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2003年09月13日

石川杜氏と「バードコート」へ行った

(一つ前のエントリから続く)

 さて、森下の名店「山利喜」から北千住に移動。その昔、ヘンリー・ミラーの小説「北回帰線」をもじって「北千住回帰線」なるパロディを書こうとしていたことを思い出す、、、

 北千住はバリバリのダウンタウンだが、目指す地鶏焼き「バードコート」は、銀座にあっても不思議のない店だ。超有名人気店なので、知っている人も多いだろう。銀座の名店「バードランド」で修行していた野島さんが独立して開店したのがここ「バードコート」なのだ。
 そしてもう一つ縁がある。今夜いっしょに飲み食いしている「竹鶴」の杜氏である石川達也さんは、大学生の頃に無名時代の「バードランド」で働いていたことがあるのだ。

「いやあ、あの頃のバードランドを知っている人間からしたら、頂点に駆け上がるのは時間の問題だって思えるよ。当時からそれだけの価値がある店だったよ。一流の店になることを目線に置いていたから、最初から目指すところが違っていた。」

 そして「竹鶴」も今や地酒界のスターになっている。すごい縁というものだ。今から伺うバードコートの野島さんとは一緒に働いてはいないとのことだが、店には「竹鶴」が置いてあるという。北千住の駅前をしばらく歩くと、以外に周りにとけ込んだ風情で店がある。入店すると、もうギュウギュウに人が詰められている。その中で2人分、焼き手の野島さんが炭火に向かっているリングサイドの席に通される。

 驚いたのは、決して広くはない厨房内に立ち働く人が6人と多いこと。サービスは野島さんの奥さんの千寿子さんが一人で担当している。厨房内では、焼きの一瞬も逃さぬ緊張感に満ちている。野島さんが霧吹きで串に調味液を振り、備長炭にかざす。串は最適な温度(すなわちアツアツ)のまま、即座に客の前に並べられている。スペシャルリングサイドにいるので、僕たちには直接焼き手である野島さんから皿を出して頂く光栄。
nojima.JPG
■バードコート (北千住)
豆腐
地鶏刺身
砂肝の煮こごり
自家製レバーペースト&パン
豆腐の味噌漬け
地鶏焼き(7~9種)
親子丼
鶏雑炊

酒: 小笹屋竹鶴(雄町12BY)
    神亀(12BY)

 ちなみに地鶏は大好きで、色々食べてきた。宮崎の地鶏料理が好きで、常に地鶏の腿焼きとタタキを食べたいがために養鶏農家と友人になったこともある。最近最も旨いと思ったのは、駿河若シャモ。このシャモ、生産量が少なすぎて出回らないのだが、これを岐阜の料亭の友人に紹介したら、鶏嫌いの板前が「旨い」と言っていた。いや、ま、つまり「俺は鶏にはうるさいんだぞ」と言いたいのです。スンマセン。ちょっとやそっとではビックリしないよ、と思いながら席についていたのである。ちなみにこのバードコートで仕入れているのは、奥久慈シャモという地鶏だ。これは初めていただく。
 で、最初に結論を言うのもなんだが、、味わううちに、このバードコートは、焼き鳥としていただく店ではないと思った。同様の意見は多数の方がもたれているようだが、極めて洗練された地鶏創作料理の店と言った方がいいと思うのだ。

 まず驚嘆したのが前菜で出てきた砂肝の煮こごり。煮こごりのゼラチンが無色なので、醤油で煮ているのではないことがわかる。薄塩のガラスープで軽く煮て、そのまま冷やしているのだろう。しかし異様に大きな砂肝である。噛んでビックリ、ちまたの砂肝によくあるジャリ感が全くない!レバーと一緒に付いてくる肝の感触のような、もっちりした歯触りなのだ。独特の香りも押さえられていて、上品極まりない。色々食べてきたけど、こんな砂肝は初めてなんである。
nikogori.JPG
これは当然、串のほうも旨かろう、、、と思っていると、すごいのが出てきた。デカイのである。鶏は今まで自分でもさばいてモツを観てきたが、こんなにでかい砂肝は初めて観た。もちろんデカイだけではなく旨い。噛むと、表面の軽い焦げがカリッとしたクリスピー感を出しているものの、後はスーッと歯が通る柔らかさで、ジュワッと肉ジュースが染み出してくる。これは文句なしに旨い、、、
 この砂肝の印象が強く残ったのだが、他にもソリ、ペタといわれる、滅多に出てこない部位や、適度に脂を落としてこんがりと焼いたボンジリなど、貪るようにいただいた。首肉の部分は、そのシコシコした食感と濃い味に涙が出そうになった。
sunagimo.JPG

 総じてこの店の串はあっさりと塩味で食べさせる形式だ。鶏に脂が乗ってはいるものの、それをしつこく感じさせない調味をしている。最後のつくねはタレと黄身で食べさせるが、僕にはもう少し下品でもいいかなと思う上品さだった。勿論、その上品さは味を損ねるものではない。一本の文脈としては完全である。
tsukune.JPG
 〆は親子丼と雑炊。親子丼は、これも非常に上品な味。コースの流れの〆として、一つの完成形を体現しているのは確かだ。

 タップリ頂くと、周りのお客さんはみな帰り、石川杜氏と僕、そして野島さんご夫妻と店の人たちとでの語らいが始まってしまった。野島さんが、静かに石川杜氏をリスペクトしている様子がよく伝わってくる。とても実直な語り口でにこやかに話される。一流の人間に共通する、あの謙虚さが確実にある。

「僕は知識がまったくないところから出発してますから。色々教えてください。」

とんでもない話である。僕のことを石川さんが紹介してくれ、野菜の話になる。

「焼いて美味しい野菜ってのを色々試したいんですけど、なかなかいい農家さんに出会えないんですよね、、、」

そういう話ならば得意である。いろいろとご紹介することを約束する。とてもよい出会いをいただいた。勘定をお願いしようとすると、受け取ってくれない。石川さんに付いてきてバカ食いして、ご迷惑をおかけした。本と野菜を送らねば、、、

 店をでて、我々の姿が見えなくなるまで見送ってくれるスタッフの皆さん。いい店だ、、、きちんとお返しをしようと心に決めた。

 最後に石川杜氏、どうもありがとう。また飲みに行こうネ。

Posted by yamaken at 2003年09月13日 22:17
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