この日記でもレビューしているが、蒲田近辺に隆盛を誇る「インディアン」という店がある。なんだか混乱しそうだが、大阪「インデアン」や帯広「インデアン」とは違い、「インディアン」である。供するモノも違う。ラーメンとカレーなのである。この店でそのどちらか片方だけを食べる人というのは、まずいない。ラーメンとカレーを食べることに最適化された味なのだ。
とりあえず初めて耳にする方は、まず僕の過去ログを読んで頂きたい。
インディアンの本店は、東急池上線で蒲田の隣駅「蓮沼」を降りたすぐのところにある。その噂は耳にするものの、僕はこれまで蒲田西口店と、池上駅近くにある類似店(どうやら支店というわけではないらしい)にしか行ったことがないのだ。これは片手落ちというものだろう。あのこだわり抜いた味を創り上げた張本人が居る店に行かずして、インディアンは語れないのであった。で、いつものように髪を切りに行ったついでに、池上駅からとなりの蓮沼駅まで歩いていくことにしたのであった!
蓮沼駅の改札を降りてすぐのところにあるインディアン。外見はこれだ!
このように幼児を連れた親父が並んでいるところをみても、地元民に愛されていることが見て取れる。程なく入店すると、そこには眼光するどい親父がいるのであった。この方が武田さんであろう。
時折ちらっちらっと店内に鋭い眼を走らせるのだが、これは別に客に睨みを利かせているというわけではない。インディアンでは、ラーメンかカレーの片方だけを頼む客はほとんどいない。ほぼ全ての人が、ラーメンとカレーを頼む。その場合、まずラーメンが出てくる。それを半分以上たべたところで、カレーが出てくるのだ。このタイミングには意味があるらしく、確かにこの順番で食べると、非常にそれぞれの個性が際だつのだ。店主のチラッチラッという視線は、このカレーを盛るタイミングを計る視線なのだ。
さてこの店の品書きがこれだ↓
これをみたら、だれしもラーメンとカレーの両方を食べたいと思うだろう。お腹に自信のない人は、ラーメンと半カレーのセットにすればよいのだ。とにかく、この両方を食べないとこの店を味わったことにはならない。
さて僕は当然ながらラーメンとカレーのセットを頼む。店の大将の他に、奥さんらしい方が皿を運んでいる。厨房の奥には若い女の子が皿洗いなど下働きをしている。どうやらこの女の子は娘さんらしい。時折大将を「お父さん」と呼ぶのでわかったのだが、この娘に対する態度が実にご立派なのだ。皿を洗っている娘さんに対して、静かに平静な口調で、
「その皿、洗ってくれる?」
「もう洗ったけど?」
「もう一回洗って。」
とダメ出しをしているのだ。怒るでもなく、淡々とダメだし。娘も口答えするわけでなく、皿を洗い直す。親子の絆の中で、プロ意識を叩き込んでいるのだろうが、この平静さ、実に素晴らしいと思った。いずれ僕もこんな親子関係を築きたいものだ。
さて自分の娘以外に向けるまなざしもことのほか優しいことに気づいた。先に入店した幼児2人が、キャッキャッと騒いでいるが、大将の顔色は変わらない。そして、何も言われなくともピンクとブルーの子供用茶碗を出した。そして、皿の温め用の寸胴にスッと入れて、若干で引き出した。そう、この店ではラーメンとカレーの皿は、温め専用の寸胴に張った湯で極限まで温められる。運ばれてきた時に触れないくらいに熱くしてくれるのが、この店の素晴らしい特徴なのだ。ていうかまず、温め用の寸胴鍋でコンロを一つ占有しているのがスゴイではないか。しかし、2人の子供のための茶碗は、若干温めただけで引き出している。子供に熱い茶碗は危険だからだろうが、なんだかこういった細かい気遣いをみると、この大将の人格がしみじみと浮き彫りになるように思うのだ。
と思っているとラーメンが出てくる。
スープはもう完全に魚貝系オンリーの味である。しかし旨味は実に実に濃い。塩分が控えめなので、それがまたスープの旨味と魚ダシ香を際だたせている。みてくださいこの透明度の高いスープを!
麺は中太で若干のちじれが入っている。チャーシューはホロホロに煮込まれたロースで、薄めのスープと対極的に味が濃いので、このチャーシューをかじりながら麺を啜るのが絶妙のコンビネーションなのである。ほうれん草もいい味だしていて、具と麺とスープのマッチングは最高である。
ひとまずは一心不乱にラーメンを啜る。そして半分以上食べたところで、カレーが運ばれてくるのである。
非常に濃い茶褐色の外観が、味の奥深さをそのまま表現している。この店を訪れ、初めて口にした人が一様に驚くのが、その「苦み」である。焦げる寸前の極限までルーを炒めこんでいるらしく、強いほろ苦さと香りが鼻を抜けるのだ。しかし、旨い!強烈な感覚に目覚めた後は、多くの人がインディアンマニアになってしまうほどに旨いのである。
そして、このカレーを食べながらラーメンのスープをすする。これが絶品なのである。ラーメン単体でいただいていた時のスープの旨味に、スパイスとルーの香ばしさが混ざり、全く違う味世界が口中に現出されるのである。ここからはカレーを食い、スープをすすり、の繰り返しになる。
うーむ
実に旨かった! やはり本店の味は、まったく隙がない。 一点気になったのは、店内に魚貝系のヒネ香がしていたことだ。サバ節などの素材がちょっと酸化したような香りだ。スープをとった後の滓が醗酵してしまっているのかと思うが、これはあまり褒められたものではない。
ま、しかしそれは些末なことだ。大将の細やかな気配りは、どんなに人気店になってもペースを崩さない一徹さがみてとれる。その意識は娘さんにも伝わっていることだろう。
またいくぞインディアン!おいらもマニアになりました。
Posted by yamaken at 2004年02月16日 23:13 | TrackBack「ラーメンとカレー」という組み合わせを聞いた時には、「???」という感じでピンとこなかったんですが、写真を見て、味を想像してみると
すごくおいしそうで食べてみたくて仕方がない!行ってみます。もちろん半カレーじゃなくて1,150円のやつで!
初めまして!東京都北区在住のshinと申します。
ネット検索しているうちにこのサイトに辿り着きました。
過去ログ見ましたが、やまけんさんの
食に対する情熱と愛情に脱帽でございます。
さて、インディアンカレー。北区の王子にも存在するのを
御存じでしょうか?なんでも蓮沼の先代の兄弟が始めた
お店だとか。私はまだどちらのインディアンも食べた事は
ないんですが・・・(大阪のインディアンは食べましたよ!)
こんな感じのお店です。
http://www5a.biglobe.ne.jp/~toukatu/indean-ouji.htm
食い倒れオフ羨ましいですねぇ。参加してみたいものです。
shinさん:
王子にもあるんですか!それはぜひ行ってレポートを!
やはりインディアンの系列は、店によって微妙に味が違うんです。蓮沼周辺に3店ありますが、すべてそれぞれの傾向があります。
ところで私も間違っていたのですが、大阪のほうのは「インデアン」です。「インディアン」ではないので、ご注意を。
shinさんはどちらがお好きですか?
本城愼之介のサイトから辿り着きました。
蓮沼のインディアンには8年ほど通っています。正鵠を
得た「支那そばとカレー」の印象を読んで思わず書き込み
いたしました。あの店は創業者の方が「武田」さんで元は
資生堂パーラーの料理人だったそうです。武田さんが30年
あの場所で営業して隠退を表明した時に現在の店主の永岡さん
(日比谷の東京會館の洋食部門の料理人だった)が創業者の
武田さんから「腕と舌と心構え」を認められて引き継いだ
と言う経緯があります。それで看板に「武田流〜」の名称
があります。引き継いでからもう20年近くになる筈です。
支那そばのスープの出汁の「塩味加減」を春夏秋冬の四季の
温度によって微妙に調節しているところが気に入っています。
8年ほど通ってますが、味の品質を維持し続けている努力に
毎回感服しています。札幌や函館でもあれほどの塩味系の
麺類に今まで1度もお目にかかったことがありません。
↓本城愼之介さんの敬称が抜け落ちていましたので
慎んで訂正いたします。やまけんさんのブログの
写真は鮮明ですね。今連載中のシチリアの報告も
おもしろいですねぇ〜。現地に行きたくなるほど
毎日読むのが楽しみになっています。