2003年11月 3日 from 日常つれづれ
さて、続きだ。門前仲町の会社で翌日の準備だけして、会社を出た。
ところで僕が人に誇れることと言えば、まずは食欲だ。その他にはそうそう自慢できることはないのだが、ことこれだけはというのがもう一つだけある。それは出会う力だ。32年の短い人生の中で、どうしても偶然とは思えない出会いや再会が多々あった。
そして今日、大倉正之助さんに再会した。
なんとなく、家に帰りがたい気分だったのだ。僕には珍しくファーストフードが食べたくなった。門前仲町のモスバーガーに行こうとしたら、その手前にフレッシュネスバーガーがある。そういえば沖縄でよく食べられているスパムをつかったバーガーが出たはずだと思い、こちらに急遽変更。入店して注文し、バーガーが出るのを待っていたのだ。そこに、革ジャン、皮パンツを履いたライダー風の男が入ってきた。その後姿で、僕にはわかった。振り向いて目が合ったときに「正さん」と呼ぶと、向こうもびっくりしながらも、「ああ~なんでだよ~」と握手。
大倉正之助さんは、破天荒な能楽師だ。大革(おおかわ)という、「カン、カッ」という高い音のなる鼓をご存知だろう。彼はこの大革の重要無形文化財総合認定保持者だ。が、彼の場合、肩書きで「へへぇ~」となる相手ではない。ものすごく型破りで面白い人なのだ。能の舞台のみならずジャズや民族音楽、クラシック等のミュージシャンと共演多数、革ジャンを着て舞台に上がり大革だけで独奏もする。ハーレーを駆るライダーでもあり、ケンタウロスというライダー軍団と、満月の夜には集会を開いて能を演じる。
しかし、
彼と僕との接点は芸能ではない。彼は一時期、能楽の跡取になるのが嫌で家を出ていたのだが、その時期、なんと伊豆で農業をしていたのだ!バイクに農具と野菜を積んで伊豆を走り回っていたのだ。しかも有機農業バリバリである。だから彼と僕が話す内容は、芸能のことよりも先に農業なのだ。無論、彼は農業の世界から能の世界に帰ったのだが、スピリッツは持ったままだ。
とにかくかっこいい人なのだ。
彼とは学生時代に出会った。僕は、実は芸を持っている。モンゴルやトゥヴァ共和国といった国々でよく奏でられている「ホーミー」または「ホーメイ」という歌唱法がある。いわゆる倍音を口腔内で発生させ、低い唸り声のような低音と笛のような高音を同時に発声し、メロディを奏するものだ。一頃CMなどで流れていたこともあるので知っている人も多いだろう。経緯は長くなるので書かないが、僕はこの「ホーメイ」の発声の数種類をできるのだ。で、よく乞われて人前でやったりしていた。渋谷駅でよく路上パフォーマンスをしていたひげ面のゴロさんと言う人と競演もしたりしていた。
そんなある日、とある人が大倉さんを紹介してくれた。いきなり家に行くと「ああ、今から山梨でイベントがあるんだけど、一緒にこない?」といわれ、その場で「行きます。」と、かばん持ちをすることに。実はそのイベントが世界文化デザイン会議というもので、かなり著名な文化人が集まるものだった。その一つの分科会で、大倉さんが大革を打つというのだ。それに適当について来い、ということだ。
行ってみてびっくりした。その分科会の座長は松岡正剛。ゲストにはなんと清水博。そして手塚治虫の息子の手塚眞やその細君(漫画家)。なんだかすごい面々なのだ。で、大革の演奏が終わってから、松岡正剛さんがおもむろに「そういえば本日は、倍音を歌う人がいるそうですねぇ」という。何も聴かされていなかった僕はギョッとしたが、そこでやらないのは男でない。ということでやったのだ。豪勢なパネラーと50人くらいの聴衆の前で、インチキホーミーを。ま、結果は大喝采だったが。
イベントが終わり、東京に帰る車の中で、彼が言う。
「山ちゃんさぁ、これからあるイベントの準備に入るんだけど,一緒にやらないか?」
僕はもう間髪いれずにこう答えた。
「いや、やることあるんで出来ないです。」
今から思うと、ここで「ハイ!」と答えていれば、何か人生は変わっていたと思う。明らかに彼は僕の答えを聞いてずっこけていた。ま、しかしこのときは学校内で畑をやっていて、重要な時期だったので、狙ったわけでも何でもなく、自然にお断りをしたのだ。
その後、彼のライブに行ったりして数回顔を合わせたが、ここ数年のあいだ、連絡はとっていなかった。それがまた再会できたのだ。嬉しい。
「今さっきまですぐそこのラジオ局で番組に出てたんだよ。8日にライブがあるから、おいでよ。招待するよ!その代わりバラシ(片付け)手伝って!」
もちろんいくしかないだろう。
そうだ、宣伝もしておこう。
■『飛天双〇能』
(日時) 2003年11月7日(金)・8日(土)
17:30開演(17:00開場)
(会場) 新木場スタジオコースト
東京都江東区新木場2-2-10
電話:03-5534-2525
営団地下鉄有楽町線、JR京葉線、りんかい線 「新木場」より徒歩4分
(演目) 大鼓独奏 能「山姥」
新作能「一石仙人」(2日間共通)
正さんが笑いながら言った。
「バラシ手伝ってもらいながら、ホーミー聞かせてくれよ」
お安い御用だ。久しぶりに練習をしておこう。
こうして久々の出会い・再会があったのだった。濃い一日だった。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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