2003年11月 4日 from 食材
鹿児島の産地から、島バナナが会社に送られてきた。島バナナをご存じだろうか?通常スーパーに並んでいるバナナより数段旨いと私が思っているバナナ品種である。こんなに立派な枝でお目にかかれるとは、幸福至極というものだ。
ご存じの方には釈迦に説法だが、我々がよく目にするバナナは、キャベンディッシュという品種のものがほとんどである。スーパーに普通に並んでいるアレである。フィリピンのミンダナオ諸島やエクアドルなどで栽培されている。台湾バナナはまた少し品種が違う。実はこのキャベンディッシュは、いってみれば栽培品種であり、品種改良の末に出来たものだ。ちなみにフィリピンなどの栽培地ではこのキャベンディッシュはほとんど食べられていない。完全に輸出用なのだ。キャベンディッシュも確かに旨いし圧倒的なシェアを占めているのだが、これだけがバナナではない。茶色っぽい色のモラードバナナやモンキーバナナなど、多種多様だ。そして純国産種といえるのが、島バナナである。といっても台湾や沖縄にあるものなので、純国産とは言えないかな。
はっきり言ってこの島バナナ、激・劇・激旨である。通常のバナナの3分の1程度の小さい実を剥くと、プンと香る甘酸っぱい匂い。ネットリとした果実は甘みと酸味があり、キャベンディッシュに比べると強い個性を感じる。そう、全ての点において強いのである。やはり規格化・大型化された栽培方法で作られているのと、沖縄や鹿児島で小規模に栽培されているのでは違うのだろう。 ではなぜそんな旨いバナナをあまり首都圏で見ないのか、、、それは簡単な話だ。本州に回すほどの量が獲れないのである。沖縄や鹿児島で栽培される島バナナは、収穫の季節が台風の季節と重なる。台風にやられると、パキンと樹ごと折れてしまう。そこでジ・エンドである。なもんで、収穫量は島の人たちで食べる分で終了なのだ。そういう部分もなんとも牧歌的なのだが、極めつけは熟成方法だろう。通常、輸入したバナナは青くて食べられない。食べると死にそうに不味いのだ(僕は食べたことがある。瞬間的に吐き出した。なんともいえない渋みとエグ味が口中に広がり、大変だった。)。それを「室(むろ)」とよばれる部屋に入れ、エチレンガスを噴霧し、一定時間吸収させる。それにより熟成が進み柔らかく甘くなるのだ。 しかーし、島バナナの熟成はというと、枝を適当な大きさに切って、タコ糸で縛り、軒先に吊るして置くのである。で、茶色い点々(シュガースポット)が斑点状につき出したら、食べごろ。それだけである。最高だ。ビジネスにはとてもならん。そこがいいのだ。
会社に届いた島バナナはまだ熟成の途上だ。けど、我慢しきれず一つもいだ。皮を剥き、アイボリーの果肉を齧る。爽やかな酸味とフレッシュな香りがパッと散る。そう、キーワードは酸なのだ。決して甘さではない。甘さをコントロールするのは酸味なのだ。さてこの島バナナ、食べごろになるまでこのままの姿でいられるだろうか?
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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