以前にも「現在東京で一番旨いと思う蕎麦屋」として紹介した出羽香庵が入っているのは、地下鉄虎ノ門駅からすぐのところにある三井ビルの1Fにある「山形プラザゆとり都」だ。ここは、山形県の特産物を直売している、いわば県のアンテナショップだ。
山形の郷土食は、首都圏で余り知られていないと僕は感じている。実は山形県は非常に特殊な食文化を持つ地域だ。枝豆と小茄子に関する美意識は、おそらく日本で一番と言える民族(?)が山形県民であることは間違いないと思う。枝豆は一世を風靡した「ダダ茶豆」クラスの枝豆品種がゴロゴロしているのだ。なすについて言えば、山形の人にとって、よく関東でスーパーに並んでいるサイズのなすは「収穫し忘れてでかくなってしまったナス」なのだ。そう、やはりナスも小さい内が味が濃いので、彼らは贅沢にも小茄子を標準としているのだ。
そんな山形の食文化に触れるために非常にいい入り口がこの山形ゆとりプラザだと言えよう。常設されている販売コーナーでは、関東では通常手に入らない食材が豊富だ。赤カブに代表される漬け物類に始まり、向こうでは標準的に食べられている充填豆腐、珍しい加工納豆である塩納豆や南蛮納豆、蕎麦だけではなく麦キリなど、バリエーションに富む乾麺類、そして納豆汁の素や打ち豆、乾燥山菜などなどなど、ここに挙げるのも難しい。
常設コーナーの他に、季節毎にたつ企画コーナーがある。ここではラフランスなど旬の商材が並ぶのだが、ふと立ち寄ると、秋の味覚であるキノコ(茸)が並んでいた、天然ではなく栽培ものだが、それにしても通常の栽培品とは趣が違う。そう、山形は山菜特に菌茸(きんたけ)類の宝庫なのだ。300g程度で300円~380円と安い。普通にスーパーで売ってるものとは違い、傘をほぼ開ききったナメコと、独特の質感のクリタケを買い求める。となりにあった辛味大根(50円!)も買う。帰り道で和牛コマ肉を買った。
帰宅後、茸は石突を取り割き、葱と牛肉と一緒に鰹出汁で煮込み、濃い目の盛りづゆにする。別鍋で低アミロース麦を原料にした乾うどん(これは国立作物研究所の所長さんにいただいたものだ)を茹で、もちもちとした食感を得られる12分にざるにあげ、冷水で洗う。これに、同じく山形の辛味大根おろしと葱を薬味に、一気にきのこうどんを啜るのである。一口すすってすぐ、口にきのこの出汁と香り、旨みが広がった。その後、ヌメリとしゃっきりの入り混じった歯ごたえが感じられる。思わず鍋にもう一束、うどんを追加してしまった。
きのこのシーズンは長くない。虎ノ門周辺に居る方は一度いってみて欲しい。