2003年9月 7日 from 首都圏
5年ぶりにまさみさんに会う。まさみさんは、僕が大学時代にやっていたヨガの先生である。ヨガというと、「身体が柔らかくなる」とかいう安易なイメージが流布されているが、そんなものではない。準備運動が腕立て伏せなどから始まり、強烈な体位(アーサナ)をとって内蔵に刺激を入れ、一定の呼吸を行うことでエネルギーを回していく。そうすると日常的には入らない刺激が身体の各部に入り、活性化していくのだ。僕はこのまさみさんのクラスに5年ほど通っていた。
5年ぶりに会うきっかけは、彼女が出版した本を購入したからだ。「本気の扉」というその著書は、これまでも彼女から聴いていた話に、最近の彼女の境地が綴られている。人生に希望をもてない人や、何かしらブレイクスルーを必要としている人に紹介したい、インパクトの大きな本だ。何せまさみさん自身が、重病を煩っていたり、大きな問題を背負っていた人で、そこからヨガを通じて問題を克服してきたという歴史があるから、ものすごい説得力がある。
5年ぶりに会う彼女をもてなすために、今僕が最も自信を持って人を招待できる店、門前仲町の寿司「匠」に連れていく。ここではいつも最初から握ってもらう。一つ一つのネタが真剣勝負である。
■寿司「匠」(門前仲町)
生まぐろ大トロ
あいなめ
いしがき貝
白イカ
金目鯛の昆布〆
ミル貝
コチ
白エビ
バフンウニ
生いくら
大トロ炙り
日本酒:るみ子の酒(三重県、純米酒)
まさみさんは「全部美味しい!」と言ってくれた。あまり量を食べない彼女だが、平らげてくれて僕も嬉しい。今日は特にウニとイクラがよかった。匠では、ウニを軍艦巻きにはしない。勿論海苔でウニの香りが消えてしまうからだが、それにはウニの吟味が必須だ。ここのバフンウニは、ミョウバン液に漬けていない本物のウニなので、口に入れたとたんにとろける。濃厚なクリーム、と言っていい。最高なのだ。それとイクラは、今年度産の生イクラの初物だそうだ。イクラの初物なんて初めてだが、本当にフレッシュな風味で、いつも食べているのはやはり塩蔵品なのだな、と感じた。今日は板前の加藤ちゃんが張り切ってくれて、いくらは通常の軍艦の上に桂剥きの胡瓜を巻いてくれ、目にも涼やかだが口にするともっと涼しく風流な香りが通り過ぎた。文句なしだ。これだけ食べて、ビールと日本酒を楽しみ、1人6千円以下なのだ。築地・銀座を含めて今最も推薦できる寿司屋だ。
寿司をたっぷり堪能した後、近くにあるバー「オーパ」にてカクテルを楽しむ。
久しぶりにまさみさんに自分の甘い部分を指摘される。
「今いる場所、環境で自分を深めて行かなくちゃ、別の環境に移ったって同じことの繰り返し。3年かかて深めてきたことがまた最初からやりなおしになるから、薄っぺらいまんまよ」
「組織や人との関係をきちんと作っていくことに向き合っていかなくちゃ」
久しぶりのまさみさんの言葉は、誰よりも思いやりを感じる。やはり自分の背骨を自分で矯正するにはまだ未熟だ。こうやって観てもらうことが必要だと再認識した。
最後の一杯はマティーニ。ゴードンのジンとノイリープラットのベルモットでドライに。ここのバーテンダーのエース格の兄ちゃんのマティーニは魔法のように滑らかで旨い。最後にレモンピールを絞る手つきは本当に手品師のようで、まさみさんが目を丸くして見つめている。
「なにあれ、おまじない?」
レモンピールの説明をすると、嬉しそうに「お洒落ねぇ、、、」とうっとりしてくれた。本当にお世話になった女性にこうしてご馳走させてもらえることがこんなに幸せなことだとは思わなかった。また招待しよう、と思った。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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