早いもので、バー・オーパ門前仲町店の水澤君が劇的な優勝を飾った昨年の全国バーテンダー技能競技会から一年が経った。あの大会のレポートは、僕のこれまでの食い倒れ人生の中で、自己ベスト5に選びたいと思えるものだ。競技会の緊迫感、水澤君との関係性、色んな意味で忘れることのできないイベントだった。
偶然にも、先週インデアンカレーを食べまくった大阪出張に、福岡で今年の大会が開催された。翌日の夜に西垣内に連れられて行ったバー「Besso」のマスターが今年の大会で準優勝をしたという偶然があり、昨年のことを懐かしみながらカクテルを楽しんだのであった。
そういえば、、、
「やまけんさん、そろそろ世界大会に出品する創作カクテルが完成します!」
と、オーパ門前仲町店の水澤君が2週間前に言っていたのだ!
そう、今年の大会が開催されたことで、水澤君は晴れて「前・チャンピオン」ということになったわけだが、実は今年、本番が用意されている。昨年度チャンプは、10月に開催される世界大会に出場することになっているのだ。
その出品創作カクテルができあがっているはずだ。覗きに行ってみようではないか。
ここのところ、週の前半の平日にいっても混んでいることが多いオーパ門仲店。混んでるのはいいんだけど、テーブル席に座る人がうるさく騒ぐことが多いのでちょっと困る。バーでは静かに会話して欲しいなぁ。と思うのであった。門仲にはいいバーはここしかないんだから、、、
水澤君に「できてる?」と訊くと、ニマっと笑って「出来てますよ~、ただ、デコレーションだけ、素材の関係で、出来ない部分もありますが、、、」とのことだった。何でもいい、とりあえず出してくれ!
世界大会では、出場者を大会運営者が各部門に割り振る。つまりテーマが上から決められるのだ。水澤君がエントリされたのは「ファンシーカクテル部門」
「ファンシーっていっても、よくわからないんですよ、、、日本の意味と海外の受け取り方も違いますし、、、昨年以前の傾向をいろいろ研究しないといけないんです」
と言っていたわけだが、果たしてどういうカクテルにしたのだろうか。しばらく前までは、デコレーションにとある果物を使い、針金でビヨンビヨンはね回るようにするとか色んなことを考えていたのだが、、、
と思っていたら、何やらカウンターの下でこね回している。団子みたいなのを作っているのだ。なんじゃそりゃ?
シェイクをしたのでショートカクテルになっているのだが、一体どういうのがくるのだろう。シェーカーから注がれたそのカクテルは、濃いピンク色、粒状感のある物体が浮かぶものだった。最後に柑橘系のピールを絞って完成。
「やまけんさん、これが出品カクテル『ウィンター・ジャーニー』です!」
ふふふ、なるほど!皆さんお分かりだろうか、グラスの左底になにか物体がくっついている。
そう、雪だるまである!ウィンター・ジャーニーというタイトルだけに、クリスマスムードで攻めているのか。たしかに大会が開催されるのは10月後半なので、丁度良いと言える。
「これに加えてスターフルーツなどをカットしたもので彩りを添えます。」
なるほどなるほど、では味はいかがなものだろうか、、、
カクテルグラスを鼻先に持ってくると、ブラッドオレンジのような爽やかに甘い香りが漂っている。最後に絞ったのはオレンジピールか。しかし、この傾向なら、カクテルの味としては良くあるものだな、、、
と思いながら一口啜った。
ん?
んん?
んんん?
なんだこりゃあ!?
香りと味が全然違うではないか!
口中に拡がったのは、完熟したベリー類の甘やかな濃い香りだ。オレンジ香は鼻孔から感じられるものの、口に含んだ本体からは苺の香りと甘さのほうが伝わってくるのだ。
「な、なんだぁ? 香りと味がコントラストになってるよ!」
と僕がビックリした顔をすると、水澤君がふふふと笑いながら解説をする。
「通常、カクテルの世界では、見た目と飲み口と香りが大きく変わってしまうのはいけないとされるんですが、そのギリギリのラインで攻めてみました。最後にするオレンジピールとご推察の通りブラッドオレンジの果汁の香りがしますが、中身は苺のソースとグランマニエをベースにしたものです。ファンシーカクテルにはグランマニエを使用することが規則になっているのですが、お酒はグランマニエだけです。実は40°もあるアルコールなので、それだけで結構酔いますよ。」
なるほど、なるほど! いやちょっと度肝を抜かれてしまった。
最近、再三に渡り僕が読み返している本に、山本益博さんの「エル・ブリ 想像もつかない味」がある。
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この中で語られるエル・ブリの感動は、まさに「観ただけではわからない」感覚を裏切る楽しさとの出会いから生まれている。僕はまだエル・ブリの料理を食べたことがないけれど、、、
これは、料理の世界も現代美術のように、単に五感で味わうだけではなく、頭脳にもある種の刺激を入れることで楽しませるという方向性が入ってきていることを表している。そう、考えながら食べるのが楽しい世界というのがあるのだ。
水リンのこのカクテルの香りを味わい、そして液体を飲んだ時に鮮やかに感じた味と香りのギャップは、まさにこの世界を感じさせたのだ。これはちょっとすごいカクテルだと思う。
しかし、予想通り非常に甘い!
なんで予想通りかというとわけがある。
「この味は賛否両論でした。日本人の口に合うあっさりめのカクテルにするか、世界大会の主流であるヨーロッパ・アメリカの舌に合わせた、甘さと香りの強いものにするか。私は今回、世界の味覚で勝負しようと思い、この味に決めました!」
そう、カクテルの本場では、カクテルは総じてもっと甘くて濃いものらしい。そこに、日本人バーテンダーがこれまで大会で入賞できなかった理由もある。自分たちが美味しいと思うカクテルでは入賞できないのだ。
で、12月に開催された水澤君の祝勝会席上、お客さん代表として僕はこう言ったのだ。
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「先日、カツマタさんが世界大会で、味では2位という高得点を獲りながらも、全体では惜しくも破れてしまいました。実は野菜についてもそうですが、日本の素材の味は大陸のものとは違い、非常に細やかな味です。それを判別し味わえるように日本人はできています。だから欧米人には、日本の野菜の味が薄いと感じられる人も多い。
さて、先日オーパで呑んでいたら、水澤君としてはヨーロッパで受ける味にするか、それとも自分ら日本人が美味しいと思うカクテルで勝負するかで悩んでいました。
僕としては、ここは世界で勝つ味を選択して欲しい。 なぜなら、勝った人間にしか言えないことがあるからです。世界で優勝して、その席上でぜひこう言って欲しい。
『あなた方が飲んでいるカクテルは実は日本人の繊細な舌には合わない。我々はもっとデリケートな、こういう味を好んでいるのだ!』
と、世界に知らしめたい! そのためにも水澤君、勝ってください! 」
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ということで、この水澤君の選択を100%支持したい。
ちゅうことで、これからオーパ門仲店に行った時に、所望すればこのカクテルを出してくれるはずだが、無茶苦茶甘いのでご注意を。これが世界の味なのかなぁと思いながら楽しんでもらえればいいのではないかと思う。
世界大会は10月19日~25にちの旅程で、フィンランドのヘルシンキで開催される。僕ももちろん和服を着て参加するつもりだ。もしヘルシンキの旨いもの情報があれば教えて頂きたい。
ちなみにウィンター・ジャーニーとは、シューベルトの楽曲だそうだ。僕は聴いたことがない。今度CDを買っておこうと思う。
そうそう、雪だるまのマジパンはもちろん食べられる。マジパン団子を食べながらカクテルを飲むと、なぜか甘さが薄らいで飲みやすかったことを追記しておく。
Posted by yamaken at 2005年06月26日 18:28 | TrackBackはじめまして、いつもブログみさせていただいています。
突然失礼かもしれないのですが少し気になる事がありまして。
シューベルトの冬の旅はなんとなく暗い感じの曲だったような気がするのですがその辺はカクテルの雰囲気にどうなんでしょうか?一度聞いてみてください。
(ファンシーってのとあうのかなあと。)
初めての書き込みながら出すぎたまねかもしれませんが僭越ながら意見させていただきました。
最後になりましたがこれからも頑張ってください、ヤマケンさんの大ファンの農学部の学生でした。
Posted by: umemura at 2005年06月27日 13:43はじめまして、ブログ、興味深く読ませていただいています。
ヘルシンキは、行っても友人の家に泊まってしまうのでレストラン等は知らないのですが、食べ物としてはトナカイを試してみてください。あと、ピンク色のサラダとか、ピンク色のドレッシングがあったらぜひ。ビーツをベースにしたものなのですが、北欧各国でよく見かけます。
あと、これもフィンランドだけではないのですが、ベリー類のジャムもおもしろいです(甘い物はあまり得意ではいらっしゃないようですが…)。日本にも入っているようですが、無難なのはリンゴンベリーのジャム。あと名前がわからないのですが、みかん色っぽい色のベリーは、味もちょっと癖があっておもしろいかもしれません。これは北欧独特のものなのか、ドイツまで下がるとまず見かけないです。
うむ、確かに外国のはアマアマと聞いたことがありますなあ。NYで修行した、あるバーテンさんによると、味よりスピード!とのことでソーダガンを使ったりして。日本のお店でソーダガン使っていて美味しいとこなんか有りますか?
後、ウィンタージャーニーとは『冬の旅』と訳され、シューベルトのピアノ伴奏の歌曲だったと思います。
「冬の旅」(D911)作品番号89
F・シューベルト作曲/ウィルヘルム・ミュラー作詞
全24曲
ドイツ歌曲の入門として最初に聴くなら、日本語の解説が付いている国内盤が良いでしょう。
歌手は・・・①ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)②ヘルマン・プライ
(バリトン)③ペーター・シュライアー(テノール)などが無難だと思います。
現役で歌っている歌手ではマティアス・ゲルネ(バリトン)や、珍しいものはナタリー・
シュトゥッツマン(アルト)という女声が歌っているものもあります。
僕の個人的な趣味はフリッツ・ヴンダーリッヒというテノールで、この人の「詩人の恋」を
初めて聴いた時の衝撃はいまだに忘れられません。ドイツ語の響きはちょっと硬いと感じたら、
ジェラール・スゼー(バリトン)というフランス人の歌手のものもいいかも!
オーパのカウンターの写真のCDはトム・クラウゼ(バリトン)のものですね。
クラウゼ=喰らうぜ!? やまけんにはいいかも???^^
ドイツ歌曲の真髄はまさに「考えながら食べるのが楽しい世界」の音楽版で、
耳から入ってきた情報(音)だけでは理解できないものがある。
「冬の旅」はフラれた男の物語で(曲が始まる前に既に振られている・・・)、最後は主人公は
死んでしまうし、24曲中の殆どが短調(マイナー調)だし、おまけに冬だし、一般的な感覚
では「暗い」と感じられることが多いのかもしれないけど、歌い手はそういう曲を
「ホントはそれだけじゃないんだよ!!!」と、音や詩のセンテンスから掘り起こして歌っているんだと
思う。まさに水リンの言うところの「ギリギリのライン」だねっ!
オーパ行って見たいなあ!!!
ではでは、
追伸:「出張食い倒れガイド」食堂に一冊差し入れときました^^
Posted by: あつろう at 2005年06月28日 00:45三年ほど前の「dancyu」だったと思いますが
フェラン・アドリアのインタビュー記事を掲載していて
その中で、ローズマリーを持って香りをかぎながら食べる料理や、バラの花をそばにおいて飲むカクテルといったものが紹介されていました。
無二路で開かれたパスクワリーノナイトでのこと
メインの仔羊を、ソース付きの「完成された皿」ではなくオーブンから出したままの状態で食べさせていただいた。
(食べたりなげにしていた僕に、
やまけんさんが気を遣ってくださったのだ)
「これほどの肉は塩だけのほうがうまい」
という確信はあった。
しかし、それはある種「想像を超えた味」だった。
てらてらと光るロゼ色の肉がねっとりと舌に絡みつき、
皮めはぱりっと香ばしかった。
ふと、草原を吹き渡る風を感じた。
私は草原にいて気持ち良い風に吹かれていた。
大好きな爺さんが赤々と燃える火で仔羊を焼いてくれる。
僕は腹ペコで、部屋中に漂ういいにおいに
もうまいっていた。
そして「さあ、最高のご馳走だよ」
「ゆっくり自然に感謝して味わいなさい」
そういわれているような気がした。
「うおおおおおお!うんまーい」と思う一瞬にこれだけのイマジネーションが沸いてくるのだ。
まさに「頭脳に刺激」一発 ! だった。
僕にとって「食べること」ほどイマジネーションを
かきたてられることは無い。
はじめまして。はじめての書き込みです。
水澤さんのカクテルおいしそ~う。
私、今イギリスに留学中ですが、こっちの甘~くてフルーティーなカクテル大好きです。
それにしても、においと味が違うなんて、意表をついていて受けるかもしれないですね。やっぱり世界大会は人と違うことをしないといけないんでしょうね。ああ、すごいなぁ。
ところで、マジパン雪だるまだんごもおいしそうですし、ものすごく良いアイディアなんですが、ヨーロッパの人の感覚からすると、白い方が受けるんじゃないかなぁと思って書き込んでいます。雪だるまがいるところのまわりにも粉砂糖を振り掛けるとか?日本だと雪だるまも茶色くてもOKだと思うのですが、ヨーロッパ人は明るい色を好むし、何せ茶色い雪だるまを見て白い雪だるまを想像できる日本人の美意識(?)とは違って、ちょっと泥んこがついた雪だるまとそのまんま解釈してしまうんですよねぇ。
というわけで、とっても余計なお世話ですが、世界大会頑張ってくださいね。応援しています。日本に帰国したらお店にも寄らせてもらっちゃおうっ。
Posted by: alice at 2005年06月28日 03:36雪だるまかわいいですね(*^_^*)
和菓子に使う“氷餅”を砕くと、
フワフワした雪みたいに見えたりします。
雪だるまの上にちょっと置いたら良いかも…
私も昨日、いただきました♪そうそう、味と香りにが違ってびっくりしてしばらくクンクン香りを嗅いでました。
確かに甘いです。
欧米の味と日本人の味覚、難しいですよね。
さつきちゃんも9月にウォッカのコンテストに出るそうなので、そっちも楽しみ♪
なるほど。シューベルトですか。イメージは冬だけど、「暖かさ」というのがあるものというコンセプトで作られたカクテルなのですね。想像するに。
Posted by: らっぱー at 2005年06月29日 04:55みなさん情報ありがとう!
そうか、ウィンタージャーニー、やはり聞いてみます。
ヘルシンキ情報、トナカイか!絶対に食うぞ。