ほんとは教えたくないんだぁ 代々木上原「カストール」の珠玉の一品

2003年11月14日 from 首都圏

sirako.png なんと先日の洋菓子の記事にちょっと書いた、日本におけるガトーショコラの権威である代々木上原「カストール」のシェフである藤野さんから、コメントをいただいてしまった! これはやばいでしょう。手抜きできません。  ということで、今回はこの「カストール」を紹介させていただこう。でもなぁ 本音を言うとあまり紹介したくないんよ、本当に好きな店のことは、、、まあ仕方がないか。

僕はフレンチ大好きだが、本当に好きになった店はそんなに無い。カジュアルスタイルだったら代官山の「プティ・ブットン」、ゴージャスクラシックにこってりした鴨を食べるなら福岡は博多の「メゾン・ド・ヨシダ」などあるが、血眼になっていい店を探すというほどではない。だから、店に出会うときも、誰かに誘ってもらってということが多い。そしてこのカストールもそうだった。  僕をこの店に誘ったのは、この食い倒れ日記のWebを運用してくれているプロコムジャパンの社長さんである矢島さんだ。この人はMac関係のコミュニティでは結構有名な方。いろいろとお近づきになるので、ということで、食事に誘ってくださったのだ。僕が魚が好きだと言うのを聞きつけてくれたらしく、この店でということになった。  実はこのとき、正直言って「フレンチかぁ、、、」と、あまり期待していなかった。でもせっかくのお誘いだ。体調をフルに整えて店に向かった。代々木上原の駅から歩いて3分くらい。すぐ近くに小さな店が構えてある。ドアを開けると、綺麗で品のある空間が拡がっていた。

そして、ピンクのスパークリングワインで幕を開けたスペシャルコースの、とある一皿が、僕の五感を極限まで開かせた。その皿とは、、、

フォアグラとレンズ豆のテリーヌ ブリオッシュのトーストと イチジクのコンポート添えfoagura.jpg

この一皿が、2001年~2002年度における僕にとってのフレンチ部門のベスト・オブ・ベストディッシュである。角切りのフォアグラを中心に、甘めに煮付けたレンズ豆を周りに配し、ジュレで固めてある。その横に、なんとも魅惑的な玉子の黄身色の小さなブリオッシュにこんがり焼き目をつけたトースト。そして、珍しく白いイチジクのコンポート。直感的に、ブリオッシュの上にフォアグラのテリーヌとイチジクを少量のせて口に運んだ。

衝撃が走った。 フォアグラの、濃厚に拡がる旨味にレンズ豆の甘さ、イチジクの風味が重なる。しかしそれらの旨味と風味に立体感を与えているのが、ブリオッシュの香りだ。バターと卵黄の香ばしさと食感が、二次元的な味覚に縦軸を与え、立体的な小宇宙を現出させている。いや、オーバーに書いているわけではない。本当に背筋に何かが走る旨さだったのだ。甘さと深みと軽やかな香り。なんとも複雑な味の世界が、一瞬にして目の前にあったのだ。これは、中国の武威山の超高級茶である岩茶の大紅砲を初めて飲んだ時に感じたショックと同じだ。ほかの人にはわからないだろうけど、視界が狭くなるのだ

後でシェフとお話をした時に、やはりこの料理のキーはブリオッシュであるとおっしゃっていた。

「ブリオッシュはね、美味しく作ると、本当に美味しいんですよ。」

fujino.jpgつまり、美味しく作っているところがほとんど無いと言うことか、、、本当に僕は生まれて初めて旨いブリオッシュを食べました。まあとにかくこの一皿に出会ってから、この店に通うようになったわけだ。しかし当たり前のことだが、旨いのはこの一皿だけではない。

カストールの素晴らしいところは「安定感」だ。藤野シェフは、そのキャリアの中で自分の「型」をエスタブリッシュした方だと思う。彼の中では季節ごとの「旨いものリスト」があり、それをムニュに反映する。春は岩手のホワイトアスパラガス。冬の今ごろは鹿。12月後半くらいからは青森で獲れる野鴨。彼の素晴らしいのは、メイン食材の仕入を一般の流通ではなく、産地とピンポイントでしていることだ。この店の売りの一つであるホワイトアスパラも、岩手県のご高齢の農家さんから直接買っている。そしてジビエなんぞは猟師さんと綿密なコンタクトを取りながら調達しているのだ。だからこの店に冬に行くなら、迷わずジビエを食べることをお薦めする。本当に素晴らしいから、、、

kamo.jpg唯一僕が少し残念なのは、藤野シェフが素材の旨みを最大限に活かす調理をするため、濃い味好きの僕にはちとばかりオトナシイ味だということだ。しょっぱいと思うくらいに強い塩加減のソースでガツンと攻めて欲しいなとイメージをして一口目を食べると、ちょっと物足りなく感じることもある。

が、しかし。 不思議なことに、一口二口と食べ進めるごとに、舌の上に旨味が相乗されていくのだ。食べ終わる寸前にはいつも「なんと豊潤な味世界なんだ!」と唸りつづけてしまう。だから、やはり計算された味なのだ。ちなみに写真にあるのは野鴨だ。どうだ、この端正にして野趣にあふれるプレゼンテーションは、、、このソースは、こってり好きの僕のために、通常の澄んだソースに内臓を加えて煮詰めたものを用意してくれたときのものだ。これは絶品だった。

fish.jpg もちろん魚の仕事も素晴らしい。ここの名物である鰯のソテートマトソースも絶品だが、白身魚のソテーにブールブラン・ソースの組み合わせは、ベーシックな組み合わせながら感動してしまうほどに旨い。  藤野シェフは福岡出身で、玄海灘の新鮮な魚貝に囲まれて育った人だから、すごーくウルサイのだ。そんなシェフが魚料理で手抜きをするはずが無い。出来るだけシンプルなソースでいただくことが一番のポイントだと思う。写真の一皿は、、、うーむなんだったか忘れた。でもそーすはブールブランだったと思う。藤野さん、間違えてたらゴメン。

sweet.jpgさあそして女性にはお待ちかねのスウィーツである。藤野シェフの名声をとどろかせたのは、実はお菓子。先述のガトーショコラである。重くなく軽くもない、実直にして旨いガトーは、左党の僕でさえも旨いと思う。  写真の一皿は、たしか昨年食べた一皿で、チョコレートのパイ皮でホワイトチョコのクリームを挟んだ一品だ。どう考えても他所ではお目にかかれないゴージャスリッチな味わいに、後一歩で気絶しそうだった。同伴の女性も悶絶していたと言っておこう。

ちなみにコースのお値段などはお店のWebを見ていただきたい(ちなみに藤野シェフはパソコンマニアで、高速回線が店にも引かれているのだ)。ぼくは大体ワインを1杯程度しか飲まないので、12000円程度が普通だ。前菜、メイン、デザートのコースをとって、別に単品で食べたいものを一皿と言う感じ。量的にも十二分に満足する内容になっている。とくにジビエを頼んだ場合は確実に満腹になる。狩猟民族的に獣を食った!という気にさせてくれること請け合いだ。  それと、フォアグラや野鴨などは、必ずあるわけではないので要注意だ。

おお! 今、店のWebで秋のコースを見たら、すんげぇ旨そう!

================================= 20周年記念秋のメニュー

マム キュベ ナパ(食前酒)

さまざまな野菜とホタテ貝の魅惑のマリアージュ または 玄海灘で取れたフグにトリッフの香りをのせて

栗のポタージュ 栗のクルトン

知床で獲れたエゾ雌鹿のロースト 2つの香りをつけた人参 ソースポワブラード または 野鴨や野鳥のロースト ソースサルミ きのこと大麦添え(11月15日以降に新潟で獲れた物) または シェフ本日こだわりのお勧め料理 またはお魚料理

思い描くデザート

白または赤の銘柄ワイン

オレンジピールとコーヒー

\8,000円 =================================

これで8000円は安っ! いかなきゃ、、、

ああそうそう、この店のサービスもとてもよい。2名の女性がサーブしてくれるのだが、実にきめ細かく好感の持てるサービスである。  この店、ランチもやっている(僕は試したことが無いが)ので、もしお近くにお住まいの方が居れば、ぜひ試して欲しい。予約を取るときにはジビエがあるかどうか、旬のお薦めは何か、を聞いておくといい。藤野シェフの世界観を味わってみて欲しい。  そして、これが肝要なのだが、美味しかったら、ぜひシェフを呼んで直接感想を伝えて欲しい。その飾らない人柄とトーク自体も、御馳走なのだ。

シェフ、また行きますよ、、、野鴨、3週間くらい熟成させといてくださいネ。