「ホーメイ」という歌唱法がある。いわゆる倍音を口腔内で発生させ、低い唸り声のような低音と笛のような高音を同時に発声し、メロディを奏するものだ。一頃CMなどで流れていたこともあるので知っている人も多いだろう。経緯は長くなるので書かないが、僕はこの「ホーメイ」の発声の数種類をできるのだ。で、よく乞われて人前でやったりしていた。渋谷駅でよく路上パフォーマンスをしていたひげ面のゴロさんと言う人と競演もしたりしていた。
そんなある日、とある人が大倉さんを紹介してくれた。いきなり家に行くと「ああ、今から山梨でイベントがあるんだけど、一緒にこない?」といわれ、その場で「行きます。」と、かばん持ちをすることに。実はそのイベントが世界文化デザイン会議というもので、かなり著名な文化人が集まるものだった。その一つの分科会で、大倉さんが大革を打つというのだ。それに適当について来い、ということだ。
行ってみてびっくりした。その分科会の座長は松岡正剛。ゲストにはなんと清水博。そして手塚治虫の息子の手塚眞やその細君(漫画家)。なんだかすごい面々なのだ。で、大革の演奏が終わってから、松岡正剛さんがおもむろに「そういえば本日は、倍音を歌う人がいるそうですねぇ」という。何も聴かされていなかった僕はギョッとしたが、そこでやらないのは男でない。ということでやったのだ。豪勢なパネラーと50人くらいの聴衆の前で、インチキホーミーを。ま、結果は大喝采だったが。
イベントが終わり、東京に帰る車の中で、彼が言う。
「山ちゃんさぁ、これからあるイベントの準備に入るんだけど,一緒にやらないか?」
僕はもう間髪いれずにこう答えた。
「いや、やることあるんで出来ないです。」
今から思うと、ここで「ハイ!」と答えていれば、何か人生は変わっていたと思う。明らかに彼は僕の答えを聞いてずっこけていた。ま、しかしこのときは学校内で畑をやっていて、重要な時期だったので、狙ったわけでも何でもなく、自然にお断りをしたのだ。
その後、彼のライブに行ったりして数回顔を合わせたが、ここ数年のあいだ、連絡はとっていなかった。それがまた再会できたのだ。嬉しい。
「今さっきまですぐそこのラジオ局で番組に出てたんだよ。8日にライブがあるから、おいでよ。招待するよ!その代わりバラシ(片付け)手伝って!」
もちろんいくしかないだろう。
そうだ、宣伝もしておこう。
■『飛天双〇能』
(日時) 2003年11月7日(金)・8日(土)
17:30開演(17:00開場)
(会場) 新木場スタジオコースト
東京都江東区新木場2-2-10
電話:03-5534-2525
営団地下鉄有楽町線、JR京葉線、りんかい線 「新木場」より徒歩4分
(演目) 大鼓独奏 能「山姥」
新作能「一石仙人」(2日間共通)
正さんが笑いながら言った。
「バラシ手伝ってもらいながら、ホーミー聞かせてくれよ」
お安い御用だ。久しぶりに練習をしておこう。
こうして久々の出会い・再会があったのだった。濃い一日だった。
フランス語の先生である舞子クンから、「秋刀魚一匹100円で炭火焼きして、大分のカボスをかけて食べられるイベントあるよ!」という魅惑的なお誘いを受けた。ラジオ局の文化放送が「収穫祭」と銘打って神宮外苑で開催するイベントだ。なんでも各地の農協や特産物の出店がやたらと出るらしい。それは行かねばと、某HP社の熱血営業マンである原田君とまゆみちゃん夫妻、そしてフランス人ベンジャミンとそのガールフレンドのリナ(コロンビア人)と共に出かけたのだ。
しかし、、、
あいにくの雨。かなり降っている。
しかも!雨なので早めにさばいてしまおうという主催者の意向で、午前中に秋刀魚を無料配布などという暴挙に出てしまい、午後3時にはすでに秋刀魚ナシ。ウーム。風邪っぽいのに無理して出てきた原田君はもうキレそうである。
しょうがないので態勢を立て直し、「500円で地酒8種類試飲会」で泡盛や芋焼酎「小鶴」などを飲みまくり、早々に酔っ払った。富士吉田焼きソバも食べた。旨かった。
イベントが終わってから近くのベローチェでコーヒーを飲む。舞子クンの友人の女性のボーイフレンドが国籍不明だったので聴いてみると「モルジブ人」。しかもなんと!あの「さんまのからくりテレビ」に、変な外国人として出ているんだそうだ。アミールっていう人なんだけど、知ってますか?俺は観てないから知らないのだ。びっくりしたがいい奴だった。
今日は、サンマは逃したが、さんまの番組出演者に会えた。また、人生で初めてコロンビアの人と友人になった。出会いに恵まれたいい日だ、と思って大江戸線で会社に帰ると、また大きな出会いが待っていたのだった、、、
(つづく)
SAVAさんからリクエストがあったので、静岡駅周辺の旨い店をお教えしよう。ちなみにSAVAさんは、高知県出身のカメラウーマンでありアーティストであり、よくわからない楽しいねーちゃんである。
静岡県は、お茶の仕事や畜産関連でいきまくっているので、知っている店は多い。ただしその多くは山の中だったりするのだが、、、そんな中、駅から歩いていける距離に素晴らしい店がある。ちょっと値は張るが、その価値がある店だ。ぜひ参考にして欲しい。
以下は過去に書いた記事で、まだ日の目を見ていなかったものだ。ちょうどよいのでここに収録したい。
やまけんの出張食い倒れ日記
「静岡伝説の職人の店で襟を正した。の巻」
ずいぶん久しぶりになってしまった。ここのところ大変な繁忙だったのである。途中になっている九州編などちょい面倒で更新していないのだが、、、しかし!超絶美味いもんに出会ってしまった時にはついつい書いてしまう!本日も大変な店に出会ってしまったのである。
読者の皆様からは「どうでもいいけど場所とかきちんと書いといてくれないと、出張とか行ってもわからない」というお声をいただいている。ので、今回はきっちりと記しましょう。
この出張食い倒れ日記でも数回、静岡の旨い店を紹介しているが、そういうところを元々私が知っていたわけではない。私の静岡での導師は、おそらく日本最高レベルのお茶メーカーである「葉桐」の専務である。この葉桐との付き合いを書き出すと5万字くらいかかるので辞めておくが、とにかく茶も一流なら、食にかける情熱と旨い店を嗅ぎ出す嗅覚も超一流なのがこの専務なのだ。その専務が言う。
「やまけん君、いい店があるから、次に仕事で静岡に来る時は前日の夜からおいで!」
わざわざ携帯にかけてきてくれるのだからこれはただ事ではない。超繁忙のスケジュールを力技でこじ開け、静岡に前泊をしてその専務と落ち合ったのであった。
静岡駅に19時に着き、市内繁華街のはずれの道を5分ほど歩くと、夏場には敬遠したくなるアンコウ鍋の店があり、その横に小さな、趣味のいい玄関口を持つ店があった。
牛味 「堪三」(かんざん)
静岡市昭和町10-9
054-273-3773
18:00~20:00(夜のみ営業)
薄藍色の暖簾をくぐるり店内に入ると、10名程度が座れるL字ウンターと6人がけくらいの奥座敷のみの小さな店である。すでに7割方埋まっているカウンターに腰をかけると、ごま油の香りとパチパチと油がはぜる音が聞こえてくる。
実はこの店が何を売りにしている店なのか、この時点では全く知らなかったのだ。
「牛味って書いてあったけど、天ぷらやなのだろうか???」
と専務に聞くとニヤッと笑い、「俺もここで何が出てくるのか、いつもわからないんだ。とにかくお任せなの。」とのこと。
店の大将は50前後。眼光するどいが良く笑ってくれる北川さんと、女性が一人。僕はビール、専務は迷わず「お茶!」。なんとこの店の厨房にはこの葉桐の専務が書いた「お茶の入れ方十ヶ条」が貼ってあるのだそうだ。店の女性の煎れた煎茶を飲ませてもらったが、確かに上手に煎れてあった!
突き出しはカニときゅうりの三杯酢だが、オレンジの何ともいえない味の珍味がまぶされている。大将に聞くと「柿。」柿を粗くおろしたものを加えているのだ。絶妙な味の突き出しで、もう一鉢頼もうとしたら刺身が出てきてしまった。静岡らしく新鮮そのものの鰯と鯛、中トロ。私は食べるペースが速いのだが、刺身を楽しんでいるうちにすぐ天ぷら用の和紙をひいた皿がでた。まずはオクラ、みょうがと夏の旬味が揚がり、旨味たっぷりのさいまきエビが添えられる。ちなみに、天ぷらで美味しい海老はやっぱりさいまきだなぁと思う。そしてそのむこうではなんと客前にある火鉢の網の上に、生きアワビがどさっと載せられた。俺の手前の鉢には松茸がどっさりと炙られている。やがて火のとおりがころあいとなった段階で、甘く火の入ったアワビの切り身と肝(これがめっぽう旨い)、そして松茸の盛り合わせにすだちが添えられてきた。この段階ですでにしみじみと幸せを噛み締める俺だった、、、
しかし!!! ここまではほんの序の口だったのダ!
実はこの大将、この「食い倒れ日記静岡とんかつ編」で軽く触れた、清水市の伝説の名店「かつ好」が一時期新業態店として出店していた牛舌の炭火焼店の板前を勤めた方だったのである。この牛タン店は実は今でもある。が、そこで出される料理の味は、北川さんの在籍時からすると比べることさえ罪だという。とにかくこの北川さんの技の最大の発揮ポイントは、、、やはり肉!なのである。
そう、北川さんが焼き始めたのはまぎれもない牛舌。市販の薄いスライスではなく、ふっくらと厚みをもたせたタンである。炭火に脂が落ちて炎が上がり、タンをさっと舐める。旨そうな焦げ目を十分につけた後、皿に盛ってくれる。その芳醇な香りにしばし、我を忘れる。この香りは、低温冷蔵庫で2週間以上熟成させないと出ない香りだ。口に運び、一噛みするとほぼ抵抗なく繊維が割れ、ゴージャスな肉汁が染み出てくる。そしてあの香りだ。牛肉は香りで食べるものだ。そして香りは脂から立ち上る。旨いなぁ、、、
と、北川さんがすき焼き鍋を用意している。マツタケと牛肉、糸こんにゃくという豪勢なすき焼きだ。うーむこれも食いたいと思っていると、北川さんが「これは向こうのだよ」と、カウンターの対面にいるお客さんグループを目で指して、微笑する。後ろ髪を引かれていると、僕ら用の牛肉を出す。やたらとサシの入ったロース肉だ。牛の格付け上、A4は確実に獲っている上肉だ。これを厚めに切り分け、やおら網で焼く。そして、あの香りがやってくる。供された肉をいただく。これも見事に熟成されたロースだ。とろりと溶けていくあの感覚。そして甘味と香り。牛肉のもつ複雑な味の組成が、分解されていくのだ。
この後ご飯と香の物、フルーツが出て、北川さんとしばし歓談す。気さくな人だが、仕事には厳しい。仲居の女性は3人いるそうだが、そうとうに厳しくしているらしい。葉桐の専務はそれをいつも観ている。もちろんいじめではない。理由を述べながら怒る。だから、女性はみな、辞めない。今日いる女性はお腹に赤ちゃんができているそうだが、「ぎりぎりまで働かせてください」と言っているそうだ。
これだけの店が、なぜ話題にならないのだろうか?非常に不思議。静岡名店の1店。都内で1万円以上の飯を食べるくらいなら、ここにきて食事をしてみてはどうだろうか。感動することは間違いない。
山形の超優良農家から、葡萄が送られてきた。彼は山形県北部のとある地域で有名な農家の息子だ。ブドウよりもラ・フランス農家として名高く、僕も少々だが売らせてもらったのだ。彼の家は新宿に本拠のある某高級フルーツショップに独占的に納めている関係があって、彼の名前をおおっぴらに出すことはできない。従ってゲリラ的に販売したのだった。
山形で講演があった際に彼の農園を訪ねてみた。蔵王を望む静かな大地で、洋ナシと葡萄を作っているだけではなく、立派な「家」を運営していたことが印象に残っている。ちなみに、某スーパーチェーンのバイヤーさんが僕の会社に来た時に、ちょうど彼の葡萄があったので出してみたら、
「この時期になんでこんなに立派で美味しい葡萄が!」
とびっくりされ、ぜひ取引したいと言われたことがある。その話をしたが、やんわりと
「量が採れませんから」
と断られた経緯がある。そんな男だ。ちなみに彼と彼のお父さんに連れて行ってもらった蕎麦屋は絶品だった、、、
実は、ぶどうの本場は山梨県だと言われることが多いが、最近多くの農産物関係者から、「ブドウの好適地が北上しつつある。これからは山形県がよくなるだろう」ということを聴く。お察しの通り地球温暖化の関係だ。山梨の平均気温が上がり、山形がブドウの栽培好適地になっているということだ。だからといっていますぐに果物王国の王座が移動するわけではないだろうが、山形のブドウは、彼の農場をみる限りではレベルが高い。
彼から送られてきたのは6種。蔵王乙女、カッタクルガン、ロザリオビアンコ、レディースフィンガー、アリサ、シナノスマイルだ。おそらく聞きなれない名前ばかりだろう。ブドウはやたらに品種が多いのだが、なぜか店頭には巨砲やピオーネ、マスカットといった一部の品種しか並ばない。もっと面白いブドウは一杯あるのだ。例えばカッタクルガンというのは、つややかなライムグリーンの品種で、皮ごと食べられるブドウだ。皮に渋みがなく、かみ締めると皮のサクサク感と実の柔らかさがあいまって非常に美味しい。
そんな中、僕が一番好きなのは蔵王乙女だ。レッドクイーンと伊豆錦の交配種で、その名の通り、蔵王山麓で育種されたという。ややあっさり目の味だが、上品で気品のある甘味と酸味が心地よい。彼に電話をすると
「いや~ 今年は天気が悪くって、モノが悪くて申し訳ないです。」
と謙遜する。確かに今年は果樹農家には厳しい年だったが、よく健闘しているではないか。帰り道に寿司 匠に寄って、レディースフィンガーを一房分けてあげた。でも、お気に入りの蔵王乙女は僕が独占で食べるのだ。それだけは譲れないのであった。