2003年11月18日 from 首都圏
牛肉関係の仕事で芝浦へ行く。昼飯をすっ飛ばしてしまったので、2時過ぎに遅いメシを物色する。今夜は親友のしんのすけと飲むので、軽くすませようと、この時点では思っていた。品川駅港南口周辺を見渡すと、新しい路麺屋の看板がみえた。海鮮かき揚げ蕎麦330円生卵サービスというのにグラッとくる。 腹が減っていようが満腹だろうが素通りできないのが、こういう街中の路面にあるそば・うどん屋、つまり「路麺屋」である。駅校内のスタンド生そばと同じで、ぼくはついつい入ってしまうのだ。こういう初めての路麺店で僕が注文するものは決まっている。「天玉蕎麦またはうどん」だ。かき揚げ天と卵、そして蕎麦の組み合わせは、いわゆる普通の蕎麦屋では味わえない路麺独特のものだ。 と思いこの品川駅前の店で注文するが、瞬間的に嫌な予感がよぎる。新しく出来たであろう綺麗な店内。パートのおばちゃんの制服。そして円い型枠を使って揚げた、同じ形のかき揚げ天ぷらが並ぶバット。これはもうアウトである。しかも卵は最初から黄身が割れている。不味い。怒りを覚えながら2分ですすりこんで店を出る。
このblogを見た人からよく「何でも美味しく感じるんでしょ」と言われるが、僕が美味しいと思う店は10軒に1軒程度しか遭遇しない。そして、近くにいったら再訪したいと思う店は、そのまた10軒中の1軒しかない。さらに、用事が無くても行きたいと言う店になるとそのまた5軒中の1軒くらいだろうか。ということで、僕が旨いと思う店は実はそうそうないのだ。今日のようなハズレ店の累々たる屍の上に、金字塔的名店があるのである。
しかしあまりにもまずい天玉蕎麦に腹が立ち、会社への帰り道をちょっと曲げて新橋の路面屋をハシゴし、口直しをすることにした。夜は親友との飲みだが、それとこれとは別なんである。その路麺屋とは、JR新橋駅東口地下改札の前にある「日本亭」だ。 この店の蕎麦は旨い。ちょっと麺が柔らかめの時が多いのだが、昼飯時に行けば回転がよいため、茹で立ての時にぶち当たることもあり、こういう時は素晴らしいパフォーマンスを発揮する。なぜこの店が旨いのか、秘密がある。実はこの店の隣に、座って食べる通常の日本蕎麦屋があるのだ。そう、この日本亭では、そこの生蕎麦を茹でているのダ!系列店なんだかどうだか知らないが、とにかく日本蕎麦屋の打ち立て麺を使っているのだから不味いはずがないのである。なおかつ僕が路麺を判断する際の三原則をきっちりと守っている。
1.かき揚げに型枠を使っておらず、形がいびつであること。 これは体験的事実である。型枠に流し込んで効率的に同じものを作り置きしていくタイプの店で旨いかき揚げ蕎麦に出会ったことがない。 2.つゆは若干の甘めの醤油強めをもって良しとする。 天玉蕎麦を基準に考えると、つゆは甘めで、醤油が強いのがよい。 3.新店と古い店が隣り合っていたらまず古い店 まあこれは単純な理由だ。路麺は激戦の時代を迎えている。古い店構えの場合、歴戦の強者であると言える。今回も新しい店に入って失敗したのだから、、、
2.について補記する。最近、路麺店でも関西風のつゆを出してくる店が多いが、全く歓迎できない。大阪駅構内で食べる立ち食いうどんは旨いが、関東で食べる関西風つゆのうどんは不味い。これは、つゆだけ関西風にして、他のパーツを関東バージョンそのままにしているからではないだろうか。特にかき揚げ天ぷらとの相性は×だ。第一、大阪駅の構内でかき揚げ天ぷらをみかけたためしがない。向こうでは天ぷらといえば海老天で、それ以外は無料の揚げカスがあるのが通常だ。関西の人は経験的にベストな相性をわかっているのだ。 ある蕎麦専門誌の調査によると、関西と関東の蕎麦・うどん店の違いは、醤油と塩と昆布と鰹の利用配分だ。関西は昆布と塩、そして少量の薄口醤油がベース。関東は鰹節と醤油がベースということで、仕入れ値に占める率が全く違うのだ。結論として関西風のダシは関東の路麺のかき揚げには合わない。
さてそれではこの日本亭のかき揚げ蕎麦はどうだろうか。かき揚げ天蕎麦は480円、先の品川駅そばの店より150円も高い。が、そんなのが関係無いと思う完成度だ。
かき揚げは大きめのかなりいびつな形。ざっくりと切り分けたタマネギ片が多い。それに小エビが絡まり、フンワリとしている。蕎麦はいつものごとく若干柔らかいのだが、それが甘めのつゆに良く合っている。黄身を崩してかき揚げの上に塗り、蕎麦と共に口にすると、何とも懐かしく温かい味わいだ。どんなに不味いものを食べてしまった後でも口直しになる、安定した火力。 ちなみにこの店と、この店の麺の秘密を教えてくれたのは、前の会社の上司である辻さんという人だ。この人には仕事のことよりも「正しい日本のサラリーマンの飲み方」を教えてもらった。辻さんは希代の蕎麦好きで、この人に連れて行ってもらった新橋の名店にて、うどん一辺倒だった僕も蕎麦に開眼するはこびとなる。そのことも、いずれ書こう。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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