2003年11月28日 from 首都圏
先日来、代々木上原のフレンチ「カストール」の記事には「やまけんもフレンチ食べたりするんだぁ」という反応ばっかりである。そうなのだ僕だってフレンチ大好きなのだ。
で、この店もなんと20周年を迎えたとのことで、スペシャルコースが登場した(残念ながら11月一杯で終了とのこと。間に合って良かったぁ)。これを食べ逃したら一生後悔するだろう。しかもジビエが届く冬だ。ということで万難を排して行ってきた。
代々木上原駅から歩いてすぐ。こぢんまりとして落ち着いた店内にはいるとシェフが、
「ホームページ見てますよ。」
と迎えてくださる。
そういえば僕が「青森の真鴨」と紹介していたのは「新潟」の間違いであった。シェフにご指摘頂いたのでここに謹んで訂正させていただく。
いつも気持ちよくサービスをしてくれる浅利さんと椎名さんがメニューを説明してくれる。
先回も掲載した20周年のスペシャルコース、こういう布陣だ。
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20周年記念秋のメニュー
・マム キュベ ナパ(食前酒)
・さまざまな野菜とホタテ貝の魅惑のマリアージュ
または
玄海灘で取れたフグにトリッフの香りをのせて
・栗のポタージュ 栗のクルトン
・知床で獲れたエゾ雌鹿のロースト 2つの香りをつけた人参 ソースポワブラード
または
野鴨や野鳥のロースト ソースサルミ きのこと大麦添え
・思い描くデザート
・白または赤の銘柄ワイン
・オレンジピールとコーヒー
\8,000円
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という超お値打ちメニューだ。(繰り返すがこの価格でのサーブは11月末日までである。)
僕は前菜にホタテ、連れはフグとする。そしてメインだが、鹿か鴨かの悩ましい選択をすることになる。鴨を頼む場合は、1匹を2つに割る都合上、偶数の顧客がオーダーする必要があるのである。だから、鴨にする場合は2人共に鴨だ。本日は鹿か鴨かの択一というわけだ。
が、まだ鴨は熟成がそれほど深くないという。
「今日は山本さんに出せる鴨もあるけど、それでも10日目くらいだね。」
と、熟成中の鴨とまだ落としたての丸の鴨をバットに入れて持ってきてくださる。うん、熟成の進んだ鴨の方が濃い色味で旨そうだ。でも、僕はやっぱり20日間は熟成させてトロトロとした味になったものを食べたいので、また鴨を食べに来ることにして、今日は鹿を選択した。ちなみに鹿はほぼ一ヶ月くらい熟成させたものだそうだ。鹿も真鴨も、どちらも漁師から直接取り寄せた完全な野生の獣だ。真のジビエである。
さて
コースが始まった。そしていきなり本日のクライマックスがやってきた。
■さまざまな野菜とホタテ貝の魅惑のマリアージュ
かねてから思っていたのだが、この店では前菜だけが少し印象的に弱かった。僕は前菜が大好きで、前菜が旨ければ全て佳しとなるという傾向がある。
ところが、本日の前菜はとてつもなく素晴らしいものだったのだ!色とりどりの温野菜。ズッキーニの薄切り、深紅のビーツ、銀杏、ピンクの大根、ムカゴにフレンチドレッシングを浸みさせたものなどが散りばめられた中、ソテーされたホタテと半ドライトマトのソースとバルサミコのソースが合わせられている。この大胆にして繊細なデザインは、野菜使いの最近の流行である。サービスの浅利さんによれば、ウインザーホテル洞爺にオープンしたフランスのシェフ、ミッシェル・ブラス氏の店で受けた素晴らしい影響が、この前菜に現れているそうだ。しばらく前からフランスでは狂牛病のあおりも受けて野菜ブームになっており、著名なアラン・パッサールも野菜専門の店「アルページュ」を出すなどしている。僕の仕事的にみても非常に嬉しい流行なのだが、カストールのこの皿には、流行とは全く別物の見事な技術が凝縮されていた。野菜の一品一品の特性に合わせた味つけが施されており、驚きと共に味わった。特に、むかごを半割にしドレッシングで和えたものが、小さいのに強く印象にのこるものだった。ホタテにも、半ドライトマトのソースとバルサミコの二種のソースが合わせてあり、酸がホタテの横に拡がる旨味を際だたせている。このひと皿のためにまた来よう、と思った。
■玄海灘で取れたフグにトリッフの香りをのせて
連れが頼んだもう一つの前菜も少し食べてみた(行儀わるくてスミマセン)。フグの前菜は藤野シェフが得意とするところだ。酢漬けの紅芯大根(中心が赤い大根。酢に漬けると、赤の色素が溶け出し、全体が赤くなる)の薄切りを下に敷き、表面をあぶったフグの切り身を載せ、そこにフグの骨のスープをジュレにしたソースと、ブロッコリのソースを載せている。更にマス(だと思うんだけど)の薫製も添えられている。
こちらは前菜らしい前菜。ただ、素材の味を活かす藤野シェフの方向性は素晴らしいのだが、僕にはひと味たりないのだなぁ、、、そのキーワードはやはり「酸」だと思うのだが。紅芯大根と一緒にフグを口に運ぶと非常によいが、それを最初に説明した方が良いかも知れないな、と思った。女性はきっと、パーツごとに食べてしまう人が多く、フグはフグだけで味わってしまうだろう。そうすると、フグの旨味が平板な二次元のままで、のっぺりとした印象しか残らない。横に拡がる旨味は酸と出会って3次元になるのだ。大根と一緒にいただくとこれは上々なひと皿だ。
これを読んだ人は2人以上で行って、行儀悪いけどこっそり皿を交換して、二種味わってみてください。素晴らしいです。
■栗のポタージュ 栗のクルトン
さて秋の味覚、栗の旨味が凝縮されたポタージュだ。これも昨年いただいたものよりもコックリ旨味が深く、美味しく感じた。栗とタマネギ、鶏のフォンとのことだが、非常に濃厚。カップ一杯のこの料理の存在感はデカイ。ドンブリ一杯欲しいと言ったら怒られるだろうなぁ。
■知床で獲れたエゾ雌鹿のロースト 2つの香りをつけた人参 ソースポワブラード
そしていよいよメインである。写真を見ておわかりの通り、ここのジビエは非常に気前よく盛りつけてくれる。鹿も、200gくらいはあるのではないか。しかも、ロースの部位を
「大きめの2片はロースト、小さいのは同じ部位をソテーにしています。」
とのこと。同じ部位なのに料理法で全く味が変わるので、お客がびっくりするそうだ。果たして口にすると、全く違う味わいだった。ローストはオーブンで熱を通した後にベンチタイムを置くためか、やや落ち着いた味である。熱がじっくりと通っていくからだろう。肉汁もしっとりとなじみ、上品な味わいだ。対してソテーは、表面のコゲも強めで旨味が濃く、内部はミディアムレアでとろりとした感触。味はソテーの方が濃く感じるのだ。しかし、鹿特有の香りが立つのはローストだ。肉汁が落ち着いているせいか、肉を噛みしめ、立ち上る獣香の強みはローストのほうが上だ。うーむ どちらも旨い。
そしてこれまた付け合わせのニンジンが最高に旨い。クミンと八角風味で煮付けたものと、さっと火を通してある薄切りの二種だ。野菜使いがやはり一枚変わった感じがする。これでもっと味の濃い野菜を仕入れられれば、もっと存在感の強い付け合わせになるだろう。ニンジンなどの根菜は特に栽培方法によって味が左右されるからだ。唯一の死角は、肉に添えられた生のクレソンだ。通常の市場にある栽培品だろう、味も香りも薄く清涼感が感じられない。口を洗うには静岡の安部川流域などの清流に自生しているものがベストマッチと思うが、、、これは都内のレストランでは叶わないので仕方がない。残念だ!
とはいえそんなのは重箱の隅をつつくようなもので、全体としては完成されすぎたひと皿だ。ジビエではあるが、初心者にもまったく抵抗無く受け入れられるだろう。まず今の季節は鹿。そしてもう少し寒が深まってきたら鴨を食べる。これ以上の至福はないだろう。
■パン3種
この店はパンも自家製で素晴らしく旨いのだが、今日はこれまでのイーストとは違う種での仕込みのパンが出た。中に緑豆を入れた丸パンは、いつもよりしっとりとした感触で好ましい。無論、これまで通りの小型カンパーニュっぽいパンもあり、僕は大満足だった。
■思い描くデザート
さて、第2のクライマックスは実はこのデザートだった。運ばれてきたのは、セルクルで整形されたチョコレート地の円柱に、バニラアイスが乗ったものだ。これにナイフを入れると、、、
中に仕込まれていたオレンジ風味のチョコトリュフが熱く溶けたものが溢れだしてくるのだ!このチョコケーキ地と熱いチョコソース、そしてバニラアイスが渾然となったものを口に運ぶ。甘いものがそれほど好きではない僕でも、思わずため息がでる美味しさだ。もうこれは説明できないな。本当に素晴らしい!前菜とこのデザートだけでも行く価値あるな。
この状態からナイフを入れると、、、
こうなるのダ!ちっとわかりにくいか!
このチョコデザートの仕込みをしているのが、サービスの浅利女史だ。浅利さん、マジウマでした。
メインの安定性はもうわかっているので、今回はとにかく前菜とデザートにサプライズであった。この二皿は激賞したい。ちなみに20周年記念コースの料理自体は来月も続くらしいのだが、ビックリ価格の8000円(これでワインも付くのだ)は11月一杯、つまりこの週末だけだ。もしこの記事を見て旨そう!と思ったらすぐに予約の電話を入れた方が良い。
僕は12月中か年明けに鴨を食べに行きたいと思っている。20日以上熟成させたやつが食べたい。ソースは酸味を利かせた濃い目のものがいいな。もし一緒に行きたいという人は連絡ください。でもワリカンだぞ。今から楽しみだ、、、
最後に藤野シェフ、20周年おめでとうございました。また行きます。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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